有本 昂平/企業ビッグデータとビジュアライゼーション

Data Visualization Japan Meetup 2020(2020年12月28・29日開催)における、有本 昂平さん(帝国データバンク 総合研究所)の講演です。企業データを使ったビジュアライゼーションの事例を紹介します。


こんにちは、帝国データバンクの有本と申します。本日は「企業ビッグデータとビジュアライゼーション」というテーマでお話しさせていただきます。これまで私たちのチームで取り組んできた企業データを使ったビジュアライゼーションの事例をいくつか紹介させていただきます。

自己紹介

帝国データバンクの総合研究所に所属しております。企業で8割方働いていますが、兼任という形で東京大学 情報学環の研究員横浜市立大学の非常勤講師もやっております。

専門は主に情報可視化です。情報可視化にもいろいろありますが、その中でもネットワークデータの地理的な可視化や、ビジュアルアナリティクスと呼ばれる可視化分析のところに注力しています。

帝国データバンクについて

創業1900年で、今年が120周年にあたる年です。従業員は3,300名で、だいたい半分が企業調査や営業を行うメンバー。もう半分が、集めてきたデータをデータベース化したり、分析したり、記事を書いたりするメンバーです。Yahoo! などで見かける企業の倒産ニュース、ああいう記事を実際に執筆しているメンバーもいます。

企業のリアルタイムな情報を集めるため、事業所が全国に83カ所あります。47都道府県くまなくあり、多いところでは1つの県に複数の支店があります。実際に調査員が足を運んで企業を見て調査し、データを集めています。

そうして集めた情報が企業信用調査の報告書です。1社ずつ40〜50ページあるような報告書で、そうした情報を使った信用リスク管理サービス、データベースサービス、マーケティングサービスに取り組んでいます。

総合研究所

データを使ったビジネスを考えようということで4〜5年前に創立された新しい部署です。メンバーは10人ほどで、企業ビッグデータを活用した経済・経営観測指標の分析を行っています。チーム内は研究チーム/データエンジニアリングチーム/ビジネスチームの3つに分かれています。

研究開発の枠組み

① 社内のメンバーで研究する

プロジェクトに関係のありそうなテーマ、今後ニーズが生まれそうなテーマを設定して、自身が中心となって研究活動をしていく。

② メンバーが博士課程・修士課程の学生として研究する

私自身も2014年に首都大学東京の博士課程に入学して、社会人学生として研究活動と業務の二足のわらじで取り組んできました。こうした取り組みは社内への知識の吸収を促進する効果が生まれてきていると感じています。

③ 大学の先生との共同研究

メンバーが10人と限られているので、先端的で TDB のデータとうまくマッチしそうな研究をしている大学の先生との共同研究も推進しています。いろいろな分野の先生方と組むことで、TDB のデータが生み出すものの範囲や可能性を高めようという背景もあります。

これは TDB の特徴かもしれないのですが、共同研究において大学側だけで進めてもらって定例的な進捗報告を受けるのではなく、メンバーも積極的に参画しているものが多くあります。こうすることで大学側の先端的な技術を吸収しつつ、研究段階からビジネス的な出口を考えて進めることを意識しています。

形としては、研究室と1対1の一般的な共同研究と、複数の先生に入っていただいて複数テーマを並行実施する共同研究講座の2つ。長いものでは東京工業大学さんと、共同研究を4年ほどやった後に共同研究講座を設立し、そこから6年ほど継続しているものもあります。

可視化については、東京工業大学の先生、東京大学の渡辺先生北海道情報大学の伊藤先生と一緒にやっていただいております。

データエンジニアリング

データホルダーという立場の会社として、データの前処理にかなり力を入れています。社内でのプログラミング研修を実施してデータエンジニアリング人材の育成を推進していますし、コロナ下でも研修ができるよう教材のオンライン化や動画講義の作成も行っています。

またデータサイエンス教育普及の一環として、データの前処理に関する実践的な講義にも取り組んでいます。最近新設されているデータサイエンス学部などを中心に複数の大学から依頼を受けていて、実務における前処理の役割にフォーカスした実践的なプログラミング授業を行っています。

大学からのインターンシップも受け入れを始めました(今年はコロナの影響でほとんどなかったのですが)。学生にデータを使う現場を体験してもらうことで、これからの研究開発や就職活動に役立ててもらう、という活動です。

