細野 雄紀/デマの根を絶つ コロナ×SNSの情報デザイン

Data Visualization Japan Meetup 2020(2020年12月28・29日開催)における、細野 雄紀さん(JX通信社 取締役)の講演です。公衆衛生の脅威となる不正確な情報の拡散を食い止めるために、情報デザインをどう活用できるか。自社の取り組みをもとに語ります。


JX通信社の細野と申します。他の登壇者の方は技術的なテーマが多くなりそうだと思ったので、私はもう少し根本的な問い――なぜ我々はデータを可視化する必要があるのかというところにフォーカスを当てて考えていければと思います。とりわけこのコロナ禍において、データを可視化することの意義が非常に問われているのではないかと日々感じていることをまとめました。

自己紹介

JX通信社という、いわゆる報道ベンチャーと言われることが多い会社で役員を務めています。CXO(Chief Experience Officer)という肩書きで、もともとのバックグラウンドはデザイナーです。

事業は大きく2つあります。

  • BtoB:テレビ局や新聞社に導入いただいているサービス。テレビの視聴者提供映像などで SNS の動画が紹介されることが増えましたが、世の中にどんな投稿があるのか、何が取材対象になるのかを AI の力で炙り出すサービスです
  • BtoC:速報型のニュースアプリ「NewsDigest」。新規性があるのは、速報価値をなるべく自動で判定して速報通知を自動で飛ばすというチャレンジをしている点です

また半年ほど前から、新型コロナのデータを外部に提供することも始めました。Yahoo!、LINE のいずれでも、弊社が扱っている新型コロナの統計情報が使われています。

これまで作ってきたもの

ざっくり言うと「認知コストの高い情報を、いかに認知コストを削減して広く正しく届けるか」を、SNS を主戦場として取り組んできました。

  • 大阪モデルのグラフィック:発表された当時、「大阪モデルとは何か」の構造を明瞭に示し、何が達成できたらどうなるのかが一目で分かるように作りました
  • 第2波の致死率:第2波で致死率が下がった時、「ウイルスが弱毒化したのではないか」と根拠なく話題になっていました。そのカウンターとして「変わった変数は感染した人の年代であって、致死率ではない」というメッセージを伝えるべく作ったグラフィックです
  • 病床使用率のアニメーション:「病床使用率が何十%になりました」と言われてもリアリティがない。病床数も患者数も本当は世の中のどこかに存在しているはずなので、割合ではなく実数で表現できないかと試行錯誤したものです。日付を追うごとにどれだけの病床が埋まっていくかをアニメーションで提示しました
  • 感染経路の可視化:東京都で一定期間の感染経路を示したもの。「家庭内が多い」と分かるだけでなく、感染した人にもそれぞれのストーリーがある――一つひとつの点が人なので、数字でまとめるのではなく「なるほど、この人たちは家庭内で感染したのか」が直感的に伝わることを目指しました
  • 1年の振り返りアニメーション:日本地図のどこで、いつ、どういう形で感染が広まったかが一目瞭然になるもの
  • 人口10万人あたりの指標:「何人になった」よりもトレンド感が大事だと考えています。そこに至るまでのプロセスが可視化されることで、「これからもっと伸びそうだ」「これから減り続けるだろう」という立体的な理解が得られます

アプリでの取り組み

NewsDigest のアプリでは「コロナの感染施設マップ」を提供していました。黄色や赤が一つひとつの感染施設です。実は我々が気づかないほどたくさんの感染施設事例があります。各企業が出しているプレスリリースをクロールして、4〜5万件のデータが溜まっています。ユーザーごとに身近な場所を見てもらうことで、感染抑止に役立ててもらおうという狙いです。

これによって一時期、無料アプリのランキングで1位になりました。

コンテンツの自動生成

グラフィックを作るだけでなく、コンテンツの自動生成をしています。Web 上のグラフだけでなく、Twitter に投稿している画像や GIF 動画も全部自動生成です。

