Data Visualization Japan Meetup 2023(2023年12月29・30日開催)における、棚原 みずきさん(リサーチャー・デザイナー)の講演です。ロンドン芸術大学 MA Design Data Visualisation コースで学んだ、デザイナーとしてのデータの扱い方と制作方法を、自身の作品制作の過程とともに紹介します。
こんにちは、棚原みずきと申します。本日はこのような機会をいただきありがとうございます。私はこの1年、ロンドン芸術大学の大学院デザイン学科のデータビジュアライゼーションコースでデザインを学んでいました。本日はこのコースの中で学んだことを中心に紹介していきたいと思います。
自己紹介
私は学生時代にメディアアートに出会い、作品制作をしていました。そこから、テクノロジーを使って企画立案できるプランナーになりたいと考え、サイバーエージェントのインターネット広告事業本部のプランナーの部署に入りました。
そこから営業に異動し、インターネット広告の売買の仕組みの裏側を知り、インターネットにおける個人情報の扱いに興味を持ちました。ユーザーは無料でインターネットサービスを使用する代わりに、知らず知らずのうちに自分の情報が売買されている――その状況に違和感を覚えて、それをテーマに自分で制作したり、そうしたことを考えてもらうきっかけを作品を通じて作れないかと考え、岐阜にある情報科学芸術大学院大学(通称 IAMAS)に入学しました。
IAMAS では、作品やワークショップ、Webサービスなど、いろいろなことを試しました。非常に濃密な2年間を過ごしたのですが、会社を辞めて大学院に入ったので、もう一度会社に戻るかどうするか考えたとき、少し違う道に行ってみようと、インターネットのプライバシーに関する研究やメディアアートが盛んなドイツのベルリンに引っ越しました。
そこで面白い人に出会ったり作品制作をしたりしていたのですが、コロナがあり日本に戻りました。戻ったとき、元々インターネットの仕組みの可視化にすごく興味があったことから、ロンドン芸術大学にデータビジュアライゼーションのコースがあることを知り、入学することにしました。
本日のトピック
- 在籍していたデータビジュアライゼーションコースの簡単な説明
- 私が思うデータビジュアライゼーションの定義
- 『データフェミニズム』から考える、デザイナーが持つべきデータリテラシー
- データを扱うデザインとは何かという文脈
- これらを使って、どのように作品を作っていったのか(2つの事例)
ロンドン芸術大学のコースについて
ロンドン芸術大学(通称 UAL)はロンドンに6か所ほど校舎があり、それぞれに特色があります。アートに強い校舎、Central Saint Martins のようなファッションに強い校舎などがありますが、私がいた校舎は London College of Communication といって、デザインを学ぶコースが集結している校舎です。
私がいたデータビジュアライゼーションコースは2018年に開設された比較的新しいコースで、クラスメイトにはグラフィックデザインやジャーナリズム専攻だった方がいました。ロンドンの大学院は基本的に1年の修士課程が多く、私のコースも1年3か月。その中でデータの歴史から収集・分析方法、そしてプログラミングまで、非常に幅広いことを学べました。
卒業生・クラスメイトの作品
- イギリスの水の消費量に関するデータとインタビューから、石鹸を使ってデータビジュアライゼーションしたもの
- イギリスの食料問題をテーマにしたインスタレーション
- コロナ禍のドイツにおけるアジア人差別のデータを収集して作ったデザイン
ちょうど今月2週間ほど前に卒業展示がありました。クラスメイトの作品では――
- 時間の流れをテーマに、8人ほどへのインタビューから1日の時間の使い方をデータ収集し、人によって使い方が違うことを時計をメタファーにして提示した作品
- 制作したクラスメイト自身に皮膚をむしってしまう癖(スキンピッキング)があることから、同じ癖を持つ方を集め、やってしまった記録をガーゼのような布に縫うことで記録したデータビジュアライゼーション
- SF映画におけるジェンダーギャップをテーマに、『マトリックス』『インターステラー』などで女性がどれくらい画面に映るのかを分析した作品
