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矢崎 裕一/詐欺グラフをだいたい全部終わらせる!

Data Visualization Japan Meetup 2023(2023年12月29・30日開催)における、矢崎 裕一の講演です。「詐欺グラフ」をチャートの構造から捉え直し、可視化することの功罪や、正確さと演出のバランスまでを扱います。


「詐欺グラフをだいたい全部終わらせる」というタイトルをつけてみました。

流れとしては、最初にチャートの構造を理解する——ここだけは事例が出てこないのですが——それを踏まえていくつかの切り口でお話をしていき、後半でもう少し視野を広げて、可視化すること自体の功罪、そして正確さと演出の境目という話ができればと思います。

今日話さないこと

データ分析における誤った解釈認知バイアスについては、話が膨大になりすぎるので、今日は可視化の話に絞ります。ただ、少しだけ触れておきます。

データ分析における誤った解釈

分かりやすかった概念図をご紹介すると、ある記事からの引用ですが、記述統計と推測統計という2つのプロセスが上から下へ順番に進んでいく——記述的・探索的・推測的・予測的・因果的という段階を経ていきます。

その成果に対して、過小評価でも過大評価でも、違う形で評価してしまうことが、いわゆるデータ分析における誤った解釈と言えるのではないかと思います。これは分析当事者だけでなく、それを聞いた第三者が誤解することも含めてです。

分析者自身が誤解した例としては——お名前を挙げて恐縮ですが——Google の研究者の方が、インフルエンザに関連する検索ワードの検索結果からインフルエンザを予測するという研究を発表され、数年後に撤回されたという件があります。**予測的だと思われていたものが、実際の内容としては探索的だった。**そういうズレのことを言うのかなと思います。

認知バイアス

こちらもいろいろな話題があるので今日は泣く泣くお見送りしますが、まとめられたものが2つあり、どちらも同じ情報ソース(Wikipedia に載っている認知バイアスの一覧)を出発点にしているのが面白いところです。

**左は、それを一旦自分なりに取りまとめてグルーピングし、ブログで発表したもの。**経験則でまとめられています。右は、研究の手順を踏んで、過去のいろいろな研究成果と全部突き合わせて調べていったという大変な労作で、論文の挿絵として掲載されているものです。

あくまで感覚値ですが、**良くも悪くも左の方がバズるんですよね。**ビジュアルの印象が強くて。プロセスの精度は右の方が圧倒的に高いのに、成果として現れたビジュアルのインパクトの違いで、ちょっともったいないことをしているなと思いました。

「詐欺グラフ」という言葉

今日のタイトルには「詐欺」という言葉が使われています。良くも悪くも、結構強い言葉ですよね。

日本語でいう「詐欺グラフ」に似たニュアンスの言葉を、いろいろな人がいろいろに使っています。それを作り手目線のものと、消費者(見る側)目線のものに分けて整理してみました。

  • 作り手目線:「絶対に描いてはいけない」「すべきではないよね」「失態だよね」
  • 消費者目線:「詐欺グラフ」「ミスリーディング」「デセプティブ・ビジュアライゼーション」

「詐欺」と一口に言ったとき、作り手が意図を持って騙そうとしているニュアンスがあると思うのですが、そういう意図がなくても結果的にそうなってしまう場合もありますし、受け手の側がうまく解釈できずに誤って解釈してしまうこともあるのではないかと思います。同様の分類は、他の書き手によってもなされています。

チャートクイズ

ここから少しカジュアルに、チャートクイズをやっていきたいと思います。2つのチャートを見せるので、同じ種類か別の種類かを考えてみてください。

第1問

1つ目はコロナの新規陽性者数のチャート。日本・中国・韓国だけをピックアップしたものです。2つ目はアメリカ・日本・中国の3か国での、論文シェアの推移です。

パッと見、形は似ていますよね。似ているから同じチャートかと思いきや——よくチャートの下の方を見ていただくと、**左は時間が示されている。**時間の経過に伴って陽性者数がどう変わったのかを示しています。右は時間ではなく、いろいろな研究領域の名前が並んでいる。

つまり**左は折れ線グラフ、右はパラレルコーディネート(平行座標プロット)**というチャートです。

カタカナで「それ何ですか」という感じだと思いますが、意外といろいろなところで使われています。実際この右のものは毎日新聞さんの記事で使われていたチャートです。

これもパラレルコーディネートですね。宇都宮健児さんという候補の得票率を、東京都内の基礎自治体ごとに並べてみているもの。「パラレル」は軸が平行に並んでいるという意味、「コーディネート」は座標系という意味なので、一つひとつの項目において数値がいくつなのかを並べているという感じになります。

背景の縦の軸が省略されていて、折れ線だけがパッと目に入ってくるので「折れ線グラフかな」と思ってしまう。そして「よく見ると時系列じゃない、時系列データじゃないのに折れ線グラフを使うのはけしからん」とおっしゃる方が SNS などにいらっしゃったりするのですが、実際には別々のチャートであるというところかなと思います。

第2問

1つ目は菓子類の1世帯あたりの年間支出金額のランキング。2つ目は日本全国の家庭世帯の所得の分布状況です。

これも下にどんなラベル文字が並んでいるかを見ていくと——左は一つひとつが物の名前、基礎自治体の名前になっています。右は100万円未満から始まって2000万円以上まで、数値が滑らかに続いている。

両方とも棒の長さや面積で大きさを示しているので、パッと見ると両方とも棒グラフかなと思うのですが、左が棒グラフ、右がヒストグラムです。

**棒グラフは、一つひとつ個別のものがどれだけの数値なのかを示すためのチャート。**ヒストグラムは、世帯の収入を小さい順に一旦全部並べ直した上で、そのままだと全体の姿が分かりづらいので100万円単位でグルーピングし、それぞれに該当する世帯がどれくらいあるかを示している。

ですので、右は棒がぴったりくっついていないとダメなんですよね。下の数値が全部連続的なので、棒が開いてしまうと「そこの空きは何なんだ」「そこに該当する世帯はないのかあるのか」という話になってしまう。

第3問

1つ目はいろいろなナッツの栄養成分を5つ並べて表示したもの。ピーナッツだとこう、アーモンドだとこう、という形で表示されています。2つ目はナイチンゲールの有名なチャート。ちょっと古風ですが、パッと見は似ていそうです。

これについても、周囲にどんなデータが書いてあるかですよね。左は食物繊維・ビタミンE・マグネシウムという形で栄養素が360°を5個で割って並んでいて、それぞれに数値が入っている。

右はよく見ると英語が書いてあって、アナログ時計の12時のところが「7月」となっていて、そこから時計回りに1年間ぐるっと示している。****つまりこれは時系列データなんです。通常の折れ線グラフだと左から右に時間が流れますが、これはアナログ時計の12時から1周回る形で時間の流れを示している。

