Data Visualization Japan Meetup 2022(2022年12月27・28日開催)における、渕上 綾子さん(日本鋼管病院 消化器内科)の講演です。炎症性腸疾患(IBD)の患者さんが本当に何を求めているのかを、SNS のテキスト分析から探った臨床医の試みです。
日本鋼管病院、消化器内科の渕上綾子と申します。よろしくお願いします。今日は本当にプロの方々の中で、なんともショボい話になってしまうかもしれないのですが、ぜひ聞いていただければと思います。
お話しするのは、炎症性腸疾患という病気の患者さんのニーズを調べた研究についてです。
自己紹介
福岡県生まれの、たぶん愛媛県出身です。父の転勤で愛媛と福岡を行ったり来たりしたので、どこが出身地なのかよく分からないという状況です。広島大学を卒業し、九州大学などあちこちで勉強しました。
主に炎症性腸疾患という消化器の病気を診ておりまして、今年はアジアの学会(AOCC)にも出るくらいにはマニアです。
消化器内科にもいろいろいる
「消化器内科」と言われても、実はいろいろいます。おおむね3種類に分かれていて——**消化管を診る人たち、膵臓の人たち、肝臓の人たち。**それぞれキャラが違います。
消化管の人たちの中でも、腫瘍を診る、いわゆるかっこよく内視鏡治療をする人たち、「ちょっとお腹の調子が悪いな」を主に診る機能性消化管疾患の人たち、そして私たちのように腸の免疫の病気を診る IBD の人たち——この3分野に分かれています。
「なんとなく調子が悪い」という方は、機能性消化管疾患の人たちか、私たち IBD の人たちのところにやってくるケースが多いです。
炎症性腸疾患(IBD)とは
今日お話しする炎症性腸疾患は、主にクローン病と潰瘍性大腸炎の2つに分かれます。現在、クローン病が約4万人、潰瘍性大腸炎が約22万人と言われています。すみません、今日はちょっと「病院感」満載でお話しさせていただきます。
IBD の患者さんはどんどん増えています。1970年代——私の父も実は IBD を診ていたのですが——その時代にはものすごくレアな疾患でした。ところが現在は潰瘍性大腸炎だけで22万人。****もしかしたらお友達や周りの方にそういった病気の方がいらっしゃるかもしれないというくらい増えてきています。
症状は主に下痢、血便、腹痛など。そして主に10代から20代、思春期と言われる時期や若い世代で発症する方が多い。
このことが**進学・就職・妊娠・出産といったライフイベントと重なってしまう。**ここが患者さんたちにとって、なかなか重たい問題になっています。
そして**良くなったり悪くなったりを繰り返す(寛解と増悪を繰り返す)**ため、**一生の付き合いになることが多い。**今のところ、完全に治るという治療は見つかっていません。
人によって症状が全然違う
**腸の症状だけではありません。**関節炎が出る方、皮膚の症状が出る方もいて、これが本当に人によって多様で、付き合い方が非常に難しい病気でもあります。
診るべきことは——
- 消化器疾患の管理だけでなく、腸管外合併症(関節炎、皮膚症状など)
- ライフスタイルに合わせたお薬の選択——一生お薬を飲み続ける、一生治療を続けるにあたって、どういう形でお薬と付き合っていくのがいいかを一緒に考えていかないと、治療が人生の主役になってはいけません。
- 経済的な側面——潰瘍性大腸炎など特定の炎症性腸疾患は指定難病として医療費助成が出るものの、やはり通院の費用などいろいろお金がかかります。
- メンタル面——病気があるということだけでも重い影を落としますし、学校で便の失敗をしてしまったといったことでいろいろな問題を抱えている方もいらっしゃるので、そういった方へのサポートも必要です。
本当は看護師さんや事務方など、多職種で支えていかないといけない病気なんです。
そして目標は、症状に悩まされない、IBD という病気になる前に近い生活を送ること。
しかし現実的にはなかなかうまくいきません。特に人手が少なく、サポート体制の整っていないごく普通の病院で行うと、当院のような場合は非常に難しい。
理想の診療体制と、その現実
専門的な話になりますが、基本的には粘膜に炎症が起きる病気なので、その粘膜をしっかり治すことを目標とします。まず症状が取れることを第一とし、それから血液検査が良くなるなど、**ステップを踏みながら段階的に治療していく「treat to target(T2T)」**が主流になっています。
そして**シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)**という独特の考え方があります。これは後ほど述べます。