また、数か月前の Information is Beautiful というデータビズのコンペティションで、学校の課題――チャートやグラフを知らない人向けに説明する本を作るというお題――で作った本がゴールドに選ばれました。私もこの本は素敵だなと思ったので紹介します。
カリキュラム
まず最初は基礎的な知識――データを扱うデザイナーが持つべき基礎知識(データリテラシー)とデザインの基礎。そこから1人で作品を作るのが最終課題でした。基礎知識を習った後は、外部パートナーと一緒にデザイン制作をしたり、プログラミングを使った制作をしたり。最後は修士研究制作を4か月ほどかけて行います。
私が思うデータビジュアライゼーションの定義
これは「データビズの定義はこれです」というよりも、人によって定義は全然違うと思うので、「私はこの定義のもとデザイン制作をしました」という形で受け取っていただけたら嬉しいです。
たくさんの定義がありますが――「正確な情報と価値を伝えるデータ表現」「コンピューターの抽象的なデータを視覚的な表現を使用し理解を促進させる」、また『データビジュアライゼーション』という本では「データの可視化は理解を容易にするためのデータ表現」と言っています。
さまざまな本を読んだ中で、私がしっくりきた定義は2つあります。
1つ目は Brown さんの定義です。
データ可視化の機能の中で最も基本的なものは、データを説明すること、あるいは視覚的な方法で情報を伝達することである。そしてデータを探索するメディウムにもなり得る。そして情報を知識に変換するという第3の機能を果たす。
つまり、Explain(説明する)と Explore(探索する)が重なり合い、その中から新しい知識が生まれるという定義です。
もう1つは――
データビジュアライゼーションは、政治プロセスや意思決定に直接的な影響を与えるものではないが、ジャーナリスティックな部分として、複雑な問題を理解するための情報や通路を市民に提供することで、公開討論の**触媒(カタリスト)**として重要である。
複雑な情報に対して、データビズがクッション・触媒になることで、より多くの人に分かりやすく伝えられるという意味合いがとても良いと思ったので、私はこの2つの定義をもとにデザインを考えています。
『データフェミニズム』から考えるデータリテラシー
『データフェミニズム』という本では、データを収集・作成することに伴う政治性、盲点、偏見について言及しています。7つの原則がありますが、その中からデザイナーとして持っておくべき項目を選んで紹介します。
そもそも「フェミニズム」と言うと女性の権利を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、この本でいうフェミニズムはインターセクショナリティです。ジェンダーだけでなく、人種、階級、セクシャリティ、障害など、差別されたりマイノリティになったりする可能性がある方のことを指しています。もちろん人種やジェンダーといった項目はそれぞれ分かれているわけではなく重なる部分があるので、それを踏まえた上で見ていきます。
今回は4つに絞って説明します。
① 権力を検証する
私たちが普段使っているものの背景に、誰が作り、誰が利益を得ているのか、あるいは不利益になるのかを調べることです。
キーワードの1つに特権ハザードがあります。特権的な地位にある人は、それ以外の人のことを考えにくくなるという現象です。Google などインターネットに関わるサービスは白人男性を中心に設計されることが多く、それ以外の人を見落とす可能性がある、と本では指摘しています。
具体例が顔認識技術のバイアスです。MIT のガーナ系アメリカ人である Joy Buolamwini さんが顔分析ソフトを使った授業に取り組んでいた際、彼女の顔は認識されにくかった。逆に肌の色が明るい共同研究者は問題なく検出できた。ここからバイアスがあることが判明しました。
彼女はそれに対して、ソフトウェア会社に改善を求めるだけでなく、学術的に定量分析をして説得力を上げ、講演会を開くことで、「そのソフトウェア会社と彼女の問題」ではなく「もっと大きなバイアスの問題」として捉えてもらう機会を作りました。