ナイチンゲールのものは、読み方をご存じの方も多いと思いますが——**ナイチンゲールが戦場の病院に赴いて、戦争で傷ついた兵士たちの治療をしていた。**そのとき、戦闘行為で亡くなったというよりも、病院の衛生状況が悪くて亡くなった人が多かった。****それを衛生状態の改善によって少なくしていったんだというのを示しています。右が改善前、左が改善後ですね。

実際に戦地の病院にいない人に、それを伝えるのは一見直感的ではないじゃないですか。**戦闘で亡くなった人よりも衛生状況で亡くなった人の方が多いという話は。**そこを何とか伝えるために、言葉や数字の並びだけではなく、こういうチャートを使ったということになります。

というわけで、3問とも別の種類のチャートでした。

パッと見たときに「同じかな、違うかな」と迷うポイントは、折れている線に目が行く、あるいは棒の長さや面積を使っているから同じだと思う——というところですよね。

チャートの構造を理解する

ここから、チャートの構造の話をしていきます。

一瞬アニメーションの話をしますが、アニメーションはかつてセル画に直接描いて、透明なシートを重ねて1つの絵を作っていた。最近のデジタルでも、いろいろなアプリで結局レイヤーを重ねて絵を描いているので、構造的には一緒かなという感じがします。

そのとき、**背景には景色を描く。**時間帯や場所、どんな状況にいるのかが描かれている。前景にはストーリーに登場する人物の行動や心情が描かれていて、重ねることで1つの絵になる。

チャートについても似たことが言えます。

  1. チャートを描く空間が、どういう制約に基づいているのか
  2. データそのものを、どうやって記号づけしているか——丸とか四角とか、線の長さ、線の傾きとか

これが重なって1つのチャートを構成している。

図にすると、一番左の「変数」——Excel のような表データを考えたときの1つの縦の塊——それを前景と背景に分け、**前景を「ビジュアル変換」、背景(チャートの空間)を「スペース変換」と呼んでいます。もう1つ、薄い文字で「ノンデータ・テーマグラフィック」**が入っています。この3要素を重ねると1個のチャートになる。

ビジュアル変換

データを視覚的に、記号づけを使ってどう表現していくか。****記号を使うのはピュアだから、雑味がないからですよね。

線、形、丸の数、角度、サイズ、位置、色使い——そういったものでデータを表現していく。普段見慣れているチャートで言えば、棒グラフの棒の部分、円グラフの扇形の部分、ああいった部分を取り出して見ている感じです。

スペース変換

**チャートを描画するスペースをどう定義するか。**いくつか種類があります。

  • 直交座標系——散布図や棒グラフで使っているもの。「直交」は90°で交わるという意味。x軸・y軸それぞれに変数を割り当てているので、その軸の中でどこに配置するかというルールが決まる。
  • 極座標系——円グラフなどで使われるもの。真ん中に原点があって、そこからの半径の距離と角度で配置を決めていく。
  • 平行座標系——さっき出てきたパラレルコーディネートの日本語訳がこれです。スペース変換の名前がそのままチャートの名前になった、ちょっと紛らわしい例と言えます。
  • 地理座標系
  • ネットワーク座標系——人間関係や会社同士の取引関係などを可視化するときに、**関係性で配置が決まる。**空っぽな空間だけが用意されていて、そこにいい感じで配置されていく。スペース側には「どこにいなければいけない」というルールはない。

下の2つ(地理・ネットワーク)は、特定の変数に紐づかないで配置場所が決まるという感じになっています。

スケール

もう1つ登場人物がいて、スケールです。ここだけちょっとややこしい。

データをそのまま視覚表現に持ってこられないわけですよね。センサーのデータなら 0.05 とか 0.1 とかすごく小さい数値だったり、統計データなら人口10万という数値だったりする。バブルチャートで表現しようと思ったとき、10万という数値をそのまま面積に反映させることはできないし、0.1 をそのまま持っていくこともできない。

だから表現用に一旦「箱」の中を経由して、最終的に表現のスタイルが決まる。

種類はいろいろあって、数値なら一般的にはリニアスケールが使われることが多いですが、時にはログスケールが使われることもある。数値以外では名義尺度や順序尺度——言葉のデータですね——が使われたりします。

ノンデータ・テーマグラフィック

データと関係はないけれど、テーマとは関係があるグラフィックスを、場合によって入れることがあります。直接データを描いていないけれど、テーマを理解できるよねというものであれば入れてもいいのではないか。逆に、テーマに関係なかったり、理解の促進にならないものは入れない方がいいのではないか。

たとえば、日本全国で1年間に出る量を「プール42万杯分」で表現したインフォグラフィックス的な作品があります。プールの高さを1mだとすると420km。****空と宇宙の境目が100kmぐらいなので、地上から宇宙との境目までの4倍以上の高さになる。

それをパッと理解してもらうために、背景に宇宙空間が広がっていたり、宇宙飛行士が飛んでいたり。宇宙飛行士やどの星が描かれているかはデータに紐づいていないと思いますが、「42万」という数値をパッと理解してもらうための関連情報として付いていると言えるのではないかと思います。

逆の例として、「入社時に重視したポイントを教えてください」という円グラフがあって、おそらく新入社員にアンケートした結果を描いているのだろうと思いますが——床に寝そべってクレヨンで書いているイラストが、新入社員の入社時のこととどれだけ関係があるのか。****もしかしたら関係が薄いかもしれないと判断することはできます。

ビジュアル変換に潜む罠

チャートがこういう構造でできていることを踏まえた上で、まずビジュアル変換の方に潜む罠の話をしていきます。

図形の描画 ― 面積か、半径か

**データを円で表現する。**いわゆるノーコードのツールを使う方は対象外かもしれませんが、デザイナーがグラフィックツールで円の面積によってデータを表現するときに陥りがちな罠です。

**本来はデータを面積の方に反映しなければいけないのに、半径や直径に適用してしまう。**見比べると、ほぼ同じサイズ感に見えるところもありますが、**真ん中あたりを見ていただくと、面積として描かれる結果がだいぶ違う。**半径を使ってしまうと、過小評価してしまうきっかけになる。

円の面積は半径×半径×3.14ですよね。ところが**Adobe Illustrator で丸を作ろうとすると、UI としては直径しか入力できない。**最近ブラウザーで動く Figma でも同様で、グラフィックツール上では直径もしくは半径しか入力できない。Web の SVG半径で定義することになっている。つまり、面積を正しくそのまま反映させるのはなかなか難しいという現状がある。

これに関しては式に合わせるしかない。****面積に値するデータの平方根を取ってあげると半径が出来上がる。(最後の 3.14 については、先ほどのスケールの中で吸収できる話なので一旦考慮しなくて大丈夫です。)

平方根は、iPhone の計算機アプリを横向き(ランドスケープ)にすると出てくるボタンで計算できますし、Excel や Google スプレッドシートでも算出できます。これを使うことで、**データを正しく面積に反映させられる。**三角形についても同じような話なので省略しますが、式を改めればOKです。

