Data Visualization Japan Meetup 2025「データ可視化本 著者が語る」(2025年12月29日オンライン開催)における、Shirley Wu さんと矢崎 裕一の対話です。Shirley さんは『Data Sketches』(A K Peters Visualization Series, 2021)の共著者。サンフランシスコと東京を拠点に、エンジニア/アーティスト/データ可視化デザイナーとして活動しています。
なお本セッションは通訳を介さず、Shirley さんが日本語(ときどき英語)で話しています。読みやすさのために整文していますが、話し言葉の呼吸はできるだけ残しました。
自己紹介
矢崎:今、サンフランシスコで夜ですよね。
Shirley:はい、夜ご飯を食べ終わったところです。楽しみにしてました。
矢崎:ではまず、Shirley さんから自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
Shirley:はい。日本語で自己紹介したこと、あんまりないなってさっき思ってたんですけど、頑張ります。結構、日本語の単語、特にデータ関係の単語をあまり知らないので、英語が混ざってくるかもしれません。
初めまして、Shirley です。サンフランシスコと東京で活動している、エンジニア、アーティスト兼データ可視化のデザイナーです。
キャリアの最初はソフトウェア・エンジニアとして。最初がビッグデータの会社だったので、そこでデータ可視化の仕事に巡り合いました。それから10年間くらい、データ可視化を専門にフリーランスをやっていました。4年前にまた大学院に戻って、アートとテクノロジーの大学院に行って、そこで「アーティストになりたいな」と思って。そこから徐々にアートの活動もしています。
すごく緊張してます(笑)。心臓がバクバク言ってます。
矢崎:いえいえ。だって中国語と英語が話せて、あと日本語って、すごいですよ。
Shirley:でも日本語と中国語は小学生レベル、8歳児くらいのレベルです。2つとも。
最近は特に日本にも定期的に来ていて、次は1月の中旬ごろにまた東京に戻ってきます。サンフランシスコの方ではクライアントワークをして、日本に、東京に行ったときは個人のアートワークをする——そういうセパレーションなんです。
矢崎:なるほど、そうだったんですね。今年も2回、東京で展示をしてましたよね。
Shirley:はい。秋、9月に個展を開く機会をもらって、また10月に友達と一緒にコラボの展示を行いました。すごく嬉しかったし、いっぱい勉強できて、いっぱいの人と会話できて、すごくいい経験でした。
矢崎:1つ目の方は、私もオープニングパーティーに行かせていただいて。
Shirley:来てくれて本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
矢崎:すごい素敵な空間でしたね。
出会いは Eyeo Festival
矢崎:私と Shirley さんとの出会いは、最初 Twitter で……あ、そうでしたっけ。対面は Eyeo でしたよね。
Shirley:Eyeo でしたね。Twitter がまだすごくいい場所だったときに(笑)、もう10年くらい前にあったんですよね。
矢崎:Eyeo Festival ってアメリカのミネアポリスで毎年開催されていたニューメディアアートのカンファレンスで、結構なんでもありというか。データ可視化もありだし、メディアアートもありだし、フィジカル・コンピューティングとか、もうちょっとソーシャル・アクションみたいなものもあったりして。そこで対面で会ったのが初めてだったかなと。
Shirley:それで知り合えて、すごく嬉しかったです。
Data Sketches というプロジェクト
矢崎:話の順番としては、本の話からなのか、それともデータスケッチズのプロジェクトの話からがいいのか。
Shirley:じゃあ、Data Sketches というプロジェクトの方から紹介して、そこから本に入るという流れで。ちょっとスクリーンシェアしてもいいですか。
これが Data Sketches という、私と Nadieh(Nadieh Bremer)のプロジェクトです。もうすぐ10年前、2016年に始まりました。