今の話はデータが偏っているという話ですが、そもそもデータが全く収集されていないこともあります。アーティストの Mimi Onuoha さんの《The Library of Missing Datasets》は、差し迫った社会問題の解決に役立つため、すでに世の中に存在していると思われながら、実際には一度も作成されていない空白のデータセットのリストを収集した作品です。
キャビネットを開くと、たくさんのタイトルが書かれています。たとえば「犯罪歴があるために公営住宅から排除された人々」「現在投獄されている非正規移民」など。このタイトルを読むだけでも、自分が知らなかった、社会の中で隠されていた、無関心だったテーマを見ることができる。鑑賞者がその問題を知るきっかけにもなります。
Lisa Gitelman が良いことを言っています。データは常に調理されていて、完全な「生データ」は存在しない。常にどこかで切り取られていることが起こり得ると考慮する必要があります。
たとえばデータと写真は一緒に語られることが多いのですが、写真も発明当時は「そのものを直接残せるから客観性があるのでは」と言われていた。しかしよく考えると、写真も写真家によってフレーミングされる。デザイナーの Giorgia Lupi が言うように、写真も一時的な瞬間を切り取ったスナップショットです。データでも同じことが言えると思います。
② 権力に挑戦する
権力を検証した後、その構造に対してどう挑戦・対抗するかが必要ということです。ステップは4つ――収集、実践(どのように問題をやるのかという目的)、想像、そして教育です。
例として《DJ Map》があります。デトロイトに住んでいる子供たちが、通勤者によって轢かれた場所を示す地図です。地図探検研究所(Detroit Geographic Expedition and Institute)の局長だった方が始めたプロジェクトです。
このプロジェクトが非常に良いのは、地理学者が収集するだけでなく地域の若者と一緒に共同制作したこと。そこからきちんと定量分析して地図にプロットし、「この地図がなぜ役に立つのか」という提案とセットになっていること。この地図では、近隣の子供たちの社会的・経済的不平等の是正や、より安全な通学路を提案することでした。そして、黒人の若者、特に女性のリーダーシップを中心にサポートしながら作ったことで、今後も地域ベースで同様のものが作れる可能性があるという教育にもなった、という点で非常に意味のあるプロジェクトだと説明されています。
ここから2つのことが言えます。1つは文脈を考慮すること。外部の人がデータを収集するのではなく、地域の人と一緒に文脈を知りながら収集・分析することが、説得力のあるデータビジュアライゼーションにつながる。もう1つは市民のデータリテラシーの向上です。ミッシングデータの例もこの地図の例も、専門家ではない人が積極的に参加し、地域の人のデータリテラシーが向上することで変化が起きるのではないかと感じています。
③ 二項対立と階層を再考する
本では二項対立を「バイナリー」と言っています。分かりやすい例が男性と女性でしょう。ただ、その2つのカテゴリーには明らかに見落とされている方がいる。ノンバイナリーの方などです。そうした排除されたデータを理解しながら分類していく必要があります。つまり、分類することは権力を作る道具でもあると認識することが必要です。
イギリス政府のサイトの「あなたの人種は何ですか」という選択項目の画像を見ると、本当にいろいろな人種が記載されています。よく見ると日本人を選ぶところはない。もちろん日本人がイギリスにそれほど多くないからかもしれませんが、なぜその選択肢にしたのか、なぜそういうカテゴリー分けにしたのかを考えることが、デザイナーとして必要かなと思います。
④ 多元主義を受け入れる
Abigail Echo-Hawk さんの例です。生まれも育ちもアラスカで、現在はシアトル・インディアン保健委員会の責任者の方です。彼女は、先住民やその場所のことを真剣に考えずにデータ収集されることに危機感を持っています。
マイノリティに対するデータ収集でありがちなのは、コミュニティの欠陥を見つけたり、他の人とのギャップを示すために使われること。それは分断につながるので、データの脱植民地化が必要だと彼女は言います。
これは「先住民のために、先住民によってデータを収集する」ということで、収集してほしい情報が何なのかをコミュニティ自体が決定することを意味します。なぜ収集するのか、なぜそう解釈するのか、それが本当にコミュニティの役に立つのか。そこに住んでいる人たち自身がコントロールし、自分たちにとって何が最善かを意思決定する。
