Data Visualization Japan Meetup 2022(2022年12月27・28日開催)における、久本 空海さん(株式会社MIERUNE)のLTです。
「地図と可視化とコミュニティ」という題で、MIERUNE の久本が発表させていただきます。
この写真にあるように、**今は北海道からお送りしています。**こんな感じで寒く、湖は凍ったりしています。
ソフトウェアエンジニアです。今回来られている方にはジャーナリストの方もいらっしゃると思いますが、私はコードを書く側の人間で、MIERUNE という北海道の地図や可視化をやっている会社に所属しております。昔は自然言語処理をやっていました。
趣味で作ったもの
People Map of Japan
1年ほど前に趣味で作ったものです。各自治体で誰が有名人なのかを、Wikipedia のアクセス数から一番アクセスされている人を出す——たとえば大谷翔平とか。
北海道版 Wordle
Wordle ——単語を当てるゲームですが、その改造版で北海道版を作りました。北海道には179の市町村があって、全国の自治体の1割以上が北海道なんです。
私も本州から引っ越してきて全然分からなかったので、「どこだどこだ」という感じで作りました。
緯度で並べた人口分布
Observable で作ったもので、いろいろな自治体の人口を南北(緯度)方向に並べて、どういう分布が見えるか。****やはり中程度の緯度のところに人が集まっていることが分かります。
到達圏と、セイコーマート
アメリカで作られていたものを真似て、札幌など北海道のいろんな街で道路の到達時間を見るもの。
そして Mapbox の方が「近隣10軒の空港」を可視化していたのを真似て、「セイコーマート」 ——北海道に多いコンビニ——で家の近くの10軒を見る、といったこともやっていました。
MIERUNE でやっていること
文化財総覧WebGIS
奈良文化財研究所さんと一緒にやらせていただいているもので、60万以上の文化財の調査データが PDF でしかまとまっていなかったのを、2次元・2.5次元で可視化してマッピングしました。
Yahoo! JAPAN の人流統計データ
最近パートナーシップに加わらせていただき、ヤフー・データソリューションの人流統計データの可視化をお手伝いしています。
大規模なデータですが属性データがあって、男性・女性、20代といった情報や検索キーワードなど様々です。これは deck.gl を使っています。
GTFS-GO(QGIS プラグイン)
QGIS という位置情報を扱うデスクトップソフトウェア向けに、GTFS(バスなど公共交通機関の可視化のためのデータ形式)を使いやすくするプラグインを公開しています。
※ GTFS についてはこの後の伊藤さんのご発表で詳しい話があるかと思います。
3D ― PLATEAU と点群
やはり 3D が潮流になってきています。
- PLATEAU ——国交省による、全国の建物を3Dでスキャンしたデータ
- 点群(ポイントクラウド) ——LiDAR でスキャンしたもの。近づいてみると1個1個が点になっていて XYZ 座標を持っている
技術的にもデータ的にも発展しているので、こういうこともよくやらせていただきます。
PLATEAU のデータを Minecraft に変換することもやりました。建物のデータをブロックに変換して、時計台などが表現できます。
30 Day Map Challenge
11月の30日間、毎日地図を作るという企画で、世界中の方が参加されています。画面上の地図もあれば、レジンで作った物理的なものもあったりします。私は北海道で人口がどれだけ土地に対して極端な場所に集中しているかを見るものを作りました。
もともとは自然言語処理
NLP と言われますが、コンピュータで英語や日本語を扱う技術です。機械翻訳、検索、最近だと ChatGPT など。昨日の SNS 分析のご発表でもまさに NLP 技術が使われていました。
私がやっていたのは——
- 構文解析・係り受け解析 ——文がどういう構造をしているか
- 機械翻訳モデルのセキュリティ ——ブラックボックスな中にどういうデータが含まれているかをアタックして調べる
- 判例の匿名化 ——前職は法律系のデータを扱う会社で、**民事判決の判例はほとんど公開されていない。**公開したいのにデジタル化されていない、プライバシーの問題で個人名を出せない。毎年数万件出てくるので人手で匿名化するのは無理があるため、そこに NLP の技術を使う
オープンソースでは、Sudachi という形態素解析器を作っていました。MeCab をご存知の方もいるかもしれませんが——日本語は分かち書きされていないので、どこまでが単語なのかが分からない。そのためのソフトウェアや辞書を開発し、それをもとにした単語ベクトルなどの言語資源も公開する、というオープンソースの活動をしていました。
地図と言語は似ているのではないか
「最初は地図の話をしていたのに、なぜ言語の話になるんだ」と思われるかもしれません。
デイリーポータルZ の記事で、「辞典を見るのが好き」という人は「地図を見るのも好き」ではないかという話がありました。似たようなところが実はあるのではないか。私もそう思います。