最初のときは、本当にすごく単純なモチベーションでした。私たち2人とも仕事が忙しくて、「自分のために作るプロジェクトが少なくなってきてるな」「サイドプロジェクトとかパーソナルプロジェクトを作る時間がないな」と2人で語っていたときに、「じゃあ、なんか一緒にコラボしちゃおうか」という、すごく気軽な話から始まったプロジェクトなんです。
「2人でお互いのモチベーションを上げて何かを作る、ってどういうふうに作るかな」と話していたら、「じゃあ12ヶ月、1ヶ月に1つのプロジェクトで」と。そのプロジェクトにはテーマがあって、2人ともそのテーマをインスピレーションにしてデータを探して、デザインして何かを作る。そしてそれをドキュメントする——それが Data Sketches の始まりでした。
最初のテーマは「映画」
Shirley:たとえば、私たちの最初のテーマは「映画」でした。私は最終的に Film Flowers というプロジェクトを作ったんですけど、25年ぶんくらいのブロックバスター——その年のいちばん大きな映画、その年のトップの夏のブロックバスターですね——を、1つ1つの映画をお花にしたんです。
- 花びらの形が、PG(Parental Guidance)などのレーティング
- 色がジャンル
- 花びらの数が IMDb での投票数
- お花の大きさが、10点満点で何点かという評価
いちばん小さいのがいちばん低い点数で、大きいのがいちばん高い点数、という感じで、こういうお花を作りました。
それをまた、「データはここから探し出したよ」「スケッチはこういうデザイン、こういうアイデアがあったよ」「コードは SVG を使ったので、初めて SVG のパスを使うからそれをどうやって、あと SVG のパスってどういうものかな」——そうやって勉強したことを書いたのが、Data Sketches の始まりだったんです。
ちなみに Nadieh の初めての Data Sketches は、Lord of the Rings というプロジェクトです。『ロード・オブ・ザ・リング』のキャラクターが、映画の中のどの場所で、どれくらいのセリフがあったかという可視化なんです。彼女もこのプロセスを書いて、どこでデータを探し出したか、最初のデザインのスケッチとか、コードはどういうふうに、どうやってこの最後のかたちにたどり着いたか、を書いて。
これを1人12回、12個のプロジェクトを作り出して、プロセスを書いて。それが Data Sketches になったんです。
矢崎:本に収録されているプロジェクトも、さっき Shirley さんが紹介してくれたとおり12プロジェクト、かつ2人でやっているので24プロジェクトが載っていると。
各プロジェクトが、スケッチとデータとコードというセクションに分かれていて、それぞれ、そのときに何をリサーチしたり考えたりしたのかというところが、読んでいてもプロセスを追体験している感じがして、すごく深いところにダイブしていく(笑)。さっきの SVG のやつも、本当に SVG の仕様をきちんと理解して、あのお花を作っている。
Shirley:はい。Illustrator も、Adobe も SVG にエクスポートできますし、SVG はいろんなところに使われているんですけど、Web での SVG の、どうやってその形を書くかというパスコマンドが、見てるだけだとちょっと難しいなというところがあるんです。それを本にしたときは、こういうふうに「レッスン」にしました。パターンとか、どういうふうに読むか、それだけを覚えたら結構簡単に読めますよ、という感じで、本にしたときにはレッスンも入れました。
Web で全部読めるのに、なぜ本にするのか
Shirley:さっき矢崎さんが言ったように、結構ディープにダイブするときもあるんですけど、それをどうやって……この本は2021年に出版したので、5年間くらい Web としてのプロジェクトだったんです。本にするときには、もう Web で全部のプロジェクトが誰でも読める状態だった。
じゃあそれを本にするとき、本でしかできないことをしたいな、と。Nadieh と一緒に「本を買ってくれる皆さんに、本でしか伝えられないものは何か」を、すごくいっぱい相談して、対話をしました。
矢崎:テーマカラーも、緑色とピンクがあって、最初は逆だったのが……。
