Data Visualization Japan Meetup 2023(2023年12月29・30日開催)における、市川 貴恵さん(デザイナー)の講演です。データビジュアライゼーションの理論や手法ではなく、モチベーションや初学者が取り掛かる際のマインドセットについて、アメリカの大学院への留学経験を踏まえて紹介します。
「デザイナーとデータビジュアライゼーション」というタイトルで発表していきます。トップバッターということで盛り上げていけたらと思っています。
自己紹介
私は社会人になってから修士を取りに行って、2018年にイリノイ工科大学で修士を取得しました。社会人留学という観点で興味のある方は、ぜひお声がけください。
留学していたのは、アメリカのシカゴにある Institute of Design(ID) という大学院のデザイン学科です。入学した1年目に新しくできた建物のスタジオで、日々作業をしていました。
デザインの文脈で言うと、この ID はバウハウスの後継なので、教育方針はバウハウスの考え方の影響をかなり受けているなと思っています。私はファンデーションコースという基礎から学ぶコースにいて、クラスメイトが21人。彼らにとても支えられて、そのおかげで無事卒業できたかなと思っています。
トークテーマが決まるまで(4日前)
その話をする前に、4日前に少し遡りたいのですが――12月26日の時点でタイトルがまだ決まっておらず、とても困りまして。主催の矢崎さんに Zoom でお時間をいただいて、「助けてください、どんなことを話しましょうか」という相談をさせていただきました。
いろいろ話す中で、やはりレジェンドの話が止まらないというところがあって。私は今日登壇される Shirley Wu さんや、後で出てくる Dear Data の Giorgia Lupi さんが大好きなんです。『Data Sketches』も持っていますし、『Dear Data』も持っていて、学生の頃からこの2人の作品が大好きで。今日 Shirley Wu さんが登壇されるのもとても楽しみです。
ものすごい余談をすると、任天堂の『あつまれ どうぶつの森』というゲームで自分の島を作れるのですが、私は Giorgia Lupi さんから名前をいただいて「ルピ」という島名にしています。それくらい Lupi さんが好きなんですね。
そんな話を矢崎さんとしていたら、ふと矢崎さんが「Giorgia Lupi、Shirley Wu、そして市川さんの3人には共通点がある気がします」とおっしゃった。「それは何ですか」とお聞きしたところ、「3人とも人間の内面にすごく関心があって、その可視化に挑戦しているんじゃないですか」と。
その時に「確かにおっしゃる通りだな」と感銘を受けまして、その時点で今日のトークテーマが決まって、構成もパーンと決まったような気がしました。
というわけで、本日のテーマは「人間らしさを表現するデータビジュアライゼーション」です。今日のタイトルを「デザインとデータ」ではなく「デザイナーとデータビジュアライゼーション」にしたのは、デザイナーという人間自身が、自分や他の人の内面を表現するという意味合いを込めて「人」をタイトルに入れさせてもらいました。
授業① Physical & Digital Devices ― データとの出会い
ID で取った授業の話をしていきます。「Physical & Digital Devices」というコースが、私が最初にデータに出会った授業です。
毎年リサーチ・コーディング・プロトタイプを通じてインタラクティブなアウトプットを作るのですが、学期ごとにテーマが違います。私が取った2019年の秋学期のテーマは「データドリブンな公共交通 ― よりアクセスしやすい、人々にとっての交通インフラとは何か」をデータビジュアライゼーションでやる、というもの。野心的なテーマとしては「公共交通政策の再デザイン提言までできたらいいですね」という形で始まった授業でした。
ツールは Python、Rhino、Raspberry Pi など。データは国勢調査(センサス)データ、街のデータ、人によっては電車の発車時刻のデータ、バイクシェアリングの空き状況を API で取ってくる、といったことをやっていました。
日常生活からの気づき
私が何をやったかという話をする前に、大学での日常生活を少しお話しします。
私は寮に住んでいて、ブラジル出身のルームメイトがいました。4年前の冬休みには、彼女が故郷に帰るというので3週間一緒にブラジルに連れて行ってもらって、毎日海に浮かんでいました。
そんな彼女との共同生活で、隔週でやるモーニングルーティンがありました。2人で食品や日用品をウォルマートに買い出しに行って、2週間暮らせるようにバックパックをパンパンにして帰ってくる。寮からウォルマートまで、15分ほどバスに乗って行くのが私たちのルーティンでした。
