Data Visualization Japan Meetup 2023(2023年12月29・30日開催)における、山辺 真幸さん(データビジュアライズデザイナー/一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科 特任講師)の講演です。NHKとの共同制作を題材に、博士研究で導き出した制作プロセスのモデルとパターン・ランゲージを紹介します。
「データビジュアライゼーションを創造する」という、ちょっと大業なタイトルをつけてみました。Data Visualization Japan のミートアップは2年ぶりくらいでしょうか。このコミュニティで発表するのをすごく楽しみにしていて、またお呼びいただけて嬉しいです。
自己紹介
私はデータビジュアライズを制作する仕事にデザイナーとして携わっています。大学時代まで遡ると工学部の卒業ですが、社会に出てからはグラフィックデザイナーとしてずっと活動しています。今年、社会人博士課程で慶應義塾大学から博士号を取得しました。研究内容もデータビジュアライズのデザインに関することです。現在は一橋大学のソーシャル・データサイエンス研究科におり、研究とデータビジュアライズの開発・デザインの2つを柱として活動しています。
手がけてきたプロジェクト
新型コロナウイルスの3次元系統樹
最も多くの方に見ていただいたのが、新型コロナウイルスの3次元系統樹です。NHK、東海大学の中川先生、私のチームで開発しました。
2020年から制作したもので、新型コロナの感染者から得られたウイルスのゲノム情報を解析し、オープンデータとして全世界で共有するプロジェクトがありました。そのデータを使って、まさに進行中のコロナ禍を科学データから可視化できないか、というプロジェクトです。
元々は8Kでビッグデータをビジュアライズしてどんな表現ができるか、というところからスタートしました。可視化するごとにさまざまな事実が浮き彫りになり、今起こっていることをウイルスのゲノムデータからも見られると分かってきた。それで地上波でもぜひ使いたいということになり、先がどうなるか分からない渦中で、クローズアップ現代や NHK スペシャルでも、状況が変わるごとにデータをアップデートして伝えるということをやってきました。
クラスター発生の時空間密度
別のプロジェクトで、これもコロナに関するものです。JX通信社さんからデータを提供いただきました。クラスターが発生した地点とその規模を、ニュースやプレスリリースから抽出した時系列データです。
感染の頻度と密度――ある地域で時間的に頻発しているという空間的密度と、同じ地域でどれだけ連続しているかという時間的密度――の両方向を可視化しました。上空が過去の時間で、地表に向かうほど時間が進んでいきます。
どの年でも、最初は赤く光っているところが1箇所に集中しています。それがだんだん、赤い集中点がなくなって、「やや危険」の黄色が1箇所ではなく周りの路線や交通でつながったところに広がっていく。すごく赤いところはないけれど、黄色の面積で見るとかなり広がってきている、というのが分かります。
過去の経験に照らしてみると、自分もそうだったなと思うのですが、最初は「夜の街が危ない」と特定の場所を名指しして、そこに近づかないようにしようという話でした。それがだんだん――人の心理として慣れが来たのかもしれませんが――集中している場所だけでなく、人の流量が多いところに染み出していく。第1波・第2波・第3波の中でも、人の生活パターンと感染の拡大がリンクしてきている。だから「大都市の中心部ではないけれど、やはり人の多い繁華街に行くのはやめようか」と考えていただくきっかけを作る、という意味で、NHK の番組で何度か使っていただきました。
ワクチンをめぐる SNS の感情の伝播
こちらも NHK と一緒に作ったもので、東京工業大学の鳥海先生のチームからデータをお借りしました。ツイート、特にワクチンに関して、どういう感情がどのように伝播しているかを分析して可視化するプロジェクトです。
数百万件、約1年分のツイートデータを先生方が集めて研究に使われていたので、その全体像を可視化するとどうなるかという興味から、8K の高解像度デバイスでどれだけ詳細な状況が見えるかを専門家と一緒にデザインしました。
