大友 翔一/人工衛星データのビジュアライゼーション ― 経済指標との関連、および観光経済への応用

Data Visualization Japan Meetup 2020(2020年12月28・29日開催)における、大友 翔一さん(静岡大学 客員准教授/慶應義塾大学 共同研究員)の講演です。人工衛星が観測する「夜間光」を経済指標として使う研究を、日本の事例を交えて紹介します。


本日はこのような発表の機会をいただき、誠にありがとうございます。「人工衛星データのビジュアライゼーション ― 経済指標との関連、および利用事例としての観光経済」に関して、大友が発表させていただきます。

自己紹介

ファーストキャリアは実は JAXA でして、この頃は並列計算機の構築やシミュレーターの開発をしておりました。

著書としては、オープンデータを使った地図の作り方、日経ビッグデータでビッグデータの可視化といったものに取り組ませていただきました。東京電力に勤務していた時には、電力需給の予測や災害対策地図などのビジュアライゼーションにも取り組んでおりました。最近の論文では医薬品の需給予測も行っています。

「節操なくあっちこっちに手をつけているな」と思われたかもしれません。「で、あなた一体、専門は何なんですか」と。

まずは顔と名前を覚えていただければと思います。大きなデータのお友達で、ビッグデータの大友。覚えてください。

メイントピック ― 夜間光で経済を測る

人工衛星のデータを使って経済の指標を考えてみたいというのが本日のメイントピックです。

**「夜間光」とは何か。**人工衛星から撮像された、地上の光の画像です。この写真を見ると「なんとなく見たことがある」という方も多いかと思います。

先行研究 ― Measuring Economic Growth from Outer Space

これは実はもう論文が出ています。ヘンダーソンら「Measuring Economic Growth from Outer Space」——American Economic Review という非常に格の高い論文誌に載っています。

彼らは衛星データ、特に夜間光を使って、インカムグロース(GDP の値)を測ることができるのではないか、統計的な判断枠組みとして用いることができるのではないかと主張し始めました。

そしてこの夜間光を使った統計判断の枠組みが、既存のマクロ経済統計——日本でいう国勢調査のようなもの——にいずれ取って代わるだろうとまで主張しています。

なぜか。アジアの通貨危機、ルワンダの虐殺、マダガスカルの金鉱山など、様々な社会的・経済的ショックの前後で、夜間光がそれと連動していたことを示しているからです。

特に、複数国にまたがる領域において夜間光を使う統計枠組みの優位性を語っています。

日本人の類似研究 ― 倉田先生(上智大学)

倉田先生はバングラデシュの事例を用いています。

近年、人工衛星によって観測される世界各地の夜間光の強さが、国内総生産(GDP)などのマクロ経済指標と強い相関関係を持つことが明らかになっており、経済発展の代理変数として夜間光データを利用する実証研究は増えています。

この論文では、バングラデシュのような低所得国・途上国における夜間光データの汎用性を確認しています。

**行政区レベルの光の強さが、人口・雇用・インフラといった基礎的なデータとかなり強い相関がある。**それだけでなく、貧困、成人の教育水準、児童の健康状態など、人的資本に関するものとも統計的に有意な関係がある。

もっと簡単に咀嚼して言うと——途上国一般においては、明るいところに全てが集まってくる。

明るいところは教育水準が高い。雇用がいっぱいある。失業率が少ない。仕事が多い。経済的に豊かで、生活の基礎インフラが充実している。いわゆる「富の偏在」が、この明かりから分かるわけです。

なぜ夜間光が便利なのか ― 為替レートを考えなくていい

複数国をまたぐときに一番便利だと言いましたが、これは為替レートを考えなくていいからです。

本来 GDP の国際比較を行う際には、まず為替レートを考えなければならない。さらに商品の価値の問題があります。**その国の文化的背景によって、この国では肉が食べられる/食べられない、鶏肉の質が良い/悪いといったことが、隣国同士でも宗教的・文化的背景に依存して全く違う。**それでも「GDP の比較品目だから」ということで、そのまま規格に寄せられてしまう。

これが統計的判断枠組み(statistical framework)を使う際の不便な点として、経済学者から長く疑問を投げかけられていました。

夜間光を使えば単一の指標で行えるからいいよね、というのがヘンダーソンの主張であり、倉田先生も補足しています。また途上国におけるデータの品質に左右されないことも大きなメリットになります。

日本の場合はどうなのか

ここからは現在査読中の論文の1本目です。まだ通っていないので公開されていないのですが、今日お集まりの皆さんにはご視聴いただけるということで。

日本の夜間光はこうなっています。やはり世界各地と同じく**都市部が明るい。**東京を中心とした関東圏、大阪・京都を中心とした関西圏の明るさが目立ちます。北海道なら札幌のあたり、東北なら仙台、そして福島のあたりが少しずつ明るいのが見て取れます。

これを市区町村ごとの平均値に均して地図にすると、迷彩模様のようになります。数値のグラフで見ると、**大都市圏が大きく伸びている。**千代田区、文京区、新宿区、台東区、そして大阪——大都市部が明るいことが数表からも明らかです。