いわゆる**プレシジョン・メディシン(個別化医療)**も、本当は IBD こそやりたいところなのですが、なかなかまだ道のりは遠いです。
ざっくり言うと理想は——**スタンダードな診療をきちんと行うこと、患者さんの普段の日常をしっかりサポートする体制づくり、そして患者さんと一緒に作っていく医療(SDM)。**これをやっていきたいのですが、なかなか理想通りにはいきません。大きな病院でも難しいし、小さな病院でも難しい。当院のような病院だと結構困ってしまいます。
日常のお医者さんの風景
なかなかデータの話に行き着かないのですが、日常、お医者さんがどうやってこの病気を診療しているかを知っていただきたいと思います。
当院は川崎にある、400床弱ぐらいのやや大きめの総合病院です。あまりお行儀のよい場所ではありませんが、いろいろなキャラクターの人がいて、みんなすごくいい人です。
アルコール関連の疾患も多く、高齢者も多く、長年通院している人も多い。地域に愛着があって「すごく重症なんだけど最後までうちで診てほしい」と言ってくださる方がいらっしゃったり、仲良しの患者さんがいる看護師さんやスタッフがいたり、「ここにはこの薬が効くんだよ」と、なかなか薬を変えさせてくれない方がいたり。スタッフはおおむね親切で、近所のおじちゃんおばちゃん的なほのぼのした雰囲気だと思ってください。
一方で待合に座っている患者さんの様子は——**非常に混んでいてゆっくりは話せない。**いろいろなキャラクターの人が座っていて、怖い人もいたりします。時間を気にしていて、聞いてもらいたい話は本当はたくさんあるのだけれど、結構待たされて「どうしよう、どうしよう」「イライラするなあ」という状況になっているというのが実情だと思います。
私の外来ではおおむね一コマ3時間で30人ぐらいの患者さんを診ていて、多種多様な方がいらっしゃるので、一人ひとりの話をじっくり聞くという状況に持っていけない場合もある。
問題点を洗い出す
理想が実現可能なのかを考えたとき、なかなか難しいということが分かりました。一つひとつ問題点を洗い出していくと——
- メンタル面のサポート:患者さんがどんなことで困っているのかを知りたくても、看護師さんや精神科・心理士の協力を得ることは難しい。ただし、看護師さんたちが声をかけてくださることで分かることもたくさんあります。
- 医療制度などのアドバイス:炎症性腸疾患に特化して、というわけにはいかないケースもある。
- 就労・進学に関するアドバイス:情報不足で、一人で抱え込んでおられたり。
- 栄養面のサポート:もちろん栄養士が一生懸命やってくれるのですが、それだけというわけにもいかない。
- 他の病気を併せ持つ方への対応も出てくる。
私自身、コミュニケーション能力が非常に高いというタイプではないので、「お願いします」と依頼することもなかなかうまくいかないケースがあったりします。
シェアード・ディシジョン・メイキング
前置きが長くて申し訳ないのですが、シェアード・ディシジョン・メイキングについて知っていただきたいと思います。医療全般、特に慢性的にかかる病気に関しては、ぜひ知っておいていただきたい言葉です。
炎症性腸疾患に限らず、いくつかの選択肢があって、それぞれに良い点・悪い点がある場合があります。お医者さん側としては、選択肢の良い点・悪い点を一生懸命説明するわけですが、「たぶん全部は入ってこないだろうな」というのは、こちらも感じています。
たとえば「あなたは今とても大きな病気にかかっています。こういった選択肢があります」とお話ししたとき、病名を告げられた段階でショックが大きくて、完全には頭に入ってこないケースも当然あると思います。自分でもそうだと思います。
そして、**こちらが良かれと思って勧める治療が、患者さんには合っていないかもしれない。**治療としては合っていても、その患者さんのライフスタイルとは合っていない可能性がある。それを最初にお会いした段階で把握するのは、なかなか難しいです。
患者さんの側も——
- たくさん説明されたけれど、よく分からないなと思いつつ「はい」と言ってしまう
- 詳しく聞きたいけれど、他の患者さんも待っていたしな
- 家族と相談したいけれど、上手に説明できるだろうか
- 自分がどうしたいかは、ちょっとゆっくり考えたいな
突然、5分ぐらい前に会った人に「あなたの人生観は」と聞かれても答えられないと思うんですよね。
こういうとき、人はヒューリスティックな判断をしがちです。ヒューリスティックな判断とは、脳が使うエネルギーをなるべく少なくする判断で、これまでの経験や勘などで直感的に判断するもの。早いのだけれど、十分に考えているとは言えず、後悔してしまうこともあります。
3段階のモデル