Shirley:まだ逆になってた(笑)。そうでしたね。2016年、さっき見せたのは新しいウェブサイトで、本当に最初のバージョンは雰囲気もすごく違いました。最初、私は緑だったかな。
矢崎:記憶力いいですね。
Shirley:すごくディテール、1つ1つのディテールを……本になったときには、「Web でフリーで読めるなら、じゃあ本の価値は何か」という感じで、1つ1つのディテールにもすごく注意して。「こっちのセクションが何だよ」とか「ここにテーマが書いてあるよ」とか。あとコーヒーテーブルブック兼テキストブックなので、「テキストブックだったらどういうレッスンが学べるかな」という感じで、そこも結構レッスンを入れて書きました。
2人の先生のおかげでできた本
矢崎:本は「A K Peters Visualization Series」という、データ可視化の本のシリーズがあって、その中に Data Sketches もあるんですよね。
Shirley:入れてもらったんです。それも Tamara Munzner 先生のおかげであるんですけど、私と Nadieh でよく冗談で言うのは、「この本は2人の先生のおかげでできた」ということなんです。
最初は Alberto Cairo 先生。私たちが2016年に Data Sketches のプロジェクトを Twitter に載せたときに、Cairo 先生がポッドキャストで「あのプロジェクトいいよ」と言ってくれたんです。「このプロジェクトすごくいいし、これが本になったら、コーヒーテーブルに置ける本になれるな」って。そこで「このプロジェクト、本になれるの?」「本になれたらいいな」という感じで、Nadieh と一緒に話し始めたのが原点で。
でも私たち、結構 fresh というか、green というか。「本をどうやって出版するか」も知らなかったんです。
矢崎:グリーンって、なんかすごくヤングな、という感じ(笑)。
Shirley:それで、2年間くらい、いろんな出版社さんに連絡しても……その時には、コーヒーテーブルブックとテキストブックは結構別々のもので、その2つを同じ本にするというのは「できないかも」と拒まれていたんです。リジェクトされて。2年間くらい、出版社さんたちに結構拒まれて(笑)。
もうギブアップしようかな、という感じのときに、Tamara Munzner 先生——A K Peters の編集にも関わっている方が、私たちの Data Sketches のことを知ってくれていて、「じゃあ私の出版社とやってみない?」と言ってくれて。理解者になってくれて、彼女の出版社に紹介してくれた。そして「私たちはコーヒーテーブル・テキストブックをやりたい」ということも出版社に伝えてくれて、それでこの本が存在するようになりました。2018年の4月ごろに契約をサインしたんだと思います。
矢崎:最初は、コーヒーテーブルブックと教科書、これを両方一緒に、というのが他の出版社だと NG。
Shirley:テキストブック、教科書の出版社さんたちのところに行ったら「私たちは教科書だけを作ってる」という感じで。コーヒーテーブルの出版社さんたちに行ったら「コーヒーテーブルブックだから、イメージがいっぱいあってもテキストが少ない方がいい」と言われて。コーヒーテーブルブックだと写真・イメージがすごく大きくて、テキストがちょこっとサイドにある、という感じで。
でも私たちは2つとも重要だったので、2つともイコールに、並行して入れたかった。そういうふうに扱ってくれる出版社を探し出すのが、すごく難しかったです。特にコーヒーテーブルの出版社さんたちはジェネラル・オーディエンスが読者なので、私たちの本はすごくニッチで、結構テクニカルなトピックもあったから、扱いたくなかったんです。
矢崎:そこをやっと拾ってくれた出版社が A K Peters という、データ可視化の超有名な出版社だったと。
Shirley:Munzner 先生のおかげでピックアップしてもらって。だから Cairo 先生が最初のイントロダクション(Foreword)を書いてくれて、最後のあとがきを Munzner 先生が書いてくれたんです。初めと終わりが、2人の先生のおかげ、という感じで。
矢崎:なるほどね。本当に感謝深い。
Shirley:はい。出会いと機会をくれたプロジェクトと本です。
アイデアから始まる ― オバマのプロジェクト
