Data Visualization Japan Meetup 2023(2023年12月29・30日開催)における、羽田 康祐さんのLTです。主題図を誤解なく表現するための最適な地図投影法について、Googleマップでおなじみのメルカトル図法を題材に解説します。
「メルカトル図法には手を出すな」ということでお話ししていきます。10分という、LTには少し長めの時間をいただきました。
自己紹介
私は GIS(地理情報システム)というデジタル地図を扱う会社で働いています。もともと地図に強い興味があり、プライベートでは日本地図学会でいろいろとお手伝いをしています。アウトドアが好きで、好きな地図投影法はピアース・クインカンシャル図法です。
「メルカトル図法はおかしい」と言う地図が、実はメルカトル図法ではない
最近、メルカトル図法――Googleマップで有名になった図法ですね――を解説する動画がすごく増えてきました。メディアなどでも「メルカトル図法は(高緯度の)面積が大きく見えるよね」「これを見るとロシアがすごく誇張されているよね」といった説明をよく見るようになりました。
ただ、こういった形、ちょっとおかしくないですか。よく見ると、ロシアやアメリカ、カナダがすごく拡大されている。お気づきの方も多いと思うのですが、「メルカトル図法はおかしい」と解説しているその地図が、実はメルカトル図法ではない、ということがよくあるんです。正しくはこちらがメルカトル図法になります。
なぜ間違った地図がメルカトル図法として解説されてしまうのか。おそらく、グラフィックの素材――地図は作るのが大変なので――がいろいろ提供されていて、そこにメルカトル図法以外のものが混ざっている。それを「これだ」と見つけて使ってしまうのが原因ではないかと思っています。ありがちなのは、グリーンランドだけが強調されていたり、逆に描かれていなかったりするケースです。
1枚ずつ見ると分かりにくいのですが、地図を比較してみると、たとえばグリーンランドはよく引き合いに出されますが、ロシアの北にあるタイミル半島も、どんどん大きくなっていきます。まるで某有名漫画のラムちゃんの角のように。さすがにこれはやりすぎだろう、というのが本当のメルカトル図法なんですね。
メルカトル図法とは ― 「角度が正しい」航海のための地図
真面目にお話しすると、メルカトル図法は16世紀に、現在のベルギーのゲラルドゥス・メルカトルという人が航海のための地図として作ったものです。この地図の特徴は、コンパスで見た方向に進んだ進路が、地図上でまっすぐ直線に描けること。現在でも海図(海の地図)の投影法として使われています。
なお、間違えやすいポイントとして、「海図に対して、航空図(飛行機で使う地図)は最短経路が直線で結ばれる正距方位図法が使われている」といった解説がありますが、これも実は正確ではありません。
メルカトル図法の特徴を整理すると、まず「角度が正しい」。これは円の形が円のまま維持できるということで、大きさは違ってもちゃんと円の形が保たれる。こうした図法を正角図法と呼び、転じて「狭い範囲であれば形が正しい」とも言えます。それから、経線の方向(真北の方向)が一定なので、地図上のどこでも北に対する方位が同じになります。ただし、北に対する方位が同じでも、すべての方位が正しいわけではありません。
正角図法というと見慣れたメルカトル図法のような形を思い浮かべがちですが、先ほど私が好きな図法として紹介したピアース・クインカンシャル図法も正角図法の一種です。円の形は円のまま維持できていますが、世界の様子という意味では見た目がまったく違いますよね。
データ可視化では「航海」しない ― 面積のゆがみが問題になる
さて、データ・ビジュアライゼーションの世界で、皆さん航海ってしますか。航海はしないですよね。ですから、メルカトル図法の長所(航路が直線になること)は活きず、短所の1つである「面積が正しくない」ことのほうが、データで情報を可視化するうえでとても不都合になります。
何が不都合なのか。面積を誇張すると、本来は地球上で一定だった点の分布や密度が、メルカトル図法で高緯度が拡大されることで点がばらけて見え、密度が低い=情報が少ないように感じてしまいます。
また、数値を色の濃さに置き換える塗り分け(コロプレス図)もよく使われますが、面積が大きくなると同じ色でもより濃く印象づけられ、誤解を与えてしまいます。たとえば、ある機関が作成した新型コロナウイルスの国別感染者数の地図をアメリカとロシアで見比べると、凡例の分類は同じはずなのに、ロシアのほうが数が多いのではないか、と直感的に思ってしまうんですね。
どんなときならメルカトル図法でも問題ないか
では全部ダメなのかというと、そうではありません。緯度が低く赤道に近いほど、そして狭い範囲ほど、メルカトル図法でも問題は小さくなります。拡大率の差が地図の中で1に近づけばよいわけです。
逆に、たとえば北海道の札幌市のような場所では、そのままのメルカトル図法だと角度が正しく表せず、正方形に区切られた直角の交差点が直角に描けません。そういう場合は、横向きにした「横メルカトル図法」などで表現する必要があります。
世界地図の分布図に向く投影法
では、世界地図で分布図を描くとき、どんな投影法を使えばいいのか。
1つはナチュラルアース図法。地球が丸いという印象も残せます。もう1つは、面積が正しい正積図法であるイコールアース図法。これは2018年に作られた、本当に最近の投影法です。地図投影法は決して古く枯れた技術ではないんですね。イコールアース図法で描くと、先ほどのアメリカとロシアの印象の違いはだいぶ和らげられます。ほかにもたくさん投影法があるので、デモサイトなどで確認してみてください。
世界の中心をずらす ― 日本人には太平洋中心
もう1つ、「世界の中心で、今回は愛を叫びたい」と思っています。何を叫ぶのかというと――GISの地図データは誰でも手に入るようになり、簡単に表示できるのですが、そのまま表示するとイギリスのグリニッジ子午線が中心になります。すると、ロシアがどうしても途切れてしまう。ですから、せめてベーリング海峡で区切るように中心の経度をずらしたほうがよいと思います。
やはり日本人としては、日本に馴染む地図といえば太平洋を中心にしたものですよね。東経150度を中心に表示すると、きれいに大西洋で分断されて、日本人に馴染みやすい地図にできます。こうしたところも気をつけるとよいと思います。GISソフトウェアの進歩で本当に簡単に作れるようになり、設定を少し変えるだけで日本中心・太平洋中心にできます。
まとめ
- 「メルカトル図法ではない地図」に騙されない。「これは本当にメルカトル図法か」を少し意識してみてください(ただし、そればかりを批判するのもよくないと思います)。
- 地図の投影法は本当にたくさんあります。目的・縮尺・表示する範囲によって、適切な投影法を選びましょう。
- 日本人にとっての世界地図は、太平洋を中心にしたほうが馴染みやすい。ソフトウェアで簡単に設定できるようになりましたが、知識がないと世界の中心は動かせません。ぜひ地図を知ってもらえると嬉しいです。
最後に少しだけ宣伝を。地図について学ぶには『地図リテラシー入門』という本があります。主題図・地図投影法・地理情報システムに関する内容を、一般書として読みやすくまとめました。密かにデータ・ビジュアライゼーションに関わる人たちにも読んでほしいという思いを込めています。
また、日本地図学会では、国連と国際地図学協会が共著で書いた『SDGsのための地図作成』という本の翻訳版を作っています。今まさに冬休みの宿題として校正をしているところで、日本語版を無償で配布する予定です。こちらもぜひご覧いただければと思います。
ご清聴ありがとうございました。