下部のグラフは1日ごとのツイート回数です。ワクチンに関して大きなニュースが流れると、それに対するツイートが増える。世間の話題のきっかけになるニュースと、Twitter 空間の状況がどうリンクしているかを見やすくしています。1つ1つの点がアカウントで、ワクチンに対してどういう感情を持っているかでクラスタリングした結果が色分けです。リプライやリツイートをするとアカウント間に線が張られ、どんな言葉・引用コメントでやり取りしたかを感情分析して、ポジティブなら青、ネガティブならピンクで表現しました。ニュースが流れたときに SNS の中で人がどう反応しているのか、その全体像を見てみようとチャレンジした作品です。
線状降水帯のメカニズム
がらっと変わって、NHK と気象研究所と一緒にやっているプロジェクトです。線状降水帯が大きな被害をもたらすことがニュースでも報道されていますが、それがどのように発生するのか、そのメカニズムを解析する研究が気象研究所で行われています。
「富岳」を使ってかなり細かいメッシュで計算しているのですが、研究者の皆さんは自分のデスクトップで見られるように、時間や空間を絞って見ているわけです。そのデータの全量を3次元的に可視化すると、一体どういう映像になるのか。NHK のチームと作っている作品です。
一般公開もするのですが、実際に研究者の方に見ていただくと、自前のツールでは見えなかった風の動きや雲の湧き始めの部分などを、いろいろな角度からグリグリ回して見ていただける。一般の人だけでなく研究者にも有益に使っていただける可視化をデザインする、というプロジェクトです。
私が作っているもの
私がやっているのは、かなり大規模な、研究者が持っているようなデータを扱う仕事です。それを研究者が探索するのではなく、できるだけ一般の方に見ていただく。その中で、そこまで関心がなかった人たちが「何だろうこれ、すごい面白いな」と、そのデータが持つテーマや、データから見える意味そのものに、能動的な態度を持って洞察に向かってきてくれる。
ビジュアライズする側が「こういうストーリーが面白いですよ」と言うのではなく、見る人が自分で探索したり興味を持ったりするきっかけになるビジュアライズを、ここ何年か作っています。
世界の作家たち
こうした大規模な人の行為や社会の動きを可視化するデザイナー・アーティストは、世界にたくさんいます。
Aaron Koblin の “Flight Patterns” は有名です。北米地域に絞り、24時間ちょっとで156万2000件のフライトを描いたもの。場所だけでなく、どんな機体が飛んでいるか(ボーイングかボンバルディアか)といった情報もあるのでフィルターできます。ハブになっている大都市の人の移動と、そこから伸びる中規模・小規模な都市への移動が見えてきて、北米に点在する都市の人口や経済の動きも想像させる、素晴らしくインパクトのある作品です。
Refik Anadol の作品は、日本でも展示されて見る機会が多いと思います。Twitter のデータを使い、サンフランシスコの都市の上にツイートが活発になる様子を映し出す。現実の都市空間と SNS 空間の中で人が活発に活動する様子を重ねて見せるものです。
Pedro Cruz の作品は、アメリカの移民データを木の年輪のような形で表したもの。色はどこからの移民が多いかを表します。1960年代から見ていくと、最初は緑(ヨーロッパからの移民)がどんどん成長する木のように見える。だんだん現代に近づくと、アジアやラテンアメリカからの流入が多くなり、木の成長に例えると非常にいびつな格好をしている――というビジュアルインパクトを与えます。アメリカの移民問題はさまざまな社会問題と深くつながっていますが、決して順風満帆に綺麗に成長したのではなく、さまざまな人がいろいろな時代に入ってきたことで現代のアメリカ社会が成り立っている。それをビジュアルを通して伝えていく作品です。
Google の “High-Dimensional Space”(大規模で次元数の高いデータをいかに圧縮して見せるか)のようなプロジェクトもあります。
こうした作品は、ほとんどアートの文脈で発表されるものも多い。デザインとして何かを伝えよう、メッセージを明確に送ろうと作られているものも多いですが、どこからがアートでどこからがデザインかを線引きするのは難しく、ビジュアライズとして作られたものが美術館で展示されたり収蔵されたりというのが現状かなと思います。