専用の管理画面で「画像生成」ボタンを押すと画像と投稿文が瞬時に生成でき、目で確認して投稿ボタンを押すと SNS に流れる仕組みです。臨機応変にコンテンツを発信できるのが特徴です。

なぜデータを可視化するのか

データを可視化する、情報デザインを使うことによって、なるべく正しい情報を広く届けることが達成できるのではないか、という仮説を持っています。

これは逆に言うと、正しい情報が届くべき人に届いていないということでもあります。ここは今の Web 上の情報環境全体において、非常に大きな課題だと感じています。

  • 4人に3人がデマを見聞きしている(5月のデータ)
  • 4人に1人は週1回以上、SNS やブログなどでデマを目撃している(2月のデータ)

こうした積み重ねが「ただの風邪だ」といった認識を広め、クラスターフェスのような事象に発展してしまう。海外ではアルコール中毒者が大量に発生した例もあります。公衆衛生に情報が直接響くにもかかわらず、正しい情報を広めることが非常に難しい――それが現在地だと解釈しています。

コロナはデマの格好の餌食

デマの流布量は「トピックの重要性 × 曖昧さ」で決まると言われます。

コロナは一人ひとりの生活や健康に直接影響を与える大きな事象であり、一方でまったく新しい正体のよく分からない不明瞭な対象でもある。この曖昧さが流布量に直接響いてしまっている。これが相まってデマの拡散につながっているのだろうと感じます。

なぜ正しい情報は広まらないのか

正しい情報が広く深く行き届けば、クラスターフェスのようなことは本来起きないはずですし、デマの発生・拡散や情報に翻弄される人は減るはずです。でも現実はそうなっていない。なぜでしょうか。

コロナの情報がどこから生まれるかというと、たとえば東京都の第一報は福祉保健局が15時に公開する PDF から生まれます。この一次情報が、テレビや新聞、その他を通じて SNS や視聴者に届き、いろいろな形で加工されたり反復されたりしながら人に届いていく――これが今の情報流通構造です。

ここで問題になるのが文章の難しさです。正しく情報を伝えようとすると、どうしても情報量が増えます。新規感染者数、濃厚接触者数、年齢、濃厚接触者の割合……いろいろな情報が入る。

しかし基本原則として、Web 上のユーザーは文章をなかなか読んでくれないし、読んでも誤解してしまう。この認知コストの高さが、正しい情報を広く届けるうえでネックになっています。

図にすると――情報を見つけてくれた人がいても、とっつきやすさの壁理解の壁があって、本当の意味で理解できる人はファネル構造的に何%かに絞られてしまう。この壁をなるべく壊すことが、今この社会においてとても重要だと感じています。

文章ではなく1枚の画像にするだけで全然違う。行動を示す変数が何で、どういう状態であればどうなるのかを体系化することで一目で分かるようになり、認知コストが下がることを期待しています。

目指すのは「理解した人数 × 理解の深さ」

情報デザインを使うことで、情報を見た人、読んだ人、そして最終的に理解できた人――このファネルの最後の部分を最大化する。そういう意識で取り組んでいます。

「分かりやすいから便利だね」ということよりも、何人が深く理解したのか。理解した人数 × 理解の深さ、これを最大化するというチャレンジに尽きます。

文章で伝えると、読める人・読む人がかなり限られますし、読めたとしても誤解する人が生じやすい。そこで情報デザインを有効に使えれば、この大きな社会課題を解決するときの大きな武器になるのではないかと感じています。

コロナと情報デザインは相性がいい

実は、コロナと情報デザインはもともと相性がいいということを伝えたいと思います。

オットー・ノイラートは哲学者でもあり、ピクトグラム(アイソタイプ)を発案した人でもあります。彼が考えていたのは「なるべく言語を介さずに人にものを伝えるにはどうしたらいいか」という問い。その手段としてピクトグラムを考案しました。言葉が世界を分割するのに対し、世界をつなげるような手段を示したわけです。

ナイチンゲールはクリミア戦争の時、現場で起きていることをうまく伝えるための手段としてグラフィックを考案しました。統計情報をそのまま伝えるのは難しいけれど、なるべく分かりやすく直感的に示すことで人を動かそうとしたのだと思います。