色 ― データに連動しているか

着色がデータに連動していないケースもたまに見かけます。

ワードクラウドで検索すると、カラフルなグラフィックが出てきます。このカラフルな色使いが何らかのデータに連動していればいいのですが、連動していないものも散見される。

Exploratory というツールでワードクラウドを作ってみたもの(『銀河鉄道の夜』が入っています)では——ワードクラウドは登場することの多い文字がより大きく、少ない文字が小さくなる表現方法なので、それに合わせて色も着けていく。そうすると文字の大きさとともに数値の大きさが理解できるものになります。

補足すると、ワードクラウドは元々の文字数が単語によって違いますよね。1文字だったり5文字だったり。そこも含めると正確に伝えるという点では少し微妙かもしれないのですが、キャッチーで分かりやすいやり方としてご紹介しています。

あるいはユーザーローカルさんのテキストマイニングツールの場合は、名詞・動詞・形容詞・副詞といった品詞ごとに色分けができる。これはデータに基づいているのでいいのかなと思います。

色 ― 気づきが得られるか

**着色することで何らかの気づきが得られるものであるか。**ここも非常に大事だと思っています。

少し前に非常に興味深かったものとして——甲子園に出場する各チームのベンチ入り20人が、それぞれどこの都道府県の中学校出身なのかというデータが公開されていました。面白いと思ってデータをいただき、一旦サンキーダイアグラムで可視化してみました。左に出場校の名前、右に都道府県の名前が入っています。

**ただ、ここまでやってみて「分かりづらいんじゃないか」と思った。**高校の数がたくさんあって、それらを全部色で見分けられるかというと、なかなか見分けられない。

そこで地方ごとに分けてみました。そうすると、東北だと花巻東——大谷翔平さんの出身校ですね——はほぼほぼ東北地方から中学生が集まってきている。一方で仙台育英は**地域の外からも結構人が来ている。**宮城県外というだけでなく、東北地方の外からということです。

四国の高知中央などは、本当に地域の外のいろいろなところから人が集まっているのが見て取れます。着色されているかいないかで「その地方の出身かそうでないか」だけに関心を持って見ることができる。つまり着色自体が、地方出身かどうかを見分けるための手段になっている。

一見いろいろな色が使われていてカラフルで美しく見えるといい感じもするのですが、「ここから何を読み取るのか」と思ったときには、色を意識的に使う必要がある。****もし理解の妨げになるようだったら、あえて使わないという勇気も必要なのではないかと思います。

カラースキームの適用ミス

東京都さんが公表していた、コロナ禍当時の新規陽性者数の1週間ぐらいの地図です。右下に凡例があります。何が良くないのか。

いわゆる色相の部分を取り除いて、明るさだけにしてみるとこうなります。人間の目の細胞のうち明るさを検知するものは感度が強いわけです。

凡例を見ていただくと分かりやすいのですが、一番明るいところが人数が少なくて、だんだん色が暗くなっていくごとに数値が大きくなっていく——これが本来作るべき色のセットなんですよね。ところが一旦明るくなって、また暗くなるという変化になっている。本来であれば、かなり明るいグレーから順番にだんだん暗いグレーになっていくという作り方が正解です。これはちょっと寄り道をしてしまっている。

凡例の破綻

似た話で、当初想定していた幅をデータが大きく外れてしまう例。

コロナ禍におけるアメリカの S&P500 ——日本で言えば日経平均のような指標——の株式の様子を描いたツリーマップです。**面積が時価総額、色が値動き。**右下の凡例を拡大してみると、大きく破綻している。

Amazon だと −7.6% を記録していたりするのに、赤の色がデータの数値に追いついていない。元々1日あたりの値動きで、精々プラスマイナス3%ぐらいだろうという形で設計していたものが、それを超える大きな値動きがあったので破綻してしまった。

**色で数値の大きさを表現すると言っているにもかかわらず、そこを大きく逸脱してしまって表現しきれていない。**事故っているということですね。

先ほどの東京都の陽性者数の別の年度のものも、陽性者数が500人を超えているのがほぼ全域なので**全部紫色になっている。**これも凡例が破綻していると言えます。

階級分け

凡例のところに「100〜199」「200〜299」といった数値の幅が書いてありますよね。この分け方を階級分けと言いますが、いくつに分けるかによっても結構印象が変わります。

これはコロナではなく人口のデータで、基礎自治体ごとに分けたもの。左が5個、右が3個に階級分類したものです。見え方がだいぶ違う。

作り手側は試行錯誤して、それこそ探索的にどれが適切かを探ります。下の黒い四角の部分はヒストグラムで、基礎自治体ごとの人口を少ない順に並べたもの。このヒストグラムの特徴をいかに損ねずに地図上に表現できるか。

3個がいいのか5個がいいのかは作り手の裁量に任されていて、見る側は出来上がった結果を見るしかない。****3個で提供されているときに「5個ならどんな感じなのか」を、データも手元にない状態で想像できるかというと、なかなかできない。だとしたらそのまま受け入れるしかないという話になるし、作り手をいかに信頼するかという話にもなる。作り手としても、そこがミスリードにならない形でやらなければいけない。

ノーコードの BI ツールには階級分けを自動設定する機能がありますが、うまく働くときもあれば、働かないときもある。特にコロナ禍のように陽性者数の最高記録を日々更新していく場合、最大値がどんどん更新されているのに階級分けは「6個で固定」という設定になっていると、記録更新して増えているのに見た目がそんなに変わらない。地図上から事態が良くなっているのか悪くなっているのかが分かりづらい状態になってしまいます。

分岐(diverging)カラースキーム

1つのチャートの中で、増加するものと減少するものを一遍に扱いたいときに、2つの色相を使うという考え方です。明度の変化の仕方は両方一緒だけれど、2つの色相を使うことで整理する。

少し前に全農さんが X にポストされていたもので、納豆の日にちなんで、家計調査から1年間に納豆にどれくらいお金を使うかというデータをランキングに変換したものがありました。

**都道府県は47個しかないので、必ず1位から47位までになる。**ランキングに変換することで、どこかが突出しているのかもしれないし、似たり寄ったりなのかもしれないが、とにかく1位から47位に分ける。そうすると真ん中は24位ですよね。24位より上を赤、下を青として着色していく。

ランキングにすると、良くも悪くも絶対に対立構造が出来上がる。絶対に1位は存在するし、絶対に47位は存在する。納豆で言うと熊本が突出して消費しているのでアノテーションが付いています。

これも場合によっては少し「詐欺」的——言葉がきついですが——とも言えますが、ポジティブに捉えると、単純化してあえて対立構造を作り出すことで理解を促す、あるいは「理解したい」という気持ちを喚起するという使い方はできるのではないかと思いました。

それをいいことに、デザイナー向けの教材も兼ねて汎用的に作ってみました。家計調査に含まれるお米と食パンの消費金額について、**一旦ランキングに変換して、上位が緑、下位が赤っぽい色で、24位を中心に色分けする。**これは結構いろいろなところで使えるのではないかと思いました。