「作り方」が見えないという問題
こういった、人を圧倒するような、他で見たことのないビジュアライズは、ほとんどその制作過程が謎めいています。中には「こう作りました」と共有されるものもありますが、一般的に「やってみよう」とすると難しいものが多い。
- 作家が感覚的に作っているんじゃないか
- そういうデータはどうやって見つけてくるのか
- データから作品にするためのアイデアはどう作るのか
- 解釈をどれだけ鑑賞者に委ねていいのか
- 科学的な正しさはどう担保するのか
こうしたことが、なかなか見えてこない。私自身、「すごくかっこいい作品だな」と思っても、「あれを自分1人でやるとしたらどうやるんだろう」という壁にぶち当たってしまうわけです。
結論から言うと
そうした問題意識を持って社会人博士課程を過ごし、作り方の土台になるものは作れないだろうかという研究をしてきました。この夏に博士論文を提出して学位を取得しましたが、その中で書いたことは、結論から言うと――
- マニュアルやフレームワークで、ああいったものを作るのは難しい
- ではどうするか。事前に「このデータからこういうものが見えるだろう」という問いや課題を明確に設定せず、可視化を何度も繰り返し(イテレーションし)ながら問いを立てていくプロセスがうまくいくだろう
- そうしたプロジェクトはデザイナー1人ではできないので、さまざまなドメイン専門家とのコミュニケーションを築きながら作る。その中でもデザイナーがプロジェクト全体をリードしていくとうまくいくだろう
では、デザイナーがリードするとき、データに対する知識を持つドメイン専門家とどう信頼関係を構築するか。ビジュアルがかっこいいものを作るだけでは仕方がないので、専門家との対話を通じて問いを育て、ビジュアルをブラッシュアップしていくにはどうすればいいのか。
そうしたプロジェクトをいろいろやると、途中で起こる問題には一定の共通性があります。「またこういう問題だよね」「あのプロジェクトでもこういうことあったよね」という“あるある問題”がかなり出てくる。マニュアル化は不可能でも、一定のプロジェクトの進み方のモデルがあると嬉しい。さまざまな問題に対処しながらイテレーションしていくとき、ある程度の共通の経験則を言語化しておけば、他のデザイナーが同じようなプロジェクトをやるときに「こういうシーンでこんな問題が起きそうだ」と事前に共有しやすい。そういうものを作れるといいな、という研究をしました。
(詳細は博士論文にすべて書いてあります。260ページほどあってとても長いのですが、興味のある方は私の X の固定ポストにリンクを貼ってあり、どなたでも読める状態になっています。)
データビジュアライゼーションとは何か
ここからは博士論文の内容を要約してお話しします。まず、そもそもデータビジュアライゼーションとは何だろう、というところから。言葉はよく使われますが、何を意味するかは人それぞれな部分がありますので、整理から始めます。
データを可視化することには「探索的可視化」「説明的可視化」という機能がある、と一般によく言われます。そこをもう少し掘り下げて、大規模なデータビジュアライゼーションが社会にとってどういうものなのかを整理すると、周りに3つの存在があると定義できます。
学術研究:大規模なデータを扱う研究は、今や分野を問わずかなり増えています。昔はデータをあまり使わない研究もありましたが、幅広い分野で大規模データを扱うスタイルに変わってきました。
市民:研究が社会に波及していくとき、市民の側は情報過多になっていて、知りたいものだけをつまみ食いするような情報摂取スタイルに変わってきています。大事な研究、社会で考えていかなければいけない研究を掘り下げるための手段が少ない。
社会課題:単純な答えのない社会課題がかなり増えている中で、「研究で確定したからこうだ」というものはなかなかない。研究で分かったことから、どう考えていくかを議論しながら答えを見つけていかなければならない。
これらをつなぐポジションとして、データビジュアライゼーションは機能するだろうと考えています。先ほどお見せしたプロジェクトでも、常に学術・社会・市民という立場を考えながら最適なものを作るというポリシーで制作しています。データビジュアライゼーションそのものは「モノ」のデザインですが、この関係性で考えると、モノだけでなく「コト」を考えながらデザインするもの、と捉えてもいいのではないかと思います。