こうした事例を見ると、かつての先人たちも「なるべく分かりやすく直感的にすることで人の認知を設計しよう」「こう考えてほしい」ということを手段として講じてきたのだと思います。

コロナにおいてもまったく同じことが言えます。

  • ただでさえ難解なテーマで、専門性も高い
  • 一方で公衆衛生上とても重要なテーマ
  • だからこそ情報の翻訳が重要
  • かつ定量的なデータになりやすい特徴があるので、視覚化がとても有効
  • より多くの人の理解を促進でき、認知コストを減らして誤解する人を減らすことにもつながる

WHO も近いことを言っていて、インフォデミック対策として「明確であること」「シンプルであること」「拡散性があること」「定量的であること」の4つを掲げています。情報デザインは、ある種それを地で行く施策なのかなと捉えています。

なぜ SNS にこだわるのか

多くのデマは SNS で生まれ、SNS で広まっているという事実が明確にあります。これは「SNS が悪い」と言いたいのではなく、デマは人と人との関わりの中でどうしても自然発生してしまうもので、その現場が SNS であるということです。

SNS でデマが生まれて広まる以上、正しい情報を広めるためにも SNS でやるべきだというのが私の主張です。

デマを投稿してしまう人は、わざとやっている人ももちろんいますが、決してそればかりではありません。人が正しい情報を書くには、「正しい情報に触れる」「正しく解釈する」「正しく表現する」という3ステップが必要で、どこかで間違えるとデマや誇張表現、不確かな情報になってしまう。これがいつでも SNS で起きています。

基本原則として整理すると――

  1. 誤った知識は、誤った理解を生産する
  2. 誤った理解は、誤った情報を生産する(誰かが誤った情報を書き、それを見た誰かがそれを元に何かを投稿してしまう。これは SNS ならでは)
  3. したがって、誤った知識は誤った情報をさらに生産することにつながる

ただし、SNS は広まりやすいので、正しい情報でも工夫すればしっかり広まるとも言えます。

1秒で解釈できるか

SNS でたくさん見てもらうための工夫について、良い例とダメな例で説明します。同じような情報でも、まったく見え方が違う。片方は直感的に「なるほど」と分かるのに、もう片方は理解に数十秒かかる。

SNS は「1秒で見るか見ないかジャッジされてしまう非常に残酷なプラットフォーム」でもあります。でも一方で「これは見てみたいな」と感じさせられれば、すぐ広めてもらうこともできる。だから1秒で解釈できるかどうかがとても大事です。

そのために、瞬時に理解させるための明瞭さが問われます。これは「要素を少なく配置すればいい」ではなく、変数を減らすメッセージ性を明瞭にするということ。だから1つのグラフィックに2つのメッセージを載せることは、なるべくしないようにしています。

情報デザインの5つの鉄則

  1. 目を惹きつける — SNS は流し見されやすいので、数百ある投稿の中から「ちょっと興味あるな」と選んでもらう工夫が必要
  2. 視線の流れを設計する — これは美しいからではなく、分かりやすさの設計上とても大事。認知コストを下げるには視線の流れを自然にする必要がある
  3. メッセージを1つに、シンプルに
  4. 必要な情報にフォーカスする — 要素を絞ることも手段ですが、「これが1番大事で、次にこれ」という優先順位が明瞭であることも同時に大事
  5. 文字をなるべくなくす — 文字は基本的に読まれませんし、人に論理的な思考を強いてしまうので、直感的な理解の真逆を行く行為になります

そのほか意識しているポイント

現代人に不足しているのは「認知リソース」

よく「現代人は時間がない」と言われますが、私はどちらかというと認知リソースが不足しているのではないかと感じています。SNS を見ていても「これは正しいのかな、間違っているのかな」と常に半信半疑で対応せざるを得ない状況が続いている。だからフェイクの問題に発展しているのかなと。

だから認知コストを下げることがとても大事です。具体的には「理解に要する認知コストを最小化する」ことに加えて「情報に触れる人数を増やす」。この総コストをなるべく減らすことが大事だと感じています。