分岐的な色使いは最近ちょっと流行ってきている感じもしていて、少し前にバズった作品も分岐的カラースキームでした。北米における平均寿命を色で表したもので、70歳ぐらいが真ん中の基準値で、そこから上が青、下が赤。****結構地域性が出ているのが見て取れます。

同じデータをツールに入れて比べてみると——**分岐的カラースキームは真ん中を基準にして上下方向に別々の色を割り当てる。一方オーソドックスなのは一方向に色が変化していくやり方。**比べてみて、分岐的カラースキームの方が特徴が分かりやすいのではないかと思いました。

ドメイン知識をカラースキームに反映する

秋田魁新報さんという報道機関の気温のデータです。凡例を見ると**16.5℃から32.4℃**で、基準値がおそらく24℃ぐらいに設定されているように見えます。

一方、R のパッケージを精力的に開発されている瓜生さんが、気象庁の気象データのパッケージを公開されています。その中に気象庁の考える色の付け方があり、こういう設計指針がなされている。

見ていくと、10℃から15℃が基準値になっていて、そこから右方向と左方向で別々の色相が割り当てられている。****分岐的なカラースキームと考えることができます。

背景にある考え方はおそらく——10℃から15℃が人にとって心地のいい気温なのだと。それより上がると暑い状態、下がると寒い状態になる。そういうドメイン知識がカラースキームに反映されている。

同じ記者の方が作られた別の作品(真ん中が平均気温のもの)と同じデータを使っているのですが、色の割り当て方は気象庁のものに合わせて使った方がいいのではないかという感じがします。そうすると全体的に黄色〜赤という感じになって、8月の気温なのでかなり暑いというのが伝わります。

操作ミスという罠

これはどうかなという感じですが、パソコンの操作ミスで意外とこういうことが起こる、というものも。

今日の「詐欺グラフ」というタイトルもありますが、何かをあげつらいたいわけでは全くなくて、そこから共有できる学びや、もっと良くしていくにはどうしたらいいかを一緒に考えられればいいと思っています。

ある会社の IR 情報として公開されているもので、真ん中のウォーターフォールチャートの「4」とか「3」とかがプラスマークのように見える。「プラスって何だろう」と一瞬迷うのですが、おそらく数値の背景に青の着色がされていて、パワーポイントの数値を入れる箱の背景と、別にある四角形のエレメントとが重なった結果、高さが小さすぎるものについては数字の背景の着色だけが残ってプラスマークに見えている。

軽微な操作ミスと言えばミスですが、一旦落ち着いて俯瞰してみると「あれ?」となる。

スペース変換に潜む罠

ここからはチャートを描画する空間に潜む罠です。

表示領域

**チャートの表示領域が極端に縦長だったり横長だったりする。**Web だとあまりないかもしれませんが、紙やエディトリアル系のデザインだと、たまにチャート用に用意されたスペースが極端なアスペクト比になっていて、印象がかなり変わってしまいかねない。

軸の省略

福島テレビさんの番組で取り上げられた、ある研究者の方の調査です。当初は左の形で放送されましたが、SNS を中心に「これはミスリードなんじゃないか」という話があり、最終的に右の形で改めて公表し直されたという経緯があります。

**左のチャートは、80%以下のところが描かれていない。**作り手の方がミスリードを意図していたかというと、おそらくしていないと思うんですよね。デザイナーの工夫として「同じじゃん」という部分を省略して、その分、国旗を入れたりいろいろな情報を詰め込んだという感じだと思います。**外からのフィードバックもあって右のようにした。**研究者の方ご本人からも「ちょっとミスリードかもしれませんね」という言及があったようです。

これはネットで拾ってきたものなので、合成されたものではないとは思いますが、直接番組を見たわけではないことを合わせてお伝えした上で——**縦軸の目盛りを見ると 80・90・100 となっていて、90 以降の間隔が広がっている。**その分、該当する部分が上に積み上がって見えるのかなという感じがします。

別のテレビ局のものですが、**下の軸に「5月・6月・7月」と書いてあって、5月と6月の間、6月と7月の間の距離がだいぶ違う。**結果的に、**支持率が下がっていくのが滑らかに見えるような効果になっている。**主義主張がどうということではなく、純粋にこのチャートから「軸が均等でないことによって何が起こっているのか」だけを読み取ろうとすると、ということです。

同じデータ、違う印象

ラムダ技術部さんをご存じでしょうか。YouTube でオープンソース・インテリジェンスに役立ちそうな技術的な Tips を上げてらっしゃる方ですが、少し前に今日の話題に近い動画を上げてらっしゃいました。

左に、チャンネル登録者の増加数の表データがあって、**同じデータをどう切り取るかによって、右に4つのチャートが並んでいる。****それぞれ別々の印象を与える。**期間を限定したり、**軸の目盛りを0からではなく省略したり。**全く同じデータを使っていても、かなり印象が違う。

この辺りは Excel を使って、例の3Dの円グラフなども含めて色々できてしまう感じですよね。軸の基準点を0にしていなくても、折れ線の印象が変わらなければいいんじゃないの、という考え方もあって、それはそうだろうなとも思いました。

**作り手側は分かりますが、見る側・消費する側はここまでは分からない。**実際に見比べれば分かりますが、提供されるのは右の方だけだと思うので、自分でもデータを可視化してみる以外に確かめる方法がないかもしれない。

異なるデータ型の割り当て

本来は折れ線グラフで描くべきところを棒グラフにしてしまっている例。横軸に西暦が入っていて時系列で変化しているのに、軸が均等でなく、かつ棒グラフになっている。

折れ線グラフは、時系列で変化するところの変化量——データ値とデータ値の間をつなぐ線の傾き——が大事なヒントになるので、これが正確に視覚化されるようになっていないとダメなんです。**4年間隔が均等でないなら、1年ごとに全部均等の幅になっているべき。**それによって折れ線の傾きも生成されるので、傾きによって変化量を判断するという根本が全部崩れてしまう。

比較しているのに軸が揃っていない

縦軸が描かれていない中で、よく添えられている数値を見るとだいぶ違うというもの。

少し前に SNS で炎上したことがありましたね。ドコモの新料金プランの図で、これ単体でも結構分かりづらいと思うのですが、左が修正前で、太い方の一番右の4480円が、上の細い線の方の一番左の4150円よりも下にある。****軸の数値を省略しているということです。ただ、今日の後半でご紹介する「コンセプトとしてのチャート」に近いのかもしれないとも思います。

連続的に変化しているように一見見えるけれど、よく数値を見るとだいぶ違う——1万3000いくらと1万6000いくら——実際に並べ直すと、だいぶ印象が操作されているというものもあります。

スケール ― ログスケールを使う理由

通常は線形スケールを使いますが、たとえばコロナの陽性者数のように、感染の広がり方が指数関数的な場合、ログスケールを使うということがあります。

世界各国の陽性者数の変化で、横軸が「何日後」という時系列、縦軸が陽性者数。ここはあえてログスケールが使ってあります。

背景に薄く描かれた直線が5本あって、これは陽性者数の増え方を示しています。**1日あたり2倍に増えるものすごい増え方なのか、2日で2倍なのか、3日かけて2倍なのか。**分かりやすい増え方をガイドライン、基準を示すものとして描いている。