これは Data for Good と Data for Liberation の話につながります。Data for Good は「データで良いことをする」というそのままの意味ですが、とても曖昧で、少しトップダウン・上から目線の印象があります。専門家がいきなり地域に対してデータ収集・分析して「この地域はこんな感じです」と示すよりも、その地域と一緒に目標に向かって進む(共同解放)モデルにした方が、プロジェクトが終わった後も地域の人が続けられるし、成功につながるのではないかということです。
《EJ Atlas》は、世界各地の環境問題をめぐる社会紛争を文書化しカタログ化したサイトです。地域の人と一緒に、という話をしてきましたが、それはミクロなデータになる可能性が高い。地域の特色をピンポイントに掴んでいるので、それをマクロに見たらどうなるのか。それを見ることで共通性を見出したり、他の地域と連携できるのではないか――この地図にはとても感銘を受けました。
では共同解放を考えるにはどうしたらいいか。著者は、ジェンダーの観点からは女性やノンバイナリーの人たちの視点から始めることが必要だと言います。かつ、1つの専門家にデータ収集を託すよりも、いろいろな専門分野の方と一緒にプロセスを作ることが必要ではないかとも述べています。
まとめ
- そもそもデータにはバイアスがあったり、収集されていないことがある
- デザイナーは、データを分析する際に分類構造をきちんと考える、地域の人と一緒に収集・分析する、マイノリティの方のことも考えつつ制作する、といったことが必要
なぜこの項目を話したかというと、私のコースでは作品を作る際に、自分の作品でデータフェミニズムのどの項目を使ったのか・注意したのかを必ず記載する必要があったからです。毎回この原則を念頭に置きながら制作する形になっていました。
見た目だけを綺麗にすることに集中するのではなく、このデータビジュアライゼーションが本当に意味あるものなのか、バイアスを生む可能性はないかを考えるきっかけにもなったので、私なりにとても勉強になりました。
データを扱うデザインの文脈 ― Tufte と Lupi
ご存知の方も多い2人――ビジュアライゼーションの第一人者と言われる Edward Tufte と、Data Humanism という概念を提唱したデザイナー Giorgia Lupi の意見を比べてみたいと思います。
Tufte は Graphical Excellence の原則の2つ目にあるように「明瞭に、正確に、効率よく」。Simple is the best という印象で、分かりやすくシンプルに伝えることを目指すことを提唱していました。
一方 Lupi さんは Data Humanism という概念の中で4つの項目を挙げています。
① 複雑さを受け入れる:企業のプレゼンなどで用いられるビジュアルデザインは、複雑な問題をできるだけシンプルに見せようとする――彼女の言葉で言えば「化粧直し」のように使われることが多い。その一方で、私たちが生きている世界は複雑で多面的で、そんなに簡単にはできないものが多い。だから複雑なまま、読者が興味を持ち始めるためのジャンプポイントをデータの中に潜ませつつ、いろいろなストーリーを組み合わせる。彼女はこれをノンリニア・ストーリーテリングと言っています。彼女の作品はぱっと見は難しく、凡例もかなり複雑でじっくり読まないと分からない。でも逆に、複雑なまま提示することで、自分が何に興味があるのかをじっくり観察できる。それが彼女の作品の特徴だと思います。
② 標準を超える:パッケージされたデータビジュアライゼーションソフトは多く存在し、ワンクリックでグラフが作れてしまう。しかし彼女は、正確で魅力的なインフォグラフィックスを作るには、それらのソフトウェアではなく、手書きなどでもっとじっくり考えながら作ることが必要だと言います。実際、彼女は作品を最初は手書きで試して作っています。一部はソフトウェアで見たことのあるシンプルなグラフもありますが、非常に独創性があって美しい。