その時にすごく感じていたことがあります。寮から南側に行く時は、車椅子で移動する人にものすごく遭遇するな、と。バスの前方が車椅子の方が乗るエリアなのですが、そこに乗っている確率が北側に行く時より高い。降りてからも出会うなと思っていました。
そこで、記念すべき最初のデータビジュアライゼーションとして、センサスのデータにある車椅子利用者の人数を可視化しました。確かに通っている途中に600人ほどいるエリアがある、ということが分かって、この時点で結構面白いなと思いました。
この授業では、さらにそれを3Dにして、アクリルで削って立体的にし、LED でもう1つのデータポイント(私は一人暮らしの人数にしました)を掛け合わせてオブジェクトにする、というのがアウトプットでした。
この授業の面白いところはたくさんありますが、私はやはり自分の生活に密着した立体感・リアル感が面白いなと思いました。
センサスに答える側になる
これは2019年でしたが、翌2020年はセンサスの年でした。センサスはアメリカで10年に1回やっている国勢調査です。私は F1ビザで留学していたのですが、F1ビザ保持者もセンサスの対象だったので回答することができました。
回答するフォームでは人種について答えるのですが、自分がデータを可視化した実体験があったから、答える時にも立体的に思えるという経験もできました。次のセンサスは2030年なので、それまでは私の一票が入っているなと思っています。
その時に Facebook 広告が結構流れてきたのも、現地ならではの体験でした。ある組織が日本人をターゲットにして「センサスに答えてください」という広告を配信していたりして、それも面白いなと思いました。
この授業を受けた段階で「データ可視化ってなんて面白いんだ」と出会ったので、次の学期からも好んで取るようになった、というのが始まりです。
授業② Generative Design Workshop ― スモールデータ
2020年の春学期には「Generative Design Workshop」を取りました。人々の行動変容につながるようなデータドリブンなフォームを作りましょう、というワークショップです。
私が取った2020年春学期のテーマは、パーソナルな個人のデータからフォルムを紡ぎ出す、つまり個人のデータをそのままフォルムにしましょう、というものを模索する講義でした。
この時のコンセプトが「スモールデータ」です。
データ・ヒューマニズム
スモールデータを語る上で欠かせないのが、冒頭で島の名前の由来として挙げた Giorgia Lupi さんが提唱する「Data Humanism(データ・ヒューマニズム)」です。
明らかにビッグデータとの対比で語られていて、「完全じゃなくてもいいデータ」「主観的なデータ」という、一般的に思い浮かべるデータ観とはかなり真逆のことを言っている。
- Data-driven design ではなく Design-driven data
- Save time with data ではなく Spend time with data
- Data is numbers ではなく Data is people
- 効率化ではなく Human
私はこの時アクセンチュアで働いていたので、特に「Save time」ではなく「Spend time」というところが衝撃的でした。コストや効率化を重視するのが空気を吸うように当たり前だった中で、これは新しいなと思いました。この授業では、このデータ・ヒューマニズムの考えに基づいてやっていこう、ということでした。
Dear Data をなぞる
Lupi さんが提唱するデータ・ヒューマニズムに基づくので、まず Dear Data というプロジェクトをなぞるところから授業が始まりました。
Dear Data は、ニューヨークに住む Giorgia Lupi さんとロンドンに住む Stefanie Posavec さんが、ポストカードで1年間やり取りするというデータ可視化のプロジェクトです。本にもなっていますし、MoMA のパーマネントコレクションにもなっています。
ポストカードの裏側に自分で手書きで可視化を描き、表面に凡例と住所を書いて、同じテーマでやり取りする。時計、洋服、食べたものなど、テーマを決めてやり取りしたものです。
私たちも「まず1週間やりましょう」ということで7個作ったのですが、やってみて思ったことがあります。
まず Dear Data の基本的なルールとして「1つのデータは1つのもので表す」――1つの円、1つの棒で表す、というごく基本的なこと。ところが意外と大人は円グラフや棒グラフにしてしまう、ということをやってみて思いました。それから、何を題材にするか、そのネタも尽きてくる。たった7日でもそう思ったので、あの2人は本当にすごいなと思いました。7日目くらいには、私はもうわけのわからないカービィを描いていた写真が出てきたので、ここでご紹介しておきます。
クラスメイトの作品 ― 夫婦の感情の可視化
Dear Data の後は個人プロジェクトに入っていくのですが、ぜひクラスメイトの作品を紹介したいと思います。