縦軸にログスケールを使うことで、これが初めて直線になる。線形スケールだとぐにゃっと曲線になってしまい、**曲線同士は比較しづらい。****片方が直線になってくれていると比較がしやすい。**それぞれの国がどれくらいのペース感で陽性者数を増やしているのかが把握しやすくなります。

一方で、ログスケールを使うことで失われるものもあります。

ファクトフルネス』——日本だけでも100万部ヒットしたハンス・ロスリングさんの本ですね——彼がよく登壇時に使う Gapminder の話で、「自分の思い込みと実際のデータのギャップに気づこう」と。その代表例として「いわゆる発展途上国と呼ばれる国が、本当に現在もあるんですか」と問いかけていました。

そのデータは**横軸が GDP(経済の大きさ)、縦軸が平均寿命。**横軸を線形スケールでやると、**丸(世界中の国)が結構重なって潰れてしまう。**横軸をログスケールに変えると、うわっと広がって1個1個が見やすくなる。

では、それでOKなのか。****詰まっていたときの方が、国同士をグルーピングできていたわけですよね。GDPが少なくて平均寿命がいろいろという国々と、平均寿命はそれなりに高くてGDPはまちまちという国々——大きく2つのグループに分かれるという特徴が、広げたことで分からなくなってしまったのではないか。

インタラクティブ版で線形とログを切り替えてみると、散らばって1個1個の丸は見やすくなったけれど、最初にあった「塊がある」ということを見失ってしまいかねない。

チャートそのものの限界

ここからは、チャートの選び方に潜む罠です。

面グラフの限界

分かりやすいブログの例を引用します。左は折れ線グラフで、音楽のいろいろなメディア——アナログレコードからカセットテープ、CD、最近だとストリーミングまで——それぞれのアメリカにおける売上の推移です。CD の全盛期があって、それがだんだんしぼんでいき、ストリーミングサービスが発達してくるけれど、かつてほどの売上はないというのが分かります。

この折れ線グラフを面グラフ(着色した状態)にすると——山の形は一緒ですが、カセットテープと CD の重なっている部分で、カセットテープの背景にある CD の部分が一部隠れてしまう。****面積で大きさを表そうとしているのに一部隠れてしまうので、これはよろしくない。

どうするか。面グラフをそのまま使うけれど、縦方向に積み重ねる形にして重ならないようにする(元のデータの方を加工する感じですね)か、ストリームグラフにする。

ストリームグラフは、左から右に時系列で変化するのも、面積で表すのも同じですが、真ん中に基準になる線があって、その上方向と下方向それぞれに数値の変化を色の塗りで示すチャートです。

例として今お見せしているのは、iPad が初めて登場したときに、Twitter 上でどんな言葉で噂されていたか。左(時間が早い方)は Gmail や Kindle ——タブレットデバイスが新しく出てきたことで、電子書籍を読む体験やメールを読む体験が、PC やスマホ以外にも新しく来るぞという湧き立つような感じ。右に行くと時間が経って興奮も落ち着き、ジェイルブレイク——公式の App Store を使わずにどうインストールするか——といったマニアックな層向けの込み入った話題が広がってくるという変化が分かります。

箱ひげ図の限界

箱ひげ図は、1つの変数(表データの1列)に入っている数値を小さい順に並べて、最小値・最大値、そして25%・50%・75%の位置の数値という5つの数値が分かることで、ヒストグラムのような山そのものを見なくても傾向がつかめるのではないか、というものです。

ところが、中身の違う5個のデータをそれぞれ箱ひげ図にしてみたら、全く同じ箱ひげ図に見えるようになりました。****実際には中身が結構違うんです。それはバイオリンプロットという別のチャートで可視化してみると、偏り方が実は違うということが分かる。

**箱ひげ図だとそれが読み取れず、全部同じに見えてしまう。**これが箱ひげ図の限界です。バイオリンプロットの内側には箱ひげ図に近いものが描かれているので、それを取り込んだ上でヒストグラム的な偏りも分かるバイオリンプロットを使うのがいいのではないかと思います。

ベン図の限界

一口にベン図と言ったとき、似た種類でオイラー図と呼ばれるものもあります。

4セットを表すとき、ベン図は数学的に総当たり——あらゆる組み合わせを網羅するという考え方。オイラー図はもう少し柔軟で、実際に存在する組み合わせだけでいいのではないかというもの。ベン図の方を使うと、結構理解が難しい。

具体的には、イギリスの政府がアプリを通じて、感染した方に自分の症状を訴えてもらうという調査をコロナ禍にやりました。だるい・熱がある・吐き気がする・咳がするなど6個の症状があって、**1つしか該当しない人もいれば6個該当する人もいる。**それをアプリで送ってもらう。

**その結果を Nature 系のところで表示すると、6セットのベン図のお化けみたいなものになる。****なかなか読み取るのが大変。**これもチャートの限界の1つです。

別の方が同じデータセットをもっと理解しやすくできないかということで、UpSet プロットというものを開発しました。6個の症状が6色に割り当てられていて、同時に感じる症状が1つの人も2つの人もいる。その1つ・2つがどれなのかも全部分かるようにする。

下半分は「一度に感じる症状が少ない順」に並んでいて、上に伸びている棒グラフは、それぞれの組み合わせに該当する人がどれくらいいたか。****棒グラフの大きい順に見ると、どういう症状を感じている人が多いのかが分かる。そうすると「倦怠感と何か」という人が圧倒的に多いといったことが見えてきます。

ネットワークグラフの限界

先ほど別の方のご発表でもヘアボール問題の話があったと思いますが、ネットワーク図でつながりを表す線が、限られたスペースに膨大に敷き詰められることで、まるで毛玉が集まったみたいに何が何だか分からなくなる。

解決方法の1つは、ノードの配置の仕方を変えてあげることですっきりさせる。

左の配置の仕方は、データに基づいて均等に配置させたいので、磁石とバネを同時に効かせるようなもの。反発し合うけれど引き合う、ということをつながりのあるノード同士全体でやることで、全体が均質的に並ぶ。****1個1個のノードの配置場所を決めるのが楽なのですが、その結果、つながりが多すぎると毛玉のようになってしまう。

配置の仕方をもう少しオーガナイズしてあげることで、すっきりできる。

別の例として、Facebook にインターンに来たエンジニアの方が作った作品があります。世界中に広がる友達関係を可視化しようとしたとき、10万人・100万人といる中で、つながりの数はもっと多い。それを一般的なパソコンのディスプレイなのか、100インチなのか、屋外にプロジェクションする巨大なスクリーンなのか——最終的にどれくらいの大きさで出すかにもよりますが、とてもじゃないけれど線が読み取れない状態になってしまう。