関連研究 ― 3つのモデル
では、どうやって作るのか。データビジュアライズの作り方に関するフレームワークやモデルは、調べるとかなりあります。有名どころだけお話しすると――
Munzner のモデル:ヒューマンセンタード・デザイン、あるいは HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)の世界で、専門家が探索的に問題を発見していくタスクを分析し、そのタスクを効率的に達成できるものを作るときによく出てくるモデルです。
Andy Kirk の4ステージプロセス:日本語版も出ているので読まれた方も多いと思います。データジャーナリズムやスクロリーテリングもここに入ってくると思いますが、編集的思考――データの中からどんなストーリーを出したいか、どういう人に届けるか――と、相手やストーリーを厳密に絞りながらデザインしていくスタイルです。
Ben Fry の Computational Information Design:これが、先ほどのアートのようなデータビジュアライゼーションを作るプロセスと関連が深いものです。Processing というプログラミング環境を開発した Ben Fry が提唱しました。前の2つと似てはいるのですが、ステップを縦横無尽に行き来する。「こういうものが見えたから、こういう分析に変えよう」と、見えたものに対してレビューしながら方針をどんどんラフに変えていく、少しアジャイルっぽい進め方です。デザインをたくさん作る、プロトタイプをたくさん作るという意味で「Processing のようなものがあるといい」という考え方から、Processing 自体がそのマインドを反映して開発された、という経緯もあります。
Ben Fry の作品は、よく見れば解釈も可能なのですが、ビジュアルはかなりアートっぽい見え方をしています。
私の問題意識 ― 専門家とデザイナーの対話
データビジュアライズをするとき、デザイナーはすべてのデータに精通しているわけではありません。たとえば生命科学のデータを使うときは、そのデータの形式はどうなのか、このデータはどう取得されたのか、というところも掘り下げなければならないはずです。
ところが Ben Fry のモデルは、それを全部1人でやっている雰囲気があります。専門家とデザイナーがどうコミュニケーションしているかに、あまり言及されていない。では実際、現場で起こる専門家とデザイナーの対話やコミュニケーションはどういうものなのか。そこを取り出してみたい――これが私の研究の一番根っこにあります。
デザイナーがどの段階で関わるかを図にすると、データ分析をする人がいて、「こういう風にデザインしよう」と形が決まったところでデザイナーが呼ばれるパターンが多いと思います。しかし、デザイナーの領域をどんどん拡大して、最初のプロトタイプの段階からデザイナーが新しい可視化を生み出しながら考えを進展させる――それが Ben Fry の考えるプロセスです。
制作プロセスの観察
そこで、デザイナーと専門家のコミュニケーション、そしてそれが進展していくプロセスを観察しました。
対象は、先ほどの新型コロナ3次元系統樹のプロジェクトです。NHK さんの許可もいただいて、会議でどんなやり取りがなされたかの会話ログ、私が書いたプログラムのコミットログ、プロトタイプにフィードバックした専門家の言葉などを分析し、どんなタスクをどう進めていったのかを分析しました。(プロセス自体の話は3年前にこのミートアップでお話ししていて、アーカイブが残っているので興味のある方はご覧ください。)
出発点はアバウトに
プロジェクトの出発点は、「このデータは地理空間の情報でもあり、時系列の情報でもあり、変異の情報も含む。そのビッグデータを1つの画面に載せるとしたら、どんなことが見えるかな」という、かなりアバウトなものでした。あまりはっきりと「これを見よう」と決めずに出発しています。
ステップ1:専門家の可視化を学ぶ
