Data Visualization Japan Meetup 2024(2024年12月28日開催)における、天野 由貴さん(帝京大学)のLTです。高校の必修科目「情報Ⅰ」に加わった情報デザインの単元について、その経緯と、教育現場で「目的」が見失われがちだという課題を論じます。
このイベントはデータ・ビジュアライゼーションのガチな方が多いと思うので、ちょっと毛色の違った発表にしようと思って、このテーマにしました。
自己紹介
私は帝京大学で教員をしている天野と申します。普段は学習支援システム(LMS と呼ばれるもの)の管理などをしています。
2015年頃に『情報デザインを意識したスライド作成入門』という冊子を作りました。学生の講習会などで使っていたのですが、私は以前広島大学にいまして、2018年からは広島大学の学部新入生の必修授業でも使われるようになっています。先ほど3Dグラフの話が出ていましたが、「こういうのはダメですよ」「ゼロ始まりじゃないものはダメですよね」といったことを説明しています。全体としてはスライドの作り方の本ですが、サイトで無料公開しているので、また見てみてください。
第一学習社さんのサイトでは「猫でもわかるいかさまグラフ」という連載をしていました。三重大学の小村先生の監修のもとで、「例えばこういうグラフ、何がおかしいんでしょうね」という話を、会話形式で読みやすい形で紹介しています。昨年このイベントで矢崎さんが詐欺グラフについてお話しされたそうなので、今回はここは詳しく説明しませんが、サイトを見てみてください。
同じく第一学習社さんのシリーズで「よく伝わるグラフの書き方」もやっています。1、2、3と順々に進めていて、今ちょっと連載が滞っていて申し訳ないのですが、この冬休みに頑張って書こうと準備しています。これもオープンになっているサイトですので、読んでみてください。
高校の教科「情報」— これまでの経緯
というわけで、少し毛色の違った教育寄りの話をしたいと思います。高校の教科「情報」についてです。
私は大学の教員なので「なぜ高校の話をするんだ」と思われるかもしれませんし、聞いていらっしゃる方の中にはもっと高校に詳しい方もいるかと思いますが、そのあたりはご容赦いただいて、私の拙い説明でお話しさせていただきます。
10年ほど前に学習指導要領が改訂されています。最初は「情報A・B・C」と分かれていて、どれか1つを取りましょうという形でした。2013年からは「情報の科学」と「社会と情報」の2つのうちどちらかを取る形になり、私の観測では「社会と情報」を取っている人が多かったようです。
そして平成30年に学習指導要領が改訂され、2022年の授業からは「情報Ⅰ」という、今までバラバラだったものが1つになった科目が始まりました。これで高校生全員が同じ学習指導要領のもとで授業を受けることになります。「情報Ⅱ」という発展的な内容の科目もありますが、それは一部の高校で行われています。
「コミュニケーションと情報デザイン」という単元
情報Ⅰから「コミュニケーションと情報デザイン」という単元が追加されました。学習指導要領の解説には、こう書かれています。
効果的なコミュニケーションや問題解決のために、情報を整理したり、目的に合った情報を受け手に対して分かりやすく伝達したり、操作性を高めたりするためのデザインの基礎知識や表現方法及びその技術のこと
「目的や状況に応じて受け手に分かりやすく」「効果的なコミュニケーションを行うため」「目的に応じて」「明確にして」といった言葉が並んでいます。要するに、情報デザインの目的はコミュニケーションなのだということです。
一体何のために伝えるのか。誰に伝えるのか。何を伝えるのか。では、どのようにそれを伝えるのか。その目的のために情報を設計することが情報デザインである、と。自分の頭の中で考えているだけなら情報はデザインしなくてもよくて、人に分かってもらうためには何らかの設計をしなければならない。それが情報デザインだということになります。
授業実践を調べてみると ― 「目的」が見当たらない
では、この情報デザインの授業実践は行われているのかと思い、CiNii で論文を調べてみました。
2024年度は調べられていなくて申し訳ないのですが、抽出した結果350件ほど出てきました。ただ、授業で使ったものは案外少なく、その10分の1ほど。入手できたものが25件でした。
これを解析して、高校の論文のワードクラウドを作るとこうなります。大きく出ているのが頻出語です。「制作」「ポスター」「ピクトグラム」が出てきます。ピクトグラムは情報Ⅰの教科書すべてに登場するので出てきやすいのですが、ポスターを作らせる授業が多いのではないか、ということが見受けられます。
一方で、そもそもの目的だった「コミュニケーション」の出現は0.49%しかありません。「目的」に至ってはもっと小さく、0.37%ほどです。
テキストマイニングの結果、「目的」と共起している単語を並べてみると、「コミュニケーション」が上の方に出てきます。目的について言及している人は、コミュニケーションについても言及しているようだ、ということは分かります。しかし全体として、「目的」という単語が10回以上出てくる論文は2件しかありません。ここに、目的が見失われていないかという問題意識を持っているわけです。
「目的を見失わない情報デザイン授業」の研究
大学教員は科研費を取りに行って研究をするわけですが、私の今年度のテーマが「目的を見失わない情報デザイン授業のための教材設計と実践」です。先ほどご発表された隅谷先生とも一緒にやっています。
まず、生徒に授業をする先生方に、目的を見失わない情報デザインの考え方を普及しないといけないのではないか。そう考えて、先生向けの教材を作ろうとしています。3年計画なので、まだまだこれからです。
つい昨日、神奈川県の高校の先生が「神奈川県情報科実践事例報告会」でポスター発表をされました。共同研究をしていただいている先生です。授業実践の方で、まず「目的と受け手を明確化・検証する」ところからやっていただく授業設計をさせていただき、それを踏まえて初めて「作る」に入る、ということをやっていただきました。ポスターもサイトでご覧になれますので、見てみてください。
データの活用でも同じこと
このイベントはデータ・ビジュアライゼーションのイベントなので、その話もしておくと、情報Ⅰには「データの活用」もあります。データを問題の発見・解決に活用するために必要なことを身につける、と学習指導要領に書かれています。
しかし、何のためにデータ分析をするのか。何のためにデータ可視化をするのか。そこには目的があるわけですよね。結局、何のためなのか、誰に見せるためなのか、何を見せるのか、という考え方は、先ほどの情報デザインの考え方と同じだと思います。
情報Ⅰの教科書は何種類も出ています。1つの学習指導要領のもとで検定された教科書が何種類もあり、同じ出版社からも複数出ていたりします。データ分析について書いてあるページ数、データ表現について書いてあるページ数を調べてみると、データ分析のページで「目的」という単語が出てくるのは2つしかありませんでした。
情報Ⅰの教科書には問題解決の章が別に立っていて、そちらでは「目的」という単語を使っているところもあったのですが、データのところではあまり出てきていません。なお、東京書籍の教科書は、章の名前に「目的」を使ってくださっている唯一の教科書でした。データの活用でも、やはり「目的」への言及は少ないのかな、ということです。
まとめ
足早にご説明しましたが――
- 2022年度から高校生はみんな「情報Ⅰ」で学ぶようになり、情報デザインの単元が追加された
- しかし、「目的」を意識した教育はまだまだ少なそう
なので、頑張って普及活動に努めたいと思っています。「書いてみました」「やってみました」だけではなく、一体何のためにそれをするのか。どういうことを伝えるために、どういうことを整理して見せていかなければならないのか。それを伝えていくような教育をしていきたいと思っています。
私の話は以上です。