小売店・飲食店とは強い相関

コロナで、補償するしないなど様々な産業が話題の対象になりました。そこで——**小売店、飲食店、商業事業所、百貨店は夜間も営業しています。**当然、夜間光の強さに大きく影響を与えるはずです。

上から順に小売店、飲食店、商業事業所、百貨店・総合スーパーの値ですが、**R² が 0.7、0.68 とかなり強く出ています。**p 値も 0.001 と低い。

R² や p 値と言われても分からないという方も、このグラフを見れば「明るくなるに従って、この線上に乗っているよね」ということが確認いただけるかと思います。

医療とは、ほぼ無相関

次に医療従事者・医療設備と夜間光の相関です。

コロナに伴う緊急事態宣言の対応は都道府県ごとに行うことになっていて、市区町村ごとの感染者数や医療リソースの逼迫が話題になりました。ただし一般的に、医療サービスは地域間の格差が望ましくないサービスとされていますし、世論調査を見ても国民の大多数がそう考えているようです。

ここで注目していただきたいのは、先ほどのグラフと比べて、回帰線に対して点がまばらになっていることです。

**相関係数はものすごく低く、0.16 とか 0.17。**つまり——明るいところだからお医者さんがいっぱいいる、病院がいっぱいある、というわけではない。

なぜか。厚生労働省が出している「人口10万人対 医師・歯科医師・薬剤師数」というデータを見ると、人口10万人に対してなるべく等しくなるように医療従事者が配置されていることが分かります。

薄いグレーの線が全国平均です。**一番多いのは東京ですが、では2番目は大阪なのか、人口が多く明るい神奈川や埼玉なのか——違うんですね。**神奈川の人口10万人あたりの医師数は平均より少なかったりする。明るさとは関係がない。だから相関がほとんど出なかったわけです。

上下水道 ― 日本ではほぼ問題にならない

非水洗化エリアの人口と比率を見ると、明るいところはもちろんゼロで、暗いところほど上下水道が整備されていない。

とはいえ、一番整備されていないところでさえ、人口に対して1%以下なんですね。日本においては、上下水道が整備されていないエリアは市区町村レベルで見ても最大1%以下であり、ほぼそんなことはない、ということが見て取れます。

平均賃金とは、ゆるい相関のみ

明るさと平均賃金の相関を見ると、極めてゆるい相関はあるのですが、特筆して「明るいから収入が高い」というわけでもない。

明るいけれど回帰線より所得の少ないエリアもあれば、逆に回帰線より暗くても比較的平均賃金の高いエリアもある。傾向としてゆるい相関は出るけれど、決定的にはならない。

まとめ ― 日本に特有の結果

海外の事例と比べて、これは日本に特有かなと思うのがこの結果です。

  • 医療や上下水道といった公共インフラ・社会インフラとは、極めてゆるい相関、もしくはほぼ無相関
  • 逆に、小売店や飲食店の店舗数とは強い相関

これは何かと言うと——いわゆる「一億総中流」と言われた時代の日本経済の大きな原動力です。

みんなが平等に等しく豊かになれた時代の原動力は、基礎的な生活インフラとしての医療、公共インフラとしての上下水道などの全国的な充実によるものであったと言えるかと思います。これが夜間光からも明らかになった、というのがここまでのお話です。

応用 ― 新潟県南魚沼郡湯沢町の事例

次は論文の2本目、現在投稿中・査読中のものです。

夜間光を使って、新潟県湯沢町の事例を考えてみようということになります。群馬と新潟の境のところですね。スキー場があるところです。

いかにもバブルという感じの映像だったと思いますが、スキー場が有名だったところです。筆者の趣味ですね。**ただ僕はバブル期の世代ではありません。**バブル崩壊から随分してからスキーの検定を取りました。バブルの華やかなりし頃はまだ小学生くらいだったのでよく分かっていませんが、スキー・スノーボードは大好きです。

バブルとスキー観光客

日本のスキー観光は、1980年代から1990年代にかけてのリゾートブーム・バブル期に大きく発展したと言われています。呉羽先生の論文などでは、この現象に注目してスキー場やスキーリゾートを定義しています。

湯沢町が公開する観光統計データによると、スキー観光客はバブル期に確かに急増しました。

そして——日経平均が最高値をつけたのは実は1989年なんです。一般に「バブル崩壊は91年から」と教わりますが、株価のバブルが崩壊してから少し経って、実体感を伴う不景気がやってくる。

  1. 1989年 株価がバブル崩壊
  2. 1991年 実体感を伴う、いわゆるバブル崩壊
  3. 1992年 スキー場の観光客数がピーク
  4. その後、株価の下落とともにスキー観光客も減少

リゾートマンションと税収

バブル経済の膨張期、とりわけリゾートマンションのブームの時——1988年に全国で販売されたリゾートマンション1万1564戸のうち、3分の1以上の3912戸が湯沢に集中していたと言われています。