ガーナから来たクラスメイトの作品で、夫婦の感情を可視化しています。2人のテキストメッセージからポジティブな言葉とネガティブな言葉を拾ってきて、その感情がどうだったかをシェイプで表したオブジェクトです。
1年の中で2人にとって大事な日が3回ほどあり(誕生日、結婚記念日など)、その時の流れが横に流れている。赤・紫・青・赤と1年を4つに区切っていて、滑らかな時は2人の関係がうまくいっている時、ジグザグしている時は「emotional misalignment」――ちょっとしたいざこざがある時期。それを表しています。
さらに、結婚して4年経つので、1年目はどうか、2年目はどうか、という変化を4年間分集めて表現している。これは本当に人間の内面を可視化している、とても素敵なプロジェクトだなと思っています。
教授の作品 ― 視線の動きを可視化する
これらの授業を教えてくれていたのが Zach Pino という教授で、私はデータビジュアライゼーションもデザインも、ほとんど大事なことは彼から教わったと思っています。(授業のシラバスが GitHub に公開されているので、ご興味あればぜひ。)
教授自身も学生時代によく似た作品を作っていて、それが「Look」という作品です。パートナーの視線の動きを可視化するもので、2人の関係性が年数を経るごとにどう熟成していくかをオブジェで表現しています。
素材を年数に応じて変えていて、1年目は紙、10年経つとアルミニウム、20年だとまた別の素材に――とどんどん変化していく。深さが見つめ合っている時間なので、1年目のカップルは長い間密に見つめ合っているように見えたりする。これも人間の内面を可視化している、本当に素敵な作品だなと思っています。
「答えるためではなく、問いを立てるために」
教授がとても参考になるとよく言っていたアーティストがいます。サンフランシスコで教鞭を取っている方で、塩の道を可視化した作品などを作っています。
私が在学中に、そのアーティストと教授の対談がありました。教授が「なぜその作品を作ろうと思ったのか」という動機を聞いたところ――私の記憶に基づくので間違っていたら申し訳ないのですが――「別に環境問題に興味があってやっているわけではなく、もともと海の近くに住んでいてよく海を見ていたから、それが馴染みのあるものだったからやりました」というような答えでした。
そして引用されていたのが「何かに答えるためにやっているんじゃなくて、問いを立てるためにやっている」という言葉。
教授がよく言っていたのが「そのプロジェクトは **provocative(挑発的)**かどうか」ということでした。教授のみならず ID で教わった人たちは、「point of view ― その人独自の視点があるか」というところにとてもこだわっていたというか、強調して大事にしていた。provocative というのは、人々の価値観を変えてしまうくらいの視点があるか、ということ。そこをとても大事にしていたな、と今振り返ると思います。
個人プロジェクト① Memory Blossoms
そういったことを学んだ上で、自分がどういうプロジェクトをやったかという話をしていきます。
1つ目が「Memory Blossoms」という作品です。パーソナルなスモールデータと植物のデータを組み合わせて作ったもので、死というものとの向き合い方を考えながら、時間の捉え方や新しい表現方法にチャレンジしたプロジェクトです。
ツールは D3.js と Rhino。データは、大阪府立大学の青野教授が集めている京都の過去1200年間の桜の開花データを使いました。
出発点 ― 身内の死にどう向き合うか
このプロジェクトの出発点は「身内の死にどう向き合うか」でした。留学する前の年に祖母が亡くなって、それは今の時点でも人生で起こった中で一番悲しい出来事です。それにどう向き合うか。
スモールデータの共通テーマが「オブジェクトを作ること」だったので、祖母のかたちを作りたいなと最初は思っていました。桜はなんとなく――私の個人的な感覚かもしれませんが――儚い印象を持っている気がしたので、いいんじゃないかなと思って。ちょうど京都の桜のデータもあったので。
Observable で描画したプロットは、X軸が800年から2021年まで、Y軸は原点に近いほど開花日が早く(3月ごろ)、上が5月ごろ。見ようによっては、なんとなく地球温暖化で早くなっているようにも見えるプロットになっているかと思います。
(ちなみに、この D3.js は Shirley Wu さんのオンラインウェビナーを参考にして作ったので、私は彼女から D3.js を習ったと思っています。)
「自分の桜」というコンセプト
桜のデータを使おうと思ったものの、このプロジェクトにはスモールデータというコンセプトがあるので、どう自分個人と絡めるか。
私にはやはり祖母と見た桜の思い出がありました。この写真は、私と祖母が本当に見ていた桜です。後ろに映っている建物が私の通っていた高校(長野県の長野高校)で、道路の手前に祖母の家がありました。高校から1分ほどのところにあったので、高校の帰りにいつも祖母の家に寄って、一緒にこの桜を見ていた。「確かに、この写真こそが思い出の桜なんだよな」と思いました。