クイズ ― 日本に何社あるか

前置きが長くなりましたが、本題に入ります。

皆さん、日本国内に何社くらいの企業があると思われますか。

総務省と経済産業省が発表している2016年の経済センサスによると、日本国内の企業は約186万社あるとされています。想像より多かったのではないでしょうか。

ですが実は、TDB が情報収集できている会社は、経済センサスが発表している企業数の約40%にすぎません。

「なんだ、全然把握できていないじゃないか」と思われるかもしれませんが、把握できていない残りの60%の多くは、街にある個人商店のような BtoC の小規模事業者です。

実際に**全企業の売上高を合計して経済センサスと比較すると、TDB のデータは約95%の水準をカバーできています。**売上高の多くは大規模企業が占めるので、お金の流れを把握するという点では TDB のデータも引けを取らないと自負しております。

企業間取引ネットワーク

企業と企業の、モノやサービスによる取引関係というつながりで繋げていったものを、企業間取引ネットワークと呼んでいます。

  • ノード=企業
  • エッジ=取引

数えてみたところ、約580万取引が存在することが分かりました。これは「この企業とこの企業が取引をしている」という内容なので、同じ企業同士の毎回の取引は数えていません。

数理的な特徴としては、スモールワールド性スケールフリー性という2つのネットワークの特徴を持っていることが分かっています。

このように複雑につながっているデータから、企業活動を俯瞰的に把握するのは非常に困難という問題があります。そこで様々な可視化で企業活動の把握に挑戦してきました。

事例① RESAS プロトタイプ

政府が地方自治体の取り組みを情報面から支援することを目的に、2015年に RESAS(Web で閲覧できるアプリケーション)が公開されましたが、そのプロトタイプ版です。

プロトタイプなのでWeb で動作するという技術的な制約がかなり少なく、グラフィカルで機能的なものになっています。

棒グラフ・円グラフ・折れ線グラフといった既存の手法に加えて、地図上での3D表示や時間軸の設定を実装しています。タイムスライダーで時間軸を変更することも可能です。

大まかな全体イメージを捉えながら、シームレスに詳細部分に踏み込んでいくビジュアライゼーションを目指しました。

全体と部分、抽象と具体という2つの異なる視点をスムーズに往来できるシステムにするため、プロトタイプでは画面を大きく左右に分割しています。

  • :地図上にデータの全体像
  • :ツリーマップなどのグラフで詳細情報。企業一覧やフィルタリング機能も

右脳的な把握と左脳的な把握を高速に行き来できる仕組みです。これによって、ユーザーが目的を持って情報を探すこともできれば、逆に全体を俯瞰する中からふと気づきを得ることも可能になります。

ビッグデータは、その情報の膨大さから全てをロジカルに把握することが難しい。全体を捉えることが可視化の役割になっているのかなと思います。

このプロトタイプで、地域経済活性化というシリアスな問題に対して、データの可視化技術やデザインが大きな貢献を果たしうることを示せました。グッドデザイン賞も受賞させていただきました。

事例② LEDIX(地域未来牽引企業の可視化)

LEDIXLocal Economy Driver Index の略です。2017年に経済産業省が選定した「地域未来牽引企業」を、TDB のデータベースを用いて可視化した Web サイトです。

地域未来牽引企業とは、地域経済の中心的な担い手であり、サプライチェーンの要となることが期待される企業です。毎年選定されています。

この可視化では、各都道府県について——

  • 域外から受注してくる企業群(=お金が地域に入ってくる取引)
  • 域内に発注する企業群

たとえば広島県呉市にある中国木材という会社が、同じ広島県内に発注する取引が青色の線で示されています。地域未来牽引企業が地域経済にもたらす波及効果を、地図上でグラフィカルに表現することを目指しました。全部で300社ほどを取り上げています。

Web 上で企業を選択すると、域外からの取引が灰色の線、域内へお金を流す取引が青色の線で描画されます。そして真ん中あたりに等高線のようなものが見えるのですが、これはその地域のどのあたりにお金を振りまいているかを表現したものです。どの地域が特にこの企業から影響を受けているのかを読み取れます。