これを解決するのが、やっと出てきたシェアード・ディシジョン・メイキングです。**選択肢があることを示し、その内容を理解していただき、患者さんにとって大事なことを聞き出していく。**この3段階のモデルを、シェアード・ディシジョン・モデルと言います。
私たちが医学の専門家であるように、患者さんは「自分の人生において何を大事にしているか」を知っている専門家である。
だからこそ、チームの一員として治療の決定に積極的に参加してもらいたいと、私たちは思うわけです。
SDM に関する論文はたくさんあります。**うまく行われると患者満足度は非常に高く、患者さんの「治療選択に関わること」への関心も非常に高い。**PubMed で検索してみると、論文数もどんどん右肩上がりに増えてきています。
それでも、時間がない
いろいろ工夫はしているのですが、なにせ時間がない。そして地域の病院ならではの問題があります。世代も違えば悩みも違う。いろいろな方がサポートしてくれるものの、きめ細かい十分なサポートは非常に難しい。
時間がかけられないと結局ヒューリスティックな判断になりがちで、外来終了後は一人反省会をしている状況です。「いろいろ押し付けてしまったんだろうな」「あの説明は失敗したな」「もっといろいろ見せたかったな」「たぶん理解されていないな」——いろいろ反省するわけです。
でも諦めたくない。ある程度診療をパターン化したり、勉強したり、情報提供を工夫したりはできるかもしれない。
そもそも、患者さんは何を知りたいのか
情報提供——やっとデータの話が出てくるのですが、ここで**そもそも知らなければならないのは「患者さんは何を知りたいのか」**というところなんですよね。
**私たちは「患者さんが知りたいであろう」と予想したものを、良かれと思って提供する。**けれども、患者さんが本当にそれを求めているのかについて、我々は意外と知らなかったのではないか。
患者さんと私たちの間で重要と考えているポイントのそれぞれや、患者さんの本来のニーズについて知っておけば、時間も短縮され、情報提供が適切に行われ、SDM もスムーズに行くのではないか。そこで患者さんのニーズを知りたいと思いました。
Twitter 研究
そこで始めたのが、やっと出てくる Twitter 研究です。
Twitter は皆さんご存じの通り、日本語だと140字以内のテキストや動画・URL を投稿できるサービス。主に若い層の利用が多く、個人がアカウントを持っていて、フォロワーが多いアカウントはたくさんの利用者の目に触れる頻度が高くなり、発言力が高くなります。
なぜ Twitter なのか
**「IBD白書2018」**という、IBD 患者さんを対象にした Web 調査があります。これは患者団体ではなく、患者さん向けの情報サービスを提供している会社が Web 上で行ったアンケートなのですが、回答者231名中200名が SNS を利用していて、それなりに信頼しているという結果でした。
ソーシャルメディアの利用率を見ても、Twitter は LINE の次に使用されていて、主に若い世代に利用されている。
そして思い出していただきたいのですが、IBD が発症するのは主に10代から30代。****発症して一番情報を探している層とマッチするのではないかと考えました。
本当はリアルのアンケートを取るのが一番いいのですが、それが大変なので、Twitter のテキストマイニングを行いました。
データの抽出
IBD に特異的に使うお薬の名前を11個挙げて、それをキーワードにツイートを抜き出しました。
11語句のいずれかを含むツイートを、COVID-19 の流行前後の計6期間ごとに、100ツイートを上限として各期間ごとに取得。(処理の都合上、100ツイートとしました。)リウマチ患者さんのものが混じってしまうことがあるので、そういうものは除外しました。
データの取得には Twitter API と、統計ソフト R の academictwitteR パッケージを使用しました。Twitter API については、大学に所属しているのでそちらのアカウントを用いて Academic Research の権限を取得して研究を行っています。
解析方法
最初は自動的な解析を試みたのですがうまくいかず、それを参考にしつつ、先行研究をもとに内容を手動で分類しました。分類結果をもとにツイート数をカウントし——
- 分類結果と、それが期間によってどのように変化したか
- 各期間ごとの分類別の割合が、流行前後でどのように変化したか
を確認しました。期間はCOVID-19 流行前の2期間と、第1波から第4波にあたる期間。(実はさらに広げて第7波ぐらいまで見たのですが、ここでは第4波までをお出しします。)