朝日新聞取材班の取材によると、バブルの頃のリゾートマンションは案の定、お金持ちの象徴でした。ところがバブルが崩壊すると投げ売り状態になります。

価格が下がる → 所有者が来なくなる → 管理費も集められなくなる → 最終的に競売物件になる。そして管理費を滞納している人は、だいたい固定資産税も滞納しているらしいんですね。

湯沢町が公開する地方交付税の資料から、スキー観光客数とともに税収をグラフ化すると——まずスキー観光客が減少し始め、そこから1〜2年して税収が減収する。

観光の波及効果

経済学一般で言う生産波及効果は、観光地においてはこうなります。

観光客がその場所に行ってスキーをする → お金を使う(ホテル、飲食店)→ 所得効果 → 雇用効果 → 税収効果

1992年に出た『日本型リゾート開発戦略』という書籍では、対話形式でこうやり取りしています。

  • スキー以外に温泉地としても有名な湯沢町では、リゾートマンションの所有者や観光客から「入湯税」を取っていて、それが1年間で1億2000万円になっていた
  • リゾートマンションができたことで、周辺のスーパー、商店、飲食店、土産物屋が潤った

特にリゾートマンションの所有者・利用者は自炊をしないらしいんですね。なんとなく分かります。なので飲食店は土日には行列があった、ということからも経済的波及効果が分かるかと思います。

そんなに栄えていた、主たる産業がスキー・スノーボードであった湯沢が、このように急激にスキー観光客が減少した。当然、町の総生産も下がります。

相関はほぼ完璧

県民経済計算から湯沢町の市区町村民総生産を抽出し、スキー観光客数との関連を散布図にすると——R² が 0.89、p 値が 0.001。むちゃくちゃ強い。

湯沢の観光経済、湯沢の収入のほぼ全ては、スキー観光客数で説明がつくというのがこのグラフです。

バブル前後をダミー変数で分解して、90年より前と後でグラフを描いたのがこれです。「両方とも右肩上がりじゃないか、91年以降も上がってるじゃないか」と思うかもしれませんが、これはインフレ率を全く考慮していません。

僕が小学生の頃は缶ジュース1本が60〜70円の時代でしたが、今は130円ですよね。**インフレを考慮しないとこんなグラフになる、という話です。だから今、湯沢の税収が豊かかというと、そうではない。**この頃が一番、税収としては豊かだったはずです。

そして夜間光へ

港区と湯沢を比較する

港区は、観測できる最大値63にずっと張り付いています。逆に湯沢には凹凸がある。

これを数値のグラフで見ると逆に分からない。地図で見ると分かりやすい。

港区にはもう暗いところがないんです。人工衛星から夜に見たら港区は超わかる。そして東京湾が暗くなっている、というグラフ——というか地図です。

湯沢には「明るいところが2つ」ある

次が1992年の湯沢の夜間光です。明るいところが2箇所ある。

これは——片方が JR(旧国鉄)が開発したガーラ湯沢や湯沢中里といったエリア。もう片方がプリンスが開発した苗場や、かぐら・みつまたのエリアなんですね。だから明るいところが2つ、別々に映っていた。

この辺にスキー場がいっぱいあって、プリンスの系列があって、ドラゴンドラで苗場と接続する、というわけです。

92年 → 2013年

左が1992年、右が2013年。明らかに暗くなっているのが分かるかと思います。

**スキー観光客が減る → ホテルが営業しなくなる → レストランも閉店、店じまい → それが夜間光として現れる。**2013年にはこんなに暗くなってしまった。

湯沢町の夜間光の時系列グラフを見ると、年による前後はあるものの——**最大値(一番明るかったところ)が傾向として下がっている。平均値も下がっている。中央値も下がっている。**最小値はもちろんずっと真っ暗なところがあるので 0。

全体が下がってきていて、「輝きがない」というのがもう夜間光に現れてしまっている。これが一つ大きな問題かなと思っています。

まとめ

日本のバブル経済の象徴とも言えるスキーリゾート湯沢を事例として、夜間光と各種経済・社会データの比較を行いました。

結果として、センサスやマクロ経済のデータほど直接的な説明力はないのですが、JR・国鉄側とプリンス側という地域性を反映して経済を説明する指標になっていたかと思います。

倉田先生の指摘やヘンダーソンの主張では「夜間光は地理的に国家をまたぐ場合に有効」とされていましたが——実は行政区域の変更は「時間」の軸でも起こります。

湯沢は平成の大合併の中で6つの村が合併して湯沢町になったと言われています。ですので地理空間をまたぐときだけでなく、時間軸をまたぐ際にも、夜間光を用いた指標は非常に有益になります。

そして地図にして見ることで、マクロ経済のセンサスデータでは出てこなかった「開発されているエリアが大きく2つある」ということが分かる。

補足 ― ナイタースキーの扱い

なおナイタースキーのエリアについてですが、**夜間光の公開元は1ヶ月平均あるいは1年平均という形でデータを出します。**その段階で、山火事やスタジアムの明かりのような「必ず定点から観測されているわけではない」値を除去したデータがあります。含んでいるデータもありますが、今回は除去してクレンジングされた方を使いました。

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