まず、そういうデータは研究の中ですでに可視化されているので、「そのデータがあるとき、研究者はどんな図を使って何を見ているのか」をデザイナーである私が掘り下げて勉強していきます。「こういう図ではこういうことが見える」「こういう分析をしたいときはこう可視化する」という、専門家が使っている可視化のツールやボキャブラリーを吸収していきます。
ステップ2:ラフスケッチとプロトタイプ
そしてラフなお題があった中で、「系統樹を時空間上にマップしたら、実断面を通過するように見えるんじゃないか」というアイデアを会議でスケッチします。できるかどうか全然分からない中で、とにかくやってみる。
ラフにプログラムを書くと、案の定ヘアボール化してかなり見づらい。その途中経過も専門家に見てもらいながら、「こう可視化できるなら、どの経路から入ってきたか、特定の経路だけ色分けしたらどうか」とプロトタイプを作る。
同時に、見えているものが科学的に正しいかどうか、アルゴリズムの検証も進めます。研究者の方から「このウイルスは確かにここで見つかって、おそらくここで分岐したのだと思います」といった確からしさを確かめながら進めていきます。
見づらさをどう解消するか。系統樹の枝分かれの部分をどう束ねれば見やすくなるか、束ねることで大事なところが潰れてしまわないかを検証しながらアルゴリズムを作る。結果として、ある程度絞って簡略化することで、左の図が右の図のように見やすくなり、「どちらから来たものがどちらに広がっているか」が分かりやすくなりました。こうして1つ1つの問題を解消しながら進んでいきます。
終わりはない
結果として、どこで終わりということはありません。見えてきた結果を報道に使ったり、展示に使ったり、インタラクティブにしたり。そこまで進んだプロトタイプの中から「この見え方なら、こういうことが話せるんじゃないか」とピックアップしながら、その都度コンテンツに落とし込んでいく流れになります。
見えてきたサイクル
このプロセスを全部分解すると、だいたい100ステップほどありました。それを時系列に並べると――データを取得し、フィルタリングやマイニング、仮の表現をして、探索的なインターフェイスを作り、「レビュー」で専門家と話し合う。
専門家はずっと一緒にいるわけではなく、レビューのところで見ていただく。すると「こう見えるなら野生株の広がりを見たいよね」「ある国で検出した変異がどういうルーツを持つのか見たいよね」と、新たな問いがたくさん生まれてくる。これがアイデアの種になって進んでいきます。
このジグザグを繰り返して、最終的に、科学的な正しさもあり、その広がりが普通の人が見ても分かりやすくインパクトもある、というものができ上がっていきます。あとはコンテンツにする際のテロップを入れたり、色を調整したりという作業が入ります。レビュー段階で上がってきた「こういうのを見てみたいよね」というアイデアをブラッシュアップしたものが、公開時の映像に取り込まれていく。「日本に入ってきた流入経路だけ見たい」という要望があり、その機能を追加する、といったこともありました。
分解したタスクが、どうタスクとタスクでつながっているかを可視化してみると、やはりサイクルがあります。レビューを通して新たな問いが見つかり、そのためにフィルタリングからやり直し、マイニングして、また表現してみる。このぐるぐるとしたサイクルを回すことで、同じデータを使っていながら、さまざまな情報を取り出し、さまざまなストーリーを見つけることができる。どのプロジェクトにも共通して見える、いいサイクルだと言えるのではないかと思います。
DEX モデル
これをモデル化して、名付けをしました。
- Diving(ダイビング):最初の段階で、専門家に対してデザイナーが受け身にならず――専門家からもらったものを綺麗にするだけのデザインでは、ここまでいろいろなことは見えてこないと思います――データや対象に対して、デザイナーからどんどん情報収集をしていくプロセス。
- Exploring(エクスプローリング):イテレーションの部分。可視化して意味を探求し、レビューを通じて意味を取り出していく。専門家が全部分かっているわけではなく、「この辺が特徴的に見えるけれど、これは何でしょうね」「多分こういうことだと思うけど、ちょっと調べてみます」という対等な関係ができていく。そして「ここはこういう現象が見えていると言って差し支えないと思います」という形で、さまざまな事実が見えてくる。