結果
主に10のカテゴリに分類されました——患者さん同士の情報交換、治療に関すること(「ちょっと嫌だったな」あるいは逆に「これはすごく良かった」)、妊娠・出産に関すること、仕事や学校に関すること、通院に関すること、家族によるツイート、患者さん同士の励まし、費用、その他。
推移を見ていくと、流行の前も後も一番多いのは、お薬や治療に関する情報交換。
そして**その次に、通院に関するツイートが増えてきました。**特に、通院時間、都心に出ていくこと、病院滞在が長くなることによる新型コロナ感染への不安。****特に初期の時期は、その増加が顕著でした。
まとめると——
- 患者さんの悩みは多岐にわたる。
- COVID-19 流行後は、通院、特に病院の滞在時間などの際の感染に関する不安が非常に多くなった。
- 患者さん同士で励まし合ったり、情報交換もしている。
- 補助が出ているとはいえ、やはり費用に関する悩みも多い。
- 患者さんはとにかく情報を求めている。
私たちに必要な情報提供
そこから見えてきた、情報提供として必要なこと——
- 通院や病院滞在時間などの不安への配慮。「この薬だと投与時間がどれくらいかかる」「これくらい準備にかかるので」といった情報。
- 感染への配慮。「この治療をしているからといって感染しやすいわけではありません」といった説明。
- 治療に関する適切で正しい情報提供。調べ方によっては情報過多で不安に苛まれているケースもありました。
インターネット上の情報の質
これは別に、日本炎症性腸疾患学会という非常にマニアックな学会でお話しさせていただいたものですが——2020年8月時点で、インターネット上にある IBD に関する情報を Google で単純に検索してみました。
すると、正確なものもそれなりにあるのですが、情報が少なかったり、古くて不正確だったり、非常に不正確でむしろ危険だったりというようなものがありました。
特に、1語での検索だとおおむね大丈夫なのですが、2語以上で検索すると場合によって質が落ちてしまう。「潰瘍性大腸炎」という1語で検索するとおおむね正確なものが出てくるのですが、「潰瘍性大腸炎 食事」という2語で検索すると、若干不正確なものが出てしまう。
情報の提供者にも問題があるケースがあり——医療者や学会などによる、正確で適切な情報の発信が必要なんだなということが非常によく分かりました。
そこに「人」がいる
ここで知っていただきたいのですが、病気の話をしてきましたけれど、病気になるのは人なわけですね。
3時間で30人ぐらい診ていると、そこで出会う患者さんは**「すれ違う人の中の1人」**という形になってしまうのですが、患者さん一人ひとりの背景に人生があって、そういう人生を生きていらっしゃる方だというのが、すごくよく分かりました。
- 患者さん同士の励まし:「治療が学校の実習に被ってしまってストレスだな」「本当にこんなことでいいのかな」という悩みに対して、「先輩はこういうふうにやっていますよ」とアドバイスされたり、「退院おめでとう、良かったですね」と励まし合ったり。
- 通院に関すること:「父と母が仕事を休んで3時間もかけて病院に連れて行ってくれた。感謝しかないな。お薬が効くといいな」「お薬で頑張っているけれど、みんな頑張っているしなあ。でもつらいな」といったつぶやき。
- 妊娠・出産:うまくいった方が「こういったことが良かったですよ」と伝えたり、「頑張りたいな」「情報交換お願いします」というやり取り。
- 恋愛など:10代から30代で発症するので、ここが一番かぶるんですよね。気になる人や恋人へのカミングアウトをどうしたらいいのかという悩みと、それに対するアドバイス。
- 同じ病気の同僚への配慮:患者さん同士はリアルでも励まし合うのかなと思ったのですが、あえて声をかけないという選択肢もあるんだということを知りました。
Twitter には、患者さんたちの「人」としての姿——「そこに人がいるんだ」ということが溢れていました。
リアルワールドのデータ
これは私の調査ではありませんが、アメリカで行われた、患者さんとお医者さんを対象にしたオンライン調査があります。IBD の世界で非常に著名なデビッド・T・ルービン先生がメインになって行われたものです。
潰瘍性大腸炎やクローン病は腸の粘膜が荒れてしまう病気なので、その粘膜をきっちり治すこと(粘膜治癒/mucosal healing)を私たちは目標にします。
ただ、何のためにきっちり治すのか。それは患者さんが入院しなくて済むように、日常生活を送れるようにであって、そのために粘膜治癒を目指すわけです。
ところが——**「粘膜治癒」という言葉自体が患者さんには知られていない。**患者さんからしてみると「粘膜治癒、粘膜治癒って言うけど、どうでもいいんだけどなあ」ということになってしまう。