企業固有のマークを生成する

同じアプリケーションの中で、地域未来牽引企業の特性を表現するために、同じデータベースから算出した指標を用いて企業固有のマークを生成しています。

地域未来牽引企業は6つの指標を組み合わせて選ばれていて、「域外からの取引が多い」「域内への貢献度が高い」といった様々な特徴があります。そうした特徴を高い一覧性で表現するために、マークを構成する曲線を生成するアルゴリズムを作りました。

先ほどの画面は1企業にフォーカスしたものですが、各企業ごとの指標の大小を特徴的なアイコンにすることで、複数の要素からなる企業特性の比較の障壁を低くすることが可能になりました。

具体的に分析するには少し目的外かもしれませんが、企業同士の違いがよく見えてきます。また企業データという少し堅苦しいものに、アクセスしてくださったユーザーに少しでも興味を持ってもらうための可視化を心がけて公開しています。

事例③ サプライチェーンの階層構造の可視化

ここからは研究的な事例です。

企業コードを左側のフィルタに入れると、その企業の取引構造を地図上に可視化するアプリケーションです。

これは愛知県にある上場自動車メーカーで、どういうサプライチェーンの構造を持っているかを地図上に可視化したものです。自動車メーカーは部品をいろんなところから集めるので1万以上の取引ネットワークを持っているのですが、それを分かりやすく表現しています。

取引の量をエッジの色で表現しています。

  • :取引が増えている
  • :取引が減っている
  • :新しく発生した取引

企業の活動は日々刻一刻と変わり、取引がなくなったり新しく発生することは日常茶飯事に起こっています。そういうダイナミックな企業のつながりを少しでも分かりやすく表現するためのアプリケーションです。

事例④「トラネコ」― サプライチェーン分析ツール

これは今回初めて対外的に発表するものです。去年このワークショップで登壇された日本大学の先生と取り組んでいるプロジェクトで、階層的なデータを可視化するツールです。社内向けに作っています。

TDB のアナリストに「取引の階層構造を分析する上で、どういう目的でどういう手順で分析したいのか」をヒアリングして、可視化分析アプリケーションを設計・実装しました。

企業を入れると、検索から解析までシームレスに統合してスムーズに分析ができるようにしています。

**このプロトタイプのすごいところは、580万ほどある取引を全部探索するのが非常に速いこと。**データ探索からレンダリングまで高速で、上場企業のような大規模ネットワークを持つ取引でも可視化できます。

各パーツ

ノードリンクダイアグラムの部分は、force-directed アルゴリズムに階層性を組み込んだ新しいアルゴリズムを採用しています。これによって数百から数千単位の規模でのサプライチェーンの可視化を可能にしています。

私たちが「エコシステム」と呼んでいるのは、頂点となる企業から階層的な構造を作り上げ、その階層(ティア)ごとに何社あるかという構成を見るもの。売上高による分類も見られます(これはまだ試作段階です)。

そして——ある企業だけにフォーカスすることは少なく、たとえば自動車会社なら日産やマツダといった似た企業と比較することが多い。そういう比較画面も用意しています。

2つ比較するとかなり違った構造を持っていることが分かります。一番上が起点となる企業で、そこから一次・二次・三次という階層性を持つ。階層ごとの企業数に違いが出ていることも読み取れます。

さらに細かく見るために売上高のランキングを右側に表示できるようにしています。

ユーザーのニーズに応じてどういう UI を設けていくか、プロトタイプのバージョンを上げながら可視化を作っていくというところに取り組んでいます。

事例⑤ 倒産シミュレーション(ガイアの夜明け)

今年7月に放送された「ガイアの夜明け」で使われたものです。

各都道府県が緊急事態宣言の対応として様々な休業要請を行い経済活動が抑制される中で、多くの企業の「売上蒸発」が顕在化してきました。ここで言う売上蒸発とは、様々な業種で需要や需給機会が消失することで、売上を上げることができない状態のことです。

倒産リスクが拡大するのかを把握するため、売上高の減少と現預金残高、持続化給付金に絞って倒産分析のシミュレーションを行いました。

これはコロナ発生当初に作ったものなのでシミュレーションもざっくりしていますし、「政府が何も手を打たなかった」という一番悪いシナリオのものです。

見ていただくと、東京・大阪・名古屋という首都圏を中心に増えていることが分かります。2021年1月・2月になるとどんどん増えていき、そこから全国に広がっていくシミュレーションになっています。