- Assembling(アセンブリング):見えてきた事実を「面白いので、メディアとして組み立てましょう」というステップ。
この3つの頭文字を取って DEX というモデルと呼んでいます。こんな大きな枠組みがあると、最初にふわっとした目標を立てても、見失わずに進んでいけるのではないかと思います。
ざっくりまとめると、研究者とデザイナーはお互いを補い合う関係です。研究者の関心や知見をデザイナーが吸収して創造的な可視化を作ることで、研究者が自分の関心の部分しか見ていなかったところに、他の意味や多様な解釈を見つけたり、美感を考慮したビジュアライズとして作っていく。これは研究者が「こう作ってください」と言ったものでもなく、デザイナーが「こう作りたい」と思ったものでもない。お互いのやり取りの中から、創造的なビジュアライズが出てくるわけです。
パターン・ランゲージ
大きなモデルがあっても、実際に問題が起きたときにどうするかを実践するのは難しい。そこでパターン・ランゲージも一緒に作りました。
パターン・ランゲージとは、ある領域において良い質を生むための設計の本質的なパターン。平たく言えば「こういう風にやると良くなるよね」という“あるある”に近いものです。ただ、それが自分の中でしか分からなかったり、限られた人だけで「ああ、あれだよね」と言っていてもなかなか広がらない。体系化して共通言語のように使うことで、同じようなことをする方が事前に学習したり、「私はこういうパターンを見つけた」というものをコミュニティで共有していくことができる。そういう狙いを持っています。
Diving / Exploring / Assembling の中でどういった問題が起きやすいか、33個のパターンを抽出して説明しています。実際のプロジェクトで、マイニングの段階でやったこと、フィルタリングの段階でやったことなど、どのプロジェクトでも共通する経験値を50個ほど出して、後から構成し直すという形で作りました。
たとえば Diving のところでは、「ツールを使えばパッと可視化できてしまうけれど、そのデータの背景は何だろう、というところまで想像してみよう」というパターン。変数についても、「数字そのものが意味を持っているような感じはするけれど、その数値はどういう範囲で正確なのか、意味を掘り下げてみる」――そうしないと、ただ可視化するだけでは見えてこないものもある。「レシピを残さないと後で再現できない」といった、当たり前のようで大事なことも入っています。
このパターンとモデルを学生に使ってもらい、ワークショップをしました。専門家もワークショップに参加して、参加者が自らヒアリングやレビューを重ねながら作品を作る、ということを行っています。
なぜ「創造」するのか
まとめとして、「創造する」というテーマに話を戻します。わざわざ時間と労力をかけて新しいビジュアライゼーションを創造する意義は何なのか。
大規模なデータが社会構造を変えるような可能性が、いろいろと出てきています。大規模言語モデルや生成AI のように、超巨大なデータからブレークスルーが生まれるのは LLM だけでなく、いろいろな学術領域で発生していることです。
ただ、そのデータは大規模に取れるがゆえにかなり複雑です。複雑なので分析も大変なのですが、分析していく過程でいろいろなものが削ぎ落とされていく。ですから、複雑なものを複雑なまま捉えることに価値が出てきているのではないかと考えています。
「整形・集計してしまうとみんな同じになってしまうけれど、よく生データを見たら全然違う」という話も象徴的です。情報を圧縮することで、重要な視点が削ぎ落とされる。これはある種宿命的なところで、シンプルに伝えようとすればするほど、ビジュアライズも情報が削ぎ落とされてしまう。実際のところどうなのか、人の想像力を働かせてもらうためには、複雑なものを見てもらう方が、その実態に対してイメージを膨らませてもらえると考えています。
可視化が世界の捉え方を変えてきた
ロングスパンで考えると、人類は可視化することで世界の捉え方を発見してきた、と言えると思います。科学革命以前の神話や宗教の世界観から科学が発展して今に至るわけですが、その都度、今我々がよく使うビジュアライゼーションは、社会的な大きなニーズが生まれて作られてきました。