治療で目指すゴールも、私たちは粘膜治癒と「症状がもう1回出てこないこと」を一番に考えてしまうのですが、患者さんたちから見ると——特にクローン病の場合は「もう1回再発がしないこと」などを考えておられる。医師が考えているよりも、患者さんの希望は本当はそういう形になっている。
QOL(生活の質)のゴールについても、私たちは「学校や仕事にしっかり行けるようになったらいいな」と思うのですが、患者さんたちはもっと人生を楽しんでいて——「もっと家族の世話をいっぱいしたいな」「旅行に行きたいな」と、プライベートの充実を目標にしていたりする。
**私たちは患者さんたちのことを理解していなかったのか。****全然理解されていないわけではないけれど、患者さんたちが目指しているところと、お医者さんが目指そうとしているところが、少しずれていたかもしれない。**それを明確にした研究だと思います。
「言い出しにくいこと」
つらいと思っている症状も、たとえば下痢や腹痛を私たちは重視しているのですが、患者さんとしては——潰瘍性大腸炎の場合、便が出ないのにすごく頻回にトイレに行ってしまう、便が出そうな気がしてトイレに行ってしまうという症状があり、そのことで本当はすごく悩んでいるということが分かりました。
これは日本の調査ですが、この「排便の切迫感(urgency)」で困っている方が一番多い。
そして困っているけれど言い出しにくいことがあります。患者さんが実は困っているのに受診の際に言ってくれないことの一つが、便失禁なんですね。
「えっ」と思うかもしれませんが、たとえば学校や職場で便が漏れてしまうという失敗をしてしまったことは、思い出したくもないことでもあったりする。でもそれが何回か続いてしまうケースもあって、すごく悩んでいる。場合によっては中学・高校でいじめや不登校につながったり、頻回にトイレに行くことでサボっているんじゃないかと思われて、仕事を辞めてしまったケースも実はあったりします。
私たちはそこに気づかないといけなかったんだなと思いました。
医師の思いと患者ニーズの「微妙なズレ」
**患者さんとお医者さんの間で、求めているところにズレがある可能性がある。**これはリアルワールドのデータからもよく分かると思います。
目指しているところは同じなのに、伝わっていない。医師としては、「粘膜治癒を何のために目指しているのか」を患者さんにうまく伝えられていただろうかと気づかされるわけです。
医師の思いと患者ニーズには微妙なズレがある。特に治療のゴールに関する認識については、適切な説明や情報提供が必要だと思います。
Twitter とリアルワールドを比べてみて、IBD の治療を進めていく上で、患者さんがどういったことに困っているのか、どういったことを大事にしているのかを具体的に知ることが大事だけれど、医療者側が知らない患者さんの思いというものがあるんだなということが分かりました。
ひとつ注意しておきたいこと
ただし注意しなければいけないのは、今回の研究で「通院時間に関する不安が増えた」ことが一番出たけれど、全員がそうというわけではなく、患者さん個人個人で違うということも忘れてはいけないということです。
たとえば治療によっては90分ぐらい病院に滞在しないといけないものもあるのですが、その時間に看護師さんに自分の悩みを告げてくれる患者さんもいらっしゃる。****そういった時間を大事にすることも、実は一つ必要なわけです。「通院時間に関する不安が多いから」といって、すべてを短縮する方向に進めてもいけないのかなと思います。
おわりに
IBD の治療のゴールは、基本的には**「病気になる前に近い生活」**と設定しています。
10代から30代で発症するということは、進学や就職とちょうど重なってしまう時期なんですね。そういったときに、病気があるということや、頻回にトイレに行くことで「サボっているんじゃないか」と思われてしまったり、場合によっては病気が悪化して試験が受けられないといったことになると、患者さんの人生にとってすごく大きな影響がある。
だから私たちは、**夢や希望を諦めないでいただきたい。**そのために、病気になる前に近い生活を目指して治療を行っています。
それと同時に、すべてを治すということは現在の私たちにはできていないので、患者さんたちがどういったことを希望していて、どうしたいと思っているのかをもっとしっかり知っていくことで、治療を進めながら患者さんと一緒に作っていけたらいいと考えています。
その一つの足がかりとして、今回のような研究を行いました。
ちょっと短くなってしまいましたが、ご清聴ありがとうございました。