③ 文脈を忍び込ませる:《Dear Data》は、ロンドンに住むデザイナー Stefanie Posavec さんとの文通の記録です(彼女も卒展にいらしていました。Lupi さんと同じく手書きでデータビジュアライゼーションを作るデザイナーです)。1週間ごとにお互いテーマを決めて――何回愚痴を言ったか、何回笑ったか、友人やパートナーとのやり取りなど――共通の話題を定めて、お互いにデータビジュアライゼーションを作って葉書で送り合うというもの。個人のストーリーに着目して作っているので、他にはない、シンプルにはできない面白いものができています。「データは適切に文脈化されれば、より有意義で親密な物語を書くための非常に強力なツールになり得る」ということが、まさに体現されています。
④ データは不完全である:これは先ほどの章と同じことなので、深くは説明しません。
2人の違い
- 時間:Tufte は最短時間で見せる。Lupi は複雑なストーリーをゆっくり探索しながら見せる
- 見た目:Tufte はシンプル。Lupi はカラフルで手書き。共感的で温かい感じが生まれる
- 主題:Lupi は作者の主観的な考えや身近な出来事を取り上げることで共感性を出す
この違いは時代の違いにもつながると思っていて、Tufte はモダニズムの影響をかなり受けている印象、逆に Lupi はデータフェミニズムにも通じる。時代の流れとデザインのトレンドに合わせて、データビジュアライゼーションも変わってきているのではないかと思います。
もう1つ言うと、最初に話した Explain / Explore のバランスでも言えます。Tufte は説明に重きを置いている印象。一方 Lupi は、共感できる個人の出来事を見せたり複雑な設計をしたりすることで Explore に重きを置いている。私は自分でデザインする際も、「この作品は Explain / Explore のバランスをどれくらいにしようか」ということを、この2人の考え方から学びました。
データデザインとデータアートの違い
メディアアートを研究・制作していた背景から、データデザインとデータアートの違いについても考察してみたいと思います。
2019年、イギリスの芸術家に贈られるターナー賞の候補に、ロンドン大学ゴールドスミス校に拠点を置く研究機関 Forensic Architecture が入りました。事件を動画や画像、ソーシャルメディアから収集し、ソフトウェアを使って解明を試みる団体で、その手法はデータビジュアライゼーションと言えると思います。
これに対して美術史家の Claire Bishop が書いた “Information Overload” という記事が、私にはとても腑に落ちました。Forensic Architecture について彼女は、「観客はもはや自分自身の議論を立てたり、アーティストのつながりを推測したりすることを期待されるのではなく、論理的な結論に至るまで法的な手法に従うことを期待されている」と言っています。つまり、観客はアーティストの意図の中で作品を Explore するということです。
一方で彼女は Anna Bogui(アーティスト)も取り上げています。数年前に森美術館でも展示を行った方で、日本の金属産業の歴史をリサーチし、それが政府によってどのように搾取されていたか、自動車メーカーがこの産業でどう経営していたかを、ジャーナリスティックな視線でデータ収集・分析し、絵や地図と組み合わせて作品にしています。彼女の作品は、作者の意図から離れて観客の経験や意図していない考えを起こさせるのではないかと思いました。
ここから私の考えですが、Forensic Architecture はアーティストが定めた意図通りに Explore させることを目的としているのでデータデザインと言えるのではないか。一方、意図していないところまで Explore させるものはアートと言えるのではないか――これが現時点での私の見解です。
作品事例① Breaking the Glass Ceiling of Museums
1学期の最後の課題として提出したもので、私が個人で作った最初のデータビジュアライゼーションと言えるかもしれません。
課題は「SDGs の17項目から1つ選び、それに関するデータをもとにデータビジュアライゼーションを作る」こと、そして「データフェミニズムの原則を最低1〜2つ使用する」ことでした。
私が最も共感し、寄り添って制作できるものは何かと考え、ジェンダー平等(5つ目の項目)を使うことにしました。私自身が作品を作っていたことから、美術館のジェンダーギャップに関するデータを収集しようと考えました。