具体性は理解の母

人の理解を深めるために最も重要なのは徹底的な具体性だと思っています。抽象的な情報は分かったようで分からなくなるし、誤解する人も増える。理解のあり方にばらつきも出る。徹底的な具体性を提示することで、人の理解はある程度収斂できるし深くなります。

ただし「情報量を増やせばいい」わけではない。むしろ重視すべきは、情報量を減らしつつ具体性を高めること。ここが情報デザインで本当に問われているポイントだと思います。

主語を統一する

良い例とダメな例を並べると――ダメな例は主語が多い。「新規感染者数」が主語のデータもあれば「人口10万人あたりの感染者数」が主語のデータもある。すると下の棒グラフが一体何のデータなのか不明瞭になってしまう。

良い例では「人口10万人あたり」という変数を一層なくし、「今日の新規感染者数」を主役として明確に据えています。それによって棒グラフが何のことなのか、すぐに理解できる。認知コストを下げるためにも、正しく理解してもらうためにも、とても大事です。

割合(パーセンテージ)をなるべく使わない

「病床使用率が57%」「ホテルの使用率が35%」と言われても、「なるほど」とはなるものの、リアリティを持って体感できず解釈しにくい。

でも実際に起きていることは、病床は確実に世の中にベッドとして存在しているし、患者も確実に1人ずつ存在している。ただ僕らはそれを直接見られないから、誰かが数字に変換してパーセンテージとして伝わってしまう。

これを情報デザインの力で突破できないかと試行錯誤したのが、数をそのまま使うという表現です。視覚的に「これは確かにやばいな」「まだ大丈夫だな」という適切なジャッジに結びつけられるのではないかと考えています。

人の認知を変えないと意味がない

デザインは結局、人の認知と行動の設計です。ビフォーアフターでどういう差分を作るのかをとても意識しています。例えるなら、人がスターバックスに行く前と行った後で何の差分が存在するのか。僕らが作ったデザインを見る前と見た後で、その人の認知と行動がどう変わるのか――それが本来重要なことです。

そして、デマが発生してしまった時に有効なのは「いつ届けるか」という変数です。何を見せるかも大事ですが、いつ見られるかがとても大事。人がデマに触れてしまった直後に打ち消したほうがいいに決まっているからです。

冒頭で「画像を自動生成している」とお話ししましたが、臨機応変に画像を作れることは、臨機応変に打ち消しが容易であることにつながる。すぐに臨機応変に発信するために自動生成をしていると言っても過言ではありません。

「デマの拡散前にワクチン情報を届けましょう」とよく言われますが、情報の見せ方だけでなくいつ届けるかもとても大事です。特にコロナは日々状況が変わり、時間が経つと正しい情報ではなくなるケースもあるので、なるべくリアルタイムに、タイムリーに必要な情報を届ける。それを実現するために自動化の技術を採用しています。

まとめ

  1. JX通信社は報道ベンチャーとして、一貫して「正しい情報を広く深く届けたい」という一心でやってきました。逆に言うと今はそうなっていない。この課題を解決するために、情報デザインが有効な手段であろうという仮説で取り組んでいます
  2. やりたいのは「どんなコンテンツを分かりやすく作れるか」ではありません。それは手段でしかなく、「伝える」ではなく「伝わる」ことが大事。しかも1人に伝わるだけでは不足で、人数 × 理解の深さ、この面積こそが大事です
  3. そのために、最終的に人を変えないといけない。人が変わらなければコンテンツは意味がなくなってしまうので、見た人の認知や行動の変容を設計するという観点で情報デザインに取り組む必要があります
  4. 文章がダメというわけではありませんが、上記3つを達成しようとした時に、必ずしも最適な手段が文章とは限らない。その時に情報デザインを使ってみるか、というのが一つの手段として検討されるといいのではないかと思いますし、弊社ではこれからも熱心に取り組んでいきたいと思っています

急ぎ足で話してしまいましたが、一旦こんなところです。ありがとうございました。

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