首都圏は存在する企業数が多いという要因もあるので、地方にフォーカスして、国内の市区町村ごとに見た事例もあります。3月を起点として15ヶ月経った後——来年5月頃にどういう自治体が危ないかをシミュレーションしています。

経済政策が何も打たれていない時のシミュレーションなので数値的にはかなり悪い結果が出ており、実際はもっと改善しているはずですが、**経済にかなりのダメージが来ていることが読み取れます。**危ない自治体の中には、その割合が60%を超えるようなところも出てきていることが分かりました。

事例⑥ V-RESAS

内閣府が2020年6月に公開した、新型コロナウイルス感染症の日本経済への影響をビッグデータで可視化するサイトです。

地方公共団体、金融機関、商工団体の方をターゲットに、感染症が地域経済に与える影響を適時適切に把握することで、観光関連施設や社会基盤を維持し、収束後に地域経済を再活性化する政策を打ち立てる支えになるツールとして使っていただくことを目的・背景としています。

V-RESAS の「V」は「経済のバイタルサイン」——Vital の頭文字を取って名付けられました。刻々と変化する経済の状況を可視化するという意味が込められています。

人流、消費、飲食、宿泊、イベントなど多様なデータを鮮度高く高頻度に更新して提供しています。私たちはこのプロジェクトの一員として、様々なデータベンダーさんと一緒に統括し、プロジェクトマネジメント的なところをやってきました。

サイトの中身

人流、消費、飲食、宿泊、イベント、興味関心、雇用、企業財務といったカテゴリーのデータが入っています。

今表示されているのは今年12月7日〜13日の前年比です。**人出が去年に比べてかなり減っている。**東京は26%減、北海道19%、大阪15%。最近は広島なども10%以上減ってきていて、日本全国で減っているのが顕著です。

これは前年同週比で比較するのがこのサイトのポリシーなのですが、来年になると「前年同週比」ではコロナ中との比較になってしまうので、2019年比という形で可視化していくことになります。

  • 移動人口:緊急事態宣言の後から一気に落ち込んでいる
  • 宿泊者数:減ってはいるが、GoTo キャンペーンの影響で自然に増えてきている
  • イベント:減ったまま、今でもマイナス60%ほどで推移
  • 人流:代表観測点として、駅ごとに今何%減っているかを読み取れる
  • 消費:クレジットカードや POS のデータで、業種別・地域ブロック別に消費動向を読める。POS は品目別で、たとえば**プレミックス(ホットケーキミックスなど)が増えている。**4月の緊急事態宣言中は200%を超えるようなものも
  • 飲食店:Retty のデータを使用。カテゴリー別・地域ブロック別に閲覧数の増減が見られる。緊急事態宣言中はガクンと落ちて少しずつ回復し、12月はまた減っている。第3波の影響
  • 興味関心:Yahoo! のデータで、どのカテゴリーの用語がよく調べられているか。これまでテレビを見る回数が少なかった方が、家にいる時間が増えて検索するようになったことも読み取れる

データの更新日が「12月28日」——今日なんですねと出ているように、鮮度高く高頻度に更新していくのがこのサイトの特徴です。

先週リリースしたばかりの「人流速報」では、昨日15時時点の駅ごとの人流を見ることができます。第3波の影響で各自治体の知事から自粛の行動要請が出ている、その効果が見えてきているのかなと。

ちょっと新潟が多いのですが、これは推測ですが先週・先々週に新潟で大雪が降って外出する人数が減っていたことも影響しているのかなと。前週比なので、その分が上振れて見えているのかもしれません。

今日も15時時点のデータが21時頃に更新される予定なので、もしよければこのウェブサイトもぜひ見ていただければと思います。

まとめ

このように、複雑につながっている企業ビッグデータを可視化することで、企業活動の把握に挑戦してきました。

2014年頃から取り組み始めて、RESAS や社内的なツールをやってきたのですが——**世の中にデジタルジャーナリズムのようなものを伝えていく中で、私たちも企業の実態や提言ができるようなものをウェブサイトにどんどん公開していきたい。**そこを来年の私自身の目標にしていきたいなと思います。

以上で私の発表とさせていただきます。ありがとうございました。

Built with Hugo
Theme Stack designed by Jimmy