同時に、個人的に Guerrilla Girls の作品がとても好きなんです。ゴリラのマスクを被って活動するアクティビストのグループで、「アメリカの現代美術館のセクションに所蔵されている女性アーティストの作品は5%にも関わらず、女性の裸の作品は85%もある」という、皮肉の効いた作品を作っています。これも言わばデータビジュアライゼーションと言えるかもしれません。
私も女性アーティストの所蔵数がどれくらい違うのだろうと興味を持って調べたところ、アメリカのデータが見つかったので、これを使用することにしました。
データビジュアライゼーションを作るにあたって、「文脈からデータを集める」か「まずデータを集めて文脈を考える」かの2パターンがあると思いますが、私は前者――まず文脈があってデータを集めるという進め方をしました。その際、ストーリーテリング(この作品を通じて誰に対して、どのようなことを思ってもらい、どう行動してもらうか)は、『データストーリーテリング・ワークブック』に記載されているプロセスを採用しています。
調べているうちに「ガラスの天井」というキーワードを見つけました。女性が管理職として昇進するのを阻む社会的障壁を指すビジネス用語です。このテーマでビジュアライズできないかと考えました。
データ分析では、性別・人種・出生地・出生年などの項目があるスプレッドシートを使いました。3つ全部を使いたかったのですが、ときどき「NA」と書かれている――まさにミッシングデータの部分をどう扱うかはかなり悩みました。最終的に NA の項目はすべて排除しましたが、排除したことについてもレポートには記載しています。
デザインは、ガラスが割れてその後に光が見えているような明るい印象を見せたかったので、イメージ写真を参考に Processing を使ってスプレッドシートからデザインを作っていきました。線の長さが長いほどマイノリティのアーティストを指すようにしています。ジェンダーギャップを扱うのでナイチンゲールのローズダイアグラムを使いたいと考え、いろいろ試しました。1辺が1つの美術館を示しています。
ある程度形ができた後にカラーと組み合わせ、マイノリティのアーティスト名を入れることで、この線が何を示しているのかを分かりやすくしました。たとえばこの長い線は Zaha Hadid の作品を示しています。
最終的には、このデザインを透明のアクリル板でレーザーカットしたものと、光が透ける印象を出したかったのでトレーシングペーパーに印刷したものを組み合わせて仕上げました。
作品事例② A Map of Algorithmic Random Walk in London(修士作品)
こちらはこれまで話したデータ分析の方法とは少し違い、ダイアグラムとネットワーク図を使った作品です。
インターネットの誕生後、私たちが情報を入手する方法や情報量は急増し、情報過多と言われる状況から、インターネット企業はユーザーの負担を減らすために個人情報などを利用して、ユーザーが興味を持ちそうな情報を事前に取捨選択するアルゴリズムを開発しています。しかしそのアルゴリズムは自分の過去の行動や閲覧履歴から作られるので、自分と似た意見を持つ人の情報しか見られず、新しい発見が生まれにくいフィルターバブルを作り出していると言えます。
この状況に対して、2つのアプローチを考えました。
① アルゴリズムの理解促進によるデータリテラシーの向上:『データフェミニズム』でも、データを収集し資源を持つ国家や企業に対して、ユーザーのデータリテラシーを育成することが重要だと言っています。私はアルゴリズムを可視化することで、テクノロジーの批判的考察をし、データリテラシーの育成ができるのではないかと考えました。
② ランダム性を取り入れた批判的実践:理解促進のみではなく、現状を具体的に変える実践を可視化できないか。インターネットのアルゴリズムを通じて受け取る情報は、いわば自動的です。すると既に知っている情報ばかりで新しい発見が少ない。『Living in Data』で Jer Thorp が言うように、「今日のデータ環境において、私たちは主体ではなく客体である。私たちの生活に変化をもたらしたいのであれば、私たち自身が物事を変えていかなければならない」。つまり、自分たちの情報を主体的に考える必要があるのではないか。