**読み取れなければ意味がない。**ここでどうしたかというと、データの方を加工した。****人同士のつながりではなく、都市同士のつながりにデータを変換する。そうすると数がかなり圧縮されるので、それで描いた。可視化側でどうにもならなくて、データ側を加工することでどうにかしたという例です。

スパイラルの難しさ

ニューヨークタイムズが新しいスパイラルなチャートを記事に使ったことがありました。オミクロン株が広まっていったときの陽性者数を、渦が内側から外側に向かう形で時間の流れを表現したもの。

これは結構ミスリードなんじゃないかということで、X 上でかなりいろいろな人が話題にしていました。普通に描いてみると青と緑で示している高さは倍半分なのに、スパイラルチャートだと青が緑の1/2に見えるかというと、ちょっと見えない感じがする。

プリンスがかつて名前を捨てて発音できない名前に改名した、あのシンボルみたいだというネタ画像を作っていた人もいましたね。あとは改善案として「こういう感じにしてみたらどうか」を別の人が出してみたり、別のエンジニアの方がやってみたりと、議論が膨らんでいきました。

ニューヨークタイムズのような有名なところであっても、おかしいところがあると、主に作り手のコミュニティが突っ込んでいく。****健全な突っ込みが発生するということですね。

ファセット多すぎ問題

ファセットとは、ある変数に含まれるユニークなデータの数のことです。

トランプさんが大統領だったときにホワイトハウスの Twitter アカウントで流れてきたチャートで、アメリカの各州における10万人あたりの陽性者数だと思うのですが——**これで何が読み取れるのだろうか。****読み取るのも難しいし、プレゼンテーションに使うにしても難しい。**突出した2つの州のことは伝わると思いますが。

円グラフもファセットが多すぎると破綻します。****円グラフが最近やり玉に挙げられることが多いと思いますが、その理由の1つは項目数が単純に多すぎて、角度なり面積なりで比較するという機能を果たせないという側面かなという感じがします。ただ、これは使い手側の判断やリテラシーの問題という感じもします。項目が多すぎるなら円グラフを使わないということもあっていいのではないでしょうか。

地図 ― コロプレスマップの構造的な欠陥

地図についても「詐欺」的——鍵かっこ付きの詐欺ですね——に使われることがあります。

分かりやすい例がコロプレスマップ。いわゆる普通の白地図にデータで色を塗ったものです。右は違うスタイル(カルトグラム)で描いています。

どちらも2020年の、バイデンさんとトランプさんが争った大統領選挙のもので、**306対232でバイデンさん(青)が勝っている。**ところが、**引いた目で見ると、左のコロプレスマップは赤が多く見えませんか。****赤が目立つ。**これは明らかにミスリードになってしまう。

アメリカの大統領選は選挙人に投票して、選挙人が投票する形になっていて、州ごとに人口の多さによって選挙人の数が変わる。****面積が大きい州でも人口が少なければ選挙人は少ないし、逆にニューヨークのように面積は小さくても人口が多ければ選挙人も多い。****面積と選挙人の数が比例していないわけです。そうすると印象をかなり損ねてしまう可能性がある。

右は1つの正方形が1人の選挙人で、どちらに投票したかを示している。青い正方形が306個、赤い正方形が232個並んでいる(個数は丸められているかもしれませんが)、それそのものになっている。

左のコロプレスマップはトランプさんのお気に入りだったので、大統領執務室に貼っていたり、いろいろな人に見せびらかしたりしていたようです。一方でカルトグラムバブルの面積で投票結果を示したものの方が、より正確であるということですね。

これは左のコロプレスマップという表示形式が持っている構造的な欠陥——面積がどうしても目に入ってきてしまう——ということなのですが、当時 SNS を見ていると、トランプさんが嫌いな人はアンチトランプ的なことが言いたいから右の方をより強調するし、支持する側の人は左のコロプレスマップを使う。****当時の大統領に対する態度とセットで、地図を主張として使っている方が英語圏にいるなというのは、当時観察して思ったところです。「トランプさんに感謝」みたいな感じで、コロプレスマップの欠点を知るというのを、特にコメントもせずちょっと観察していました。

とはいえ、左のコロプレスマップは分かりやすいんですよね。普段見る地図と同じなので。ではどうするか。

優れたコンテンツをたくさん作ってらっしゃる日経新聞さんやニューヨークタイムズなどは、**コロプレスマップ版とカルトグラム版の両方を用意して、両方見られるようにしている。**これはすごく気が利いていていいですよね。

アノテーション

チャートに補足説明をするために付けられるものですが、四角で囲んだり、「増えていますよ」と示すために矢印がぶわっと引かれていたり。****そちらの方が目立つことで、チャートそのものの印象を少し操作する・上書きするようなアノテーションの使い方もあって、これもちょっと「詐欺」的であると言えるのではないかと思います。

可視化すること自体の功罪

ここからは可視化すること自体の功罪、そして正確性と演出のバランスの話に入っていきます。

パッと思いつくのは破産者マップです。官報に掲載されていた破産された方の情報を一元的に集めて地図で表示するというもの。

国の行政側から「クローズしてください」という命令があり、それに対して従いたくないということで裁判を起こした。裁判の結果としてはその命令は正当であるという話ですね。作られたご本人は「法的に問題ないことを確認した」とおっしゃっていましたが、一元的に集めて公開するというところで、個人情報的には良くない。

官報に載っている情報の中でも、「広く国民が知るべき情報」と「必要最低限、必要な人に届く告知の情報」とではだいぶ違うので、一元的に誰でもアクセスできる形で置いてしまうのはかなり良くない。

その後、**模倣犯が「新破産者マップ」を作りました。こちらは「消してほしければ6万円ないし12万円を払え」**という話なんですよね。国が閉鎖命令を出しているのに聞いてくれないということで、**被疑者不明で刑事告発がされようとしている。**おそらく同じ人ではないかと思うのですが、そういうことにもなってしまっている。

可視化して手軽にアクセスできるようにすることの功罪と言えるのではないかと思います。

アクセスしづらくするという選択

同じ話なのか違う話なのか微妙ですが、僕が以前作ったものです。

法令違反した企業のデータは、月1回、行政のウェブサイトで PDF として公開されている。それをアクセスしやすくして、BI ツール的に見られるようにしたものです。法令違反しなくなると PDF から消えていくので、対応しないとずっと残っていく。****どういう違反をされているのかも掲載されているので、その情報を知りたい人はいるだろうなと思いました。

ただ一方で、みんなが安心して石を投げられるようなものであっても良くないのではないかと思ったわけです。

最初に作ったときは背景も黒、棒グラフの棒もほとんど黒にして、ほとんど見えない状態にしました。****本当に知りたい人がアクセスするとようやく分かるという感じにして、文字ももっと読みづらい感じにした。そのままアクセスできればOKということでもないだろうなと思って、あえてそうしてみた。これだけが正解とはもちろん全く思わないですが、1つの例としてご紹介しました。