その時に、日本にいれば多くの人が知っている「桜前線」があるな、と思いました。つまり、長野に住んでいる人と北海道に住んでいる人では、違う桜で開花日も違う。理論上、見ている桜の開花日はある程度違うので、「自分の桜」になるということも考えられる。
だから、自分の記憶というものをデータで(コンセプトとして)可視化できるんじゃないかな、とこの時思いました。
とはいえデータを集めるのは難しいので、いったん京都の桜の開花データを使って作ってみました。仮に30年生きた場合にどういう桜になるか。内側に行くほど開花日が早く、外側ほど遅い。例えば1990年はとても早く咲いていて、1988年は比較的開花日が遅かった――これがその人自身が見てきた桜を表現している。
この段階では「祖母が見てきた80何年分のバージョンを作って、それをオブジェクトにしようかな」と思っていました。
プロジェクトの本質は、もっと大きなところにあった
ところがプロジェクトが進むにつれ、教授たちと話していく中で「このプロジェクトの本質はもっと外側、もっと大きなテーマにあるんじゃないか」と思い始めました。
それは「他者との関係性の中で流れる時間」です。
私は母や祖母の桜を作っているわけですが、私に流れている時間は母の人生の途中から始まっている、という関係性がある。そして「他者」の中には桜の時間、地球に流れている時間もある。桜は3月から4月にかけて毎年咲くというバイオリズムがあって、その中に私たちは組み込まれている。そういう流れる時間があって、かつ、そのおかげで私たちの記憶――過去に見た桜――もある。その可視化なんじゃないか。
だからこのプロジェクトのコンセプトは、地球規模で流れている時間の中に、ともにリンクし合っている私と母と祖母の時間の流れがあり、それが二重の円で描かれる。だから3輪咲いていることがとても重要である――ということを、このコンセプトの核としてまとめて、ポエムというかブログにしたためて発表しました。
そうすると、自分で思っていた以上に反響をいただいて、LinkedIn でシェアしたらアメリカの方やインドの方から DM をいただいたりして。この個人のプロジェクトが誰かの役に立ったというのは、とても良かったなと思いました。
個人プロジェクト② Digital Data Rubbing
もう1つは、先ほどのものと比べるとはるかに短い時間で簡単なプロトタイプを作ったものです。「Digital Data Rubbing」というプロジェクトで、新型コロナウイルスの死者データの可視化。データ・ヒューマニズムのど真ん中を行くプロジェクトだと思っています。Observable で作り、死者のデータを使っています。
言いたいことはこうです。先ほどの祖母の話で言えば、祖母1人が亡くなった時はすごく悲しい。ところが人間は人数が多くなればなるほど感覚が麻痺していってしまう(心理学者の Paul Slovic さんらが指摘しています)。だから数字になってしまう。それを何とかできないか、というのがこのプロジェクトのスタート地点です。
リファレンスとして使ったのが、ワシントンにあるベトナム戦争戦没者慰霊碑です。建築家の Maya Lin さんがコンペティションで勝って実現したもの。残念ながら私はまだ行ったことがないのですが、亡くなった1人1人の名前に触れることができる。そして、私がすごくインスパイアされたのが――紙に鉛筆でこする「ラビング」をして、それを持ち帰る人がいると聞いたこと。
「これはとても素敵な関わり方だな」と。大勢亡くなっている中の1人と関わる。これをデジタルでできたらとても素敵だ、というのがこのプロジェクトのコンセプトです。
プロトタイプとしては、こすると亡くなった人の国名が出てくるインタラクションを作ったり、こするうちに色が濃くなっていったり。点1個が1人なのですが、少し人間っぽさを感じられるインタラクションとは何なんだろう、棒グラフでバンと見せるだけではない関わり方があってもいいんじゃないか、と考えたプロトタイプです。
これを2020年12月6日に Observable で公開したのですが、その2か月後の2021年2月に、ニューヨーク・タイムズが似たようなグラデーションを使った――しかも発想が同じというか、左上がコロナ1日目で右下が今日、というものを出しました。デザインも発想も自分のものとよく似ていて、嬉しいなと思ってリポストして……という勘違いが起こりましたよ、という話です。
最後になりますが、これは3年前の話なので、最新ではないところがあったら申し訳ありません。ご了承いただけるとありがたいです。
これまで、こんなにまとめて自分の留学経験を話す機会はなかったので、今日このような機会をいただけたことをとても感謝しています。留学にご興味のある方は、ぜひご連絡いただけたら嬉しいです。本日はありがとうございました。