また法律家の Cass Sunstein は「計画的でない良性の出会いは民主主義そのもの」と言っています。ここから、コントロールしようとするのではなく受け入れること――ランダムネスの中で自分自身が主体的に情報を手に入れる行動が、現状を変える1つの方法になるのではないかと考えました。
なぜ Google マップか
具体的には Google マップを取り上げました。Google マップもレコメンデーションを表示しますが、それを実世界に対して表示するので、私たちの行動変容をすぐ生み出す。そこが他のサービスと違う点だと思っています。
Google マップの情報がどのようなアルゴリズムによって表示されるのかを、ダイアグラムを用いて可視化することを考えました。
ランダムネスを用いた実践については、1960〜70年代にパリで活動していたシチュアシオニスト・インターナショナルが「町を歩くこと」(漂流)を提唱していました。それを私の作品でも使って、ランダムに歩いて情報収集してみることを、ネットワーク図を使って試しました。
作品は、立体的な建築模型のような形にしています。
アルゴリズムのダイアグラム化
アルゴリズムの可視化は《Anatomy of an AI System》に影響を受けています。この作品は、スマートスピーカーがどのように生まれ、そして捨てられるのかを一連のダイアグラムにしたもの。テクノロジーを使う際、その背景――iPhone がどう作られているのか、人間がどのように労働力として使われているのか――は見えにくいですが、それを全部見せることでデータの依存関係や人体の搾取も見せることができる。とても興味深いと思ったのが、Google マップのアルゴリズムをダイアグラムにしたいと思ったきっかけでもあります。
Google マップに表示される情報は6種類に分けました。
- Google マップユーザー全員に表示される非営利施設(公園、病院、大学など)
- 全員に表示される営利施設(ホテル、レストランなど)
- 評価の高い場所
- 最近自分が検索した場所
- レコメンデーション
- 広告
これらの情報、特にレコメンデーションや広告は、マイ・アクティビティから自分がどのようなカテゴリに入っているか、どのような設定になっているかをすべて見ることができました。
ただ1つ分からないところがあり、それが「Google ユーザー全員に見せる情報」です。なぜそのレストランやホテル、病院を Google が選択して見せているのかは、アルゴリズムが公開されていないので調べることができず、そこも修士研究では記載するようにしました。
サイコロを使って歩く
ランダムネスを取り入れた批判的実践として、サイコロを使って街を歩くということをしました。十字路に来たらサイコロを振り、1が出たら左、5が出たら左から数えて5番目(=真ん中)という具合に、常に左から数えて進む。
ロンドンのゾーン1(中心部)の東の駅から西の駅まで歩きました。赤の線が Google マップの経路、黒の線が私がサイコロを使って歩いた経路です。15分ごとに方向を変えながら歩き、同時に15分ごとに iPad で、自分がいる場所から半径1.5km ほどのスクリーンショットを取りました。全体で19枚のスクリーンショットを収集しています。
Google マップのスクリーンショットから、先ほど定めた6種類の情報を――本当にアナログですが――調べて地図にプロットし直しました。これを受動的な情報と定義しています。
一方、主体的に自分で入手した情報は写真で収集しました。哲学者 Bruno Latour のアクターネットワーク理論にとても感銘を受けまして、ざっくり言うと「人も出来事もすべて平等に扱うこと、そしてそれぞれがつながっているかもしれないこと」を言っている。ここから、最初は全く分類せず、自分が興味を持った現象・もの・落ちているもの・会った人などを収集していきました。これは建築家の今和次郎が提唱した考現学の方法でもあります。
分析
15分ごとの地域の1.5km 圏内で、どの情報がどれくらいあるのかをカウントしました。面白いことに、レコメンデーション(オレンジ)の情報は、私が西に行くにつれて減っていく。逆にレストランやホテルなど営利目的で全員に表示される情報は、西に行くほど増えている。