悲惨な出来事を美しく可視化すること

海外で炎上した例としては、悲惨な出来事を美しく可視化することの是非という話があります。日本の広島や長崎に落とされた原爆のデータをビジュアルに変換した作品で、表現だけ見るとかなり美しく表現されている。

英語で発信されたこともあって日本語圏で燃えたことはないと思うのですが、英語圏の、特にデータ可視化の作り手のコミュニティで「これはダメなんじゃないか」という自浄作用が働いて、「これは間違っているよね」という話にはなりました。

正確さと演出の境目

データインク比の功罪

データインク比という言葉を聞いたことがありますか。

エドワード・タフティさん——統計学者であり研究者・教育者ですね——が何冊か本を出してらっしゃいます。こだわりが強すぎて自分で出版社を作り、自分でエディトリアルデザインをして出版した本があり、これが1980年代に出版されて、長らく、場所によっては今でも教科書として扱われているという現状があります。ただ、それだけこだわって作られたので、電子書籍にもなっていないし翻訳書も出ていない。

この中で述べられている原理原則の1つがデータインク比です。当時は Web がなく紙だけなので、インクを使ってデータを表現する。****そのインクの量はできるだけ少なければいいし、データに関係ないものにインクを使うべきではない。****かなりミニマリスティックなアプローチです。左にあるような箱ひげ図も、右のように描いても理解できるよねというわけですね。

余計なものを表示しないという原理原則の方向性としては理解できるのですが、ちょっと極端じゃないかという感じもする。

そこで、ある研究がありました。広い意味でのインフォグラフィックス——上にある、怪物の歯の長さでデータを表現したもの——と、**下にある無味乾燥な棒グラフ。**同じデータを使って表現しています。

この2つをいろいろな人に見てもらって、理解力や記憶力に有意な差が出たのかどうかを調べました。

元の作品を描いたのはナイジェル・ホームズさん。インフォグラフィックスのキャリアがすごく長い方で、書籍も数冊出してらっしゃいます。その作品を元にタフティが作り直したという感じですね。

結果を見ると——「より美しい」「魅力的」はホームズ版が圧倒的に多かった。そして肝心の「記憶しやすいか」「正確に説明できているか・記憶できているか」でも、割と遜色なかったり、タフティ版の方が多かったりという結果も出た。

**一概に否定しすぎるのも良くないのではないか。**例が極端かもしれませんが、結局これを「見たい」と思うかどうか、実際に理解するか、その後に記憶するかというところは人間が行うので、その時の人間が「知りたい」と思うかどうかもかなり重要なのではないかと思います。ただ、正確に数値を読み取れるかという点では、もう少し第三の道もありそうな感じもしますね。

データインク比という言葉は結構一人歩きしていて、インターネットで日本語検索すると、大抵は教科書的に「データインク比を守りましょう」と書いてある。でも原著にアクセスするのはすごく大変ですよね。英語だし、値段も高いし、翻訳版も電子版もない。しかも40年・50年前のものだったりする。Web が出てきて Web 上で3Dも表現できるようになった時代においては、必ずしもデータインク比だけが価値観の最上位にいるということでもないのかもしれない。

「詐欺グラフ」との境目は、バチッと分かれるというより、グラデーションになっているという感じかなとも思います。ここで言いたいのは、「詐欺グラフ」の流れから「データインク比いいよね万歳」となるよりも、人の感情や主観に訴えかけるような表現も、まだ諦めたくないなという感じがする、ということです。

演出としての強調

ニューヨークタイムズの一面に掲載されたもので、コロナ禍で失業者がかなり増えたことを上部の横長のスペースに棒グラフで描いていて、かなり下がったところがチャートを突き抜けて、なんなら新聞の段を全て下の方まで突き抜けている。

**もちろんデータはいじっていない。**ただ、一般的には「ここにチャートを描きます」という四角形の中で全部完結させるはずのところを、あえて突き出してみることで、より強調して伝えるという手法です。上方向でも同じような手法がありました。

カルトグラム

地図の面積にデータ値を反映させる手法です。正確に読み取れるかというと怪しいところもあるのですが、一方で普段見慣れた地図が大胆に歪むという面白さやキャッチーさはあるかなと思います。

数年前の『AERA』で「地図の力」という特集があって、その中の「一票の格差」は僕の方で作って提供させてもらったものです。データを入れてみたら北海道が結構豪快にいい感じで潰れたので、「これで大丈夫かな」と2つか3つぐらいの別々のアルゴリズムで試して、同じような結果だったので入稿しました。

入稿の際は、まずデータを加工してカルトグラムを作り、それを印刷用のデータに変換して入稿するという、結構いろいろな工数をかけてやったのですが、扱いとしてはいわゆる雑誌用のイラスト代という感じでしたね。いや、お声がけいただいてすごくありがたかったという感じです。

3D

3Dも結構やり玉に挙がります。****円グラフは Excel で簡単に3Dにしたり、向きや角度を変えたりが手軽にできるので、詐欺的にやろうと思えば結構簡単にできてしまう。

見えない部分があると良くないという話がありますし、棒グラフの並べ方を変える、円グラフの角度を変える、リボンのような折れ線グラフを下の方から見上げる感じにする——いろいろなことをすることで、実際に平面で見たものとは違う方向性に誘導するような演出がなされていることもある。意図的なのか結果的なのかはあるかもしれませんが、これは良くないですねという話はあります。

一方で、**最近はインターネットブラウザー上でも3D表現が色々できるようになってきていて、まさにこれから花開かんとしている。**地図の例もありますし、**ニューヨークタイムズの「3Dイールドカーブ」**というものもあります。**通常のイールドカーブに対して、奥行きという形で時系列が付いている。**こちら側からも見えるし、あちら側からも見える。2014年でポンとスパイクしているものが見えたりします。

地図では3D表現が分かりやすく色々出てきていますが、それ以外のチャートについても3D表現が徐々に生まれてきつつある。

3Dで操作できるのであれば、見る側が操作して自分の好きな角度で見るという操作方法も考えられる。****2Dで操作できない状態で、実際のデータを歪めて伝える意図を持って3Dで作るのは話にならないのですが、そのことによって3D表現全般を否定してしまうのは、これからやがて来る3D表現の時代においては、心持ちとしてもったいないのではないか。****まだいろいろな可能性があるのではないかと思うので、そこに期待したりワクワクしたいという気持ちを持ちたいなと思います。

写実的であること

最近の生成AIを使うと、チャート的なものを一応画像としては生成できる。****写実的な、現実の空間に存在してそうな感じで出せたりするのですが、実際のデータを、今日お話ししてきたような注意事項も踏まえて可視化しているかというと、全くそういうことではない。

ただ、写実的であることによって、見る側の印象としては「写実的だから本物」というように関連付けて想起しやすいのかもしれない。****これは過渡期ですよね。もしかしたら写実的なチャートを生成できる LLM が開発されるかもしれない。