Robert Plot(plot の語源になったと言われる人物)は、気圧という人間が直接感知できないものをプロットすることで、気象の中のパターンを見出しました。場所が違えば変わってくる。こうした変動が風を起こし、天候の変化につながっていくのだろう――観測してデータとして表すことで、それまで人間が感知し得なかった世界が見えてくる。
Minard の有名なナポレオンの進軍図。なぜ Minard がこれをやったかというと、彼はデザイナーではなく土木技師なんですね。産業革命が起こってイギリスで鉄道ができ、フランスにも鉄道を引きたいとなったとき、「ではどこに引くか」。交通を調べたり、どこからパリに肉を運んでいるかという家畜の流動を調べたりして、それを地図の上に表現する。鉄道は一度引くと引き直せないので、そういうことが必要になった。交通網の発展と、地図上に統計データを可視化することが結びついて、非常にインパクトのある作品が数多く作られ、その中にナポレオンの進軍図もあるわけです。
ピクトグラム(アイソタイプ)は Otto Neurath が作ったと言われますが、彼だけでなく、版画家の Gerd Arntz や Marie Neurath といった、数字をいかに形に落とし込むかの専門家――デザイナーに近い存在――とのコラボレーションで作られています。そもそも、資本主義に任せておくと格差が開いてしまうから計画経済の方がいいのではないか、という経済論争が起こったときに、労働者階級の人にも経済を知ってもらった方がいい――そういうニーズがあって生まれてきた背景があります。
地図もそうです。先ほど「メルカトルはやめよう」という話がありましたが、海を渡る時代から飛行機の時代に入って、世界の捉え方も変わってきた。特に冷戦下では、メルカトル図法だと東と西がすごく遠く離れたものに感じてしまいますが、北極から見る形にすると「北極を挟んで隣り合っているじゃないか」と、世界の見え方が変わってくる。Buckminster Fuller が作った図は、国連旗のイメージにも影響を与えたと言われています。
このように、可視化のビジョンが変わることは、世界観を変えていく力を持っています。AI の時代に入っていくとき、ずっとプロットや棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフだけで済むことは、意外に少ないのかもしれない。もっと新しい見え方を考えていかなければならない――人類の長い歴史を見ると、そう思うわけです。
これから
複雑なものを複雑なまま捉えることの価値は、これから AI の時代に入っていくときに、いっそう重要になると思います。データそのものの形は見えづらくなっていく一方で、それが ChatGPT のようなパワーを発揮している。ChatGPT を使うこととは別に、データとはどういうものなのか、データから見る世界の捉え方は、新しく作っていく価値があるのではないかと考えています。
そのために何をすべきか。既存のビジュアライゼーション手法やライブラリを利用するだけでなく、先ほどの学生作品のように、少し荒削りでも創造的(クリエイティブ)なビジュアライズにどんどんチャレンジするデザイナーが出てきていいのではないか。そのとき、デザイナーの独りよがりではなく、ドメイン専門家とビジュアライズデザイナーのハッピーな関係をいかに作っていけるか。そこで、先ほどのようなモデルが何らか役に立てるのではないかと思います。
最後に言うと、デザイナーが手を出しやすい環境は揃ってきていると思います。美術大学でビジュアライズの授業もやっていますが、勘のいい学生、プログラミングが好きな学生は年々増えています。Processing や p5.js、three.js、Jupyter Notebook も使えるという学生は、昔ほど珍しい存在ではなくなってきた。
専門家とビジュアライズデザイナーがどう手を取り合ってプロジェクトを進め、課題を発見していくか。そこにたくさんの人がトライできれば――「日本のビジュアライゼーションはあまり盛り上がっていない」という話もありますが、プログラミングやビジュアルコーディングが好きだという人がビジュアライズの世界に入ってきてくれれば、また景色は変わっていくのではないかと考えています。
というわけで、この辺りで終了しておきたいと思います。ありがとうございました。