私は Google マップの専門家ではありませんが、私がロンドンの東の方に住んでいるので、よく活動しているところでは Google マップが情報をたくさん入手してレコメンデーションしやすくなっている一方、西側にはほぼ行かないのでレコメンデーションできないのではないか、という仮説が立てられました。
主体的に集めた情報は、写真を撮った後に6種類に分類しました。オブジェクト、建築、デザイン、言語(看板に書かれている文章が面白かったものなど)、現象、自然です。その後、なぜその現象に興味を持ったのかを短い文章にして、そこから興味深いキーワード(アジア、ローカル、ムスリム、モダンなど)をピックアップして並べました。
同じく5つの時間帯に分けると、西に行くほど建築に興味を持っている、東を歩いているときの方が自然を記録しているなど、自分でも無意識に感じていたことが分かりました。それも地図上にプロットしています。
そして、ピックアップしたキーワードを1枚1枚の写真の周りにネットワーク図のように記載し、全然違う場所であっても同じようなことを思っていることがあるので、同じキーワードは水色の線でつなぎました。
ワークショップ
このランダムに歩くという試みを、ワークショップでも実施しました。クラスメイトのアメリカ・中国・イギリスの学生と一緒に大学の周りを15分ほど歩き、それぞれ興味があったものを写真に撮ってもらう。歩き終わった後に地図にプロットし、カテゴライズして、なぜ興味があるのかを3〜4つのキーワードに書いてもらい、共通するキーワードをつなげました。
ロンドンの街を歩いたのは私自身のデータでしたが、今回はいろいろな人のデータを一緒に見ることができて、新しい発見のある面白いワークショップになりました。
4つの要素をどう1つのデザインにするか
① Google マップのアルゴリズムのフローダイアグラム、② 歩いて受動的に得た情報、③ 主体的に集めた情報、④ そこからキーワードをつなげたネットワークダイアグラム。この4つをどう1つのデザインにするかを考えました。
ダイアグラムは建築で使われることが多いですが、単なる設計図としてだけでなく、パノプティコンのように社会的背景を表現する力もあると考えています。パノプティコンは監視社会を表す刑務所の設計図で、中心の監視者がどこを見ているのか分からない構造になっている。監視社会を表しているとも言われます。一方《World Government》という作品は建築ではありませんが、世の中の概念や社会の流れをダイアグラムにすることで、社会システムがいかに複雑で不平等かを分かりやすく見せています。
ネットワークについては、今回私が理想としたのが分散型ネットワークです。サイコロを使ったランダムウォークという取り組みは、偶然と秩序の中間にあるもの――ネットワーク理論における「秩序ある複雑性」の一形態だと言えるのではないかと定義しています。
デザインのフェーズでは、インターネットが「インターネット・アーキテクチャ」と建築に例えられることから、建築をイメージしたものを作りたいと考え、こういう見た目になりました。Cinema 4D を使って設計し、レーザーカッターでアクリル板をカットして作りました。右上にあるのが、まさに私が歩いたロンドンの経路です。
先ほど Explain / Explore のバランスと言いましたが、今回の修士作品では Explore のバランスを大きくしたかったので、模型自体にはあまり説明を書いていません。その分を補うために、別に冊子を作って詳しく説明することにしました。
出来上がったのがこちらです。上部が Google マップのアルゴリズムで、6種類の情報の違いをカラーで示し、中心に5つの時間帯の情報の違いを見せています。下部は、サイコロを使って歩いた際に集めた主体的な情報。バブルチャートを、情報を取得した場所から紐でつないでいます。なぜ紐かというと、上部はアクリルを使った無機質な感じをイメージしていたので、下部は有機的な印象を作りたくて糸を使いました。
ネットワーク図はアクリル板で削り、紐でつないでいます。カラーは6種類で、建築・自然・オブジェクトなどの違いを見せています。最終的にこれを中心で合体させ、中心では私が歩いた経路をロンドンの地図とともに見せることで、この建築自体がロンドンの地図であることをイメージしています。
最後は急ぎ足になってしまいましたが、これが私の修士作品です。もし質問やご感想がありましたら、メールや SNS でご連絡いただけると嬉しいです。本日はご清聴ありがとうございました。