可視化の歴史を見ると、図を描いたり動物の絵を描いたりする中で、地図はかなり初期の段階から取り組まれた「抽象的な情報を表すもの」 だったと考えられているそうです。
文字と地図も、シンボルという意味で同じ起源を持つかもしれない、という話もあります。関連しているし、抽象的には同じなのではないかと個人的には思っています。
思考のための道具
私の興味は「思考のための道具」です。言語も地図も、その一つではないか。
そしてコンピュータはメタなメディア・メタな道具なので、それを使って言語処理をしたり、Web の地図・デジタルの地図を作ったりすることで、**紙の地図ではできなかったこと——ズームしたり、ルートを探したり——という新しい表現ができる。**そこに関心があって、言語をやったり地図をやったりしています。
この分野では——
- ブレット・ヴィクター ——最近は Dynamicland という「部屋」を作っている
- マイク・ボストック ——D3.js で有名ですが、「アルゴリズムを可視化することでよく理解できる」という話がすごく良いのでぜひご覧ください
- Muse のようなアプリ
可視化と地図
可視化に興味を持つと、自ずと地図に興味を持っていく。
- ジョン・スノウのコレラ地図 ——可視化の先駆けと言われる
- 人類がどう移動したかの可視化 ——昨日の発表にもありました
- 朝日新聞「見えない交差点」 ——昨日の山崎さんのご発表。まさに地図を使ったもの
コミュニティと、私の転職
昨年、このイベントを主催されている矢崎さんが「データ可視化の学び場」というコミュニティをやっていて、そこに参加して趣味ながらやっていたんです。
そうしたら、MIERUNE の創業者の一人である古川さんが「地図と可視化の会社をやっています」 と。「おお、なんだそれは、面白そうだな」と。
イベントで登壇させていただいて「こんなものを作りましたよ」と発表したら面白がっていただいて——古川さんは去年のこのミートアップにまさに登壇されていましたが——紆余曲折あって、私は今、北海道で地図を作る仕事をしているというわけです。
前職の法律の会社も、オープンソースのつながりで転職しました。縁というかコミュニティは大きいんだなと思います。
私の転職の例もそうですし、日々知るところ・知らないところでオープンソースやコミュニティの恩恵を受けているのかなと思います。
コミュニティの力
OpenStreetMap は地図の Wikipedia のようなもので、みんなで作ります。そして人道的支援というシリアスな分野でも使われている。たとえば洪水で近づけない場所に空から補給物資を落とす際、どこにどれくらいの人がいるかを衛星写真から見て支援計画を立てる。
国内でも sinsai.info(東日本大震災)や、Code for Japan による新型コロナのダッシュボード——ボランティアでやられています。
私が紹介した People Map も、元ネタは The Pudding がアメリカ版をやっていて、面白そうだったので連絡を取って「日本版をやってもいいですか」と聞いたら「ぜひぜひ」 と。オープンデータやオープンソースの技術を使いますし、そもそも何も分からない中でいろんな文献に助けられました。
北海道のデータでは、当時スマートニュースにおられた荻原さん——この勉強会でも発表されていました——のデータを使わせていただいたり。
**緯度で表示するものも、もともとは私のアイデアではなく、いろんな人の元のアイデアがあって、それを拡張・発展させて私のところまでたどり着いた。**そこに私がまた少し付け加えて、と。
ちなみにこれは、昨日林さんが単語ベクトルの話でご発表されていたベンジャミン・シュミットさんのものです。
地図と言語 ― これから
私も言語から地図の分野に行こうかと思っていたのですが、NAIST(奈良先端科学技術大学院大学)では地図と言語の研究が今年から始まっています。
もともと古くからの知り合いだったのですが、彼も「地図と言語はこれから面白いのではないか」ということで、一緒にやらせてもらっています。
移動軌跡推定 ——文章、たとえば旅行記から、どこにどういうルートを通ったかを推定する——といったことをやっています。
言語処理学会で来年テーマセッションを設けるのですが、いろんな大学の方に加えて、我々(MIERUNE)、奈良文化財研究所、朝日新聞さん、Yahoo! さん、そして『地球の歩き方』さんが旅行記のデータを提供・公開してくださいます。
彼らは論文を出すことが目的ではなく、コミュニティを作りたい、場を作りたい、ムーブメントを作りたいとおっしゃっています。それぞれの知見・データ・技術を持ち寄ることで、非常に遠くまで行けるのではないかと思います。
まとめ
言語も、地図も、今日の主題である可視化も、「思考のための道具」なのではないかと私は思っています。
そして新しい可能性、新しいやり方、新しい道具で、これまで見えなかったものが「見えるね」 というふうに思ったりします。
「早く行くなら一人で、遠くへ行くならみんなで」 という言葉がありますが、そういった意味での「地図と可視化とコミュニティ」というお話でした。
ご清聴ありがとうございました。