**記号づけ——抽象的な図形などを使うこと——では、人に積極的に見てもらいたいという気持ちを喚起しづらいのかもしれない。**そのときにやることの1つは、今日のインフォグラフィックス的な例でちらっとお見せしたような、現実に存在する何かに置き換えることで、親近感とか、「これ何だろう」とか、「これ私でも理解できそうだな」と思ってもらえる表現方法かなという感じもするので、ここもいろいろな変化を楽しんでいきたいと思ったりします。

コンセプトの説明にチャートを使う

コンセプトの説明にチャートやグラフというフォーマットを使うこともあって、大抵、数値は入っていません。でもコンセプトが説明できればOKという作り手の意図からすると、いいんじゃないのという感じはします。数値が入っていないからデタラメだと断じてしまうのも、ちょっともったいない。

たとえば**サイバーエージェントさんが決算説明で何度も登場させているコンセプト説明のチャート。**横軸はおそらく時系列、縦軸は売上だと思うのですが、**実際の数値は入っていない。**言いたいことは、広告事業とゲーム事業が順調に伸びているので、メディア事業でスマホに参入したり、AbemaTV の動画事業に参入したりで赤字は出るけれど、大丈夫です、やがて上がってきますからということですよね。それを伝えるためにチャートという形を借りている。

いわゆる人生グラフもそうです。横軸は時系列が入っていますが、縦軸は入っていないことが多い。****これもいいんじゃないかと思うんですよね。

まず一旦自由に描いてみてくださいと。そうすると折れ線が上に行ったり下に行ったりという形で、自分の人生をリフレクションする。****どういう項目でリフレクションするのか——人間関係なのか、お金なのか、何なのか——は人によって色々ある。****描きながら考えたり、描いた後に人に問いかけられて気づくということがあるので、その後で数値を入れるのもありかもしれない。

一旦、数値がどうこうというよりも、「そもそも何を描画するんだっけ」「これを描画したいと思う自分の価値観って何だっけ」というところを自由に発想すると考えると——フォーマットとしてはチャートを使っているので、原理主義的に捉えると「正確じゃないからけしからん」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、意図としてはいいのではないかと思います。

ハイプ・サイクルもそうですよね。期待度がぐわっと上がって下がる。****これも数値は入っていませんが、コンセプトの説明であると考えれば納得できる。実際の数値が入っていればカーブはこんなに綺麗ではなく、項目ごとにまちまちだったりするかもしれませんが、「だいたいこういう感じで推移するよね」が伝わればOKと考えれば、コンセプトを説明するためにチャートというフォーマットを使っているんだなと考えられます。

ワシントンポストの「カーブを平らにする」

最後の例です。ワシントンポストのコロナ禍の事例で、これが**めちゃめちゃアクセスがいったんですよ。**同紙史上最大のアクセス数で、2位の記事に比べてダブルスコア以上。

当時、日本でもデザイン界の大御所の方が Twitter で「こういうものをデザイナーが作らないといけない」とツイートされていました。

2020年3月ぐらい、日本で緊急事態宣言が初めて出るか出ないかというタイミングです。**そもそも何が起こっているのかをみんな知らなかった。2月頃にダイヤモンド・プリンセス号で日本でも感染者が出て、厚労省の資料に「このカーブを平にするんだ」**という言葉があったと思いますが、それは結構いち早かった。世界でも同じように「カーブをフラットにする」、つまり陽性者数を増やさないようにすることが何より大事だとスローガンとして述べられていました。

これを作ったのは中途で入ったエンジニアの方で、入社半年ぐらいの頃。ジョンズ・ホプキンス大学——WHO などは国の機関からしかデータを集めませんが、中国国内のさらに細かい医療機関などのデータまで集めてきて、毎日に近い形で公開しデータを提供し続けたところですね——そこの研究者の方と一緒にディスカッションしながら、どう伝えたらいいかを考えていたらしいんですよね。

そうすると複雑すぎて、そのまま伝えるのは無理だろうという話になった。そこでコロナそのものを説明するのではなく、「こういった感染症が社会に増えるとどうなるか」だけを説明しようとした。実際には存在しない架空の病名が仮につけられていて、何が起こるかだけが示されている。

**何も制約なく人同士が交わり合うと陽性者数がどう増えていくか。**丸の動きが人の動きで、**上にあるのが100%面グラフで、茶色い部分が陽性者数。**死者はあえて描いていない。そして人同士が接触しないようにすると、明らかに茶色の山が平らになっていく。

丸が箱から飛び出ないようにバチバチ動き合うというのは、クリエイティブコーディングの Processing ——デザイナーがコード表現を学ぶためのツール——の一番有名な、入り口にあるようなサンプルコードそのものという感じでもあるんですよね。だから表現としてすごく突出していたということでもないかもしれないし、実際のコロナを描いてもいない。

それでも「今必要なのは何なのか」をコンセプトとして伝えるところが、タイミングもヒットして、それを知りたいと望んでいた一般の人たちにすごく届くものになった。

これも実際のデータは使っておらず、コンセプトの説明だけに使っている。だからこれを「詐欺的」と言ってしまうのはちょっと違うような気もするし、もったいないという感じもする、というところです。

まとめ

かなり長くなってしまいましたが、最後に。

今日の話を踏まえてさらに知りたくなったときに、日本語で本屋さんで手に入るものとしては、アルベルト・カイロさんが書かれたものがあります。今日、何度か引用させてもらったものにもなります。冒頭でご紹介した「詐欺グラフに似た言葉」のスライドも貼ってありますので、そちらも参考にしていただければと思います。

いわゆる「詐欺グラフ」的なものをどう考えるか——

  • チャートが「データを表現している部分」と「チャートを描くための空間の部分」の2つで構成されていると考えたときに、作り手側も見る側も、これが果たして適切なものなのかという判断基準が得られるのではないか。
  • 「詐欺」という言葉はやはり強いのですが、作り手が意図してミスリードするのは良くないし、信用問題にもなる。****デジタルタトゥーのように「嘘をついた」ということが残り続けるので、やるべきではないと思います。
  • 一方で、作り手として判断を間違えたりミスしてしまうこともあるかもしれないし、見る側が誤解してしまうこともある。
  • これに効く決定的な薬みたいなものはないかもしれないのですが、リテラシーを上げていきましょうという、ちょっと退屈な結論かもしれませんが、少しずつやっていく中で、今日のまとめた話も一助になればと思います。

そして——全てを否定してしまうと、いろいろな表現の可能性を潰してしまうと思うので、そこも心配なんですよね。正確性と説得力のバランスという話とか、3Dがこれからもう少し盛り上がってくるのではないかとか、「データインク比」という言葉が教条的に使われて表現が否定されるようなことも、ちょっと悲しい。いろいろな可能性を潰してしまいかねない。

**その良きバランスを取っていきたい。**だから、いろいろな世の中の作品に対して「ああでもない、こうでもない」と言うのも、もしかしたら大事かもしれない。今日いろいろ事例も挙げさせていただきましたが、健全な批評として受け止めていただけたらと思います。

長くなってしまいましたが、私の話はこれで終わりです。どうもありがとうございました。

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