矢崎:本の内容に戻ると、データの集め方もすごく大変で。たとえばオバマさんの、あのプロジェクトですね。
Shirley:この12個のプロジェクトで自分的に学んだのは……データ可視化のプロジェクトだと、よくもらう質問が「アイデアはデータから始まるんですか、それともアイデアから始まるんですか」なんです。何かデータを見つけて、そこから始まるのか。
私的には、アイデアから始まるんです。何かに興味を持ったときに——たとえば、さっき言ってくれたオバマさんのプロジェクトを、ちょっと出してみます。
これは、バラク・オバマとミシェル・オバマがテレビでインタビューを受けた YouTube 動画で、1つ1つが動画です。そこから YouTube で何回見られたかとか、どれくらい笑ったかを可視化した(笑)プロジェクトで、本当に結構楽しいプロジェクトでした。
このデータは……実は、サンフランシスコで D3 のイベントに参加したときに、友達の Ian Johnson さんが当時(2017年)Google Cloud で働いていて、「じゃあ Google Cloud で何か作ってよ」という感じだったんです。
矢崎:なるほどね(笑)。
Shirley:何をしたかもう忘れちゃいました。いま自分の方も読んでます(笑)。
えっと、オバマさんたちの YouTube のテレビ出演のリストを作って、それをインプットとして YouTube の API を使って探して、ダウンロードして。ダウンロードしたときにサブタイトル(字幕)があるかを見て、あればそのサブタイトルをカウントして。それでまた、YouTube の動画を一コマ一コマスクリーンショットして、それを Google Cloud の Vision API に上げて、その中に顔があるか、顔が笑っているかを判定する、という API だったんです(笑)。
これは全部パーソナルプロジェクトだったので、第一に「何かを学びたい」というモチベーションが1番で、第二に「面白いか、楽しいか」。本当に仕事の外のプロジェクトだったので、楽しむことが1番だったんです。
デザインとコード、どちらが先か
矢崎:さっきの話でいうと、アイデアがすごく最初にあって、コーディングで作るわけですけど、そこでの表現がすごく繊細だったり細かかったりして。その両立って難しいんじゃないかなと思うんですけど。
Shirley:すごく難しいと思います。結構、毎回悩んでます。矢崎さんも悩みますか?
矢崎:どっちかが先に始まって、あとでちょっとキャッチアップする、というか。でも、どうなんだろう。なんかデザインするときって、コーディングしながらデザインってできないような気がして。一旦、何もない状態にして、ゼロベースで考えるというか。
Shirley:私、データ可視化を作る初めのころは、すごく効率が悪い作り方をしてたんです。最初のころは「楽しかったらいいな」という感じでやっていたので、最初からコードしてました。データを集めて、スケッチもしないで、コードから始めていた。
この「デザインをスケッチする」という習慣は、Nadieh が私に教えてくれたんです。「先にスケッチした方がいいよ」って。
本当に最初のころは、コードして「あ、これちょっと変だな」と思ってまたコードして、「やっぱりデザイン的にちょっと微妙だな」と思ってまたコードして……という感じで、イテレーションがいっぱいあって、結構時間がかかっていました。
いまのプロセスは結構違います。データを集めた後は、Observable とかでチャートをいっぱい作る。ラインチャートとかバーチャートとか、簡単なものはすごく素早く試して、データを理解するために違うチャートを試して、「これは面白いかな」「何かいいポイントがあるかな」とエクスプロアして。そこから何かいいところがあったら、その意図をちょっと取って、そこからデザインのスケッチを始めて、コードする。そのプロセスで、結構、時間がかからないようになりました。
矢崎:Data Sketches の本を見ていても、Nadieh さんと Shirley さんのアプローチの違いというか。Nadieh さんは結構ドキュメンテーションがすごい。たくさんスケッチしているという。
Shirley:ドキュメンテーションがすごいです。私は結構、コードに行くという感じで(笑)。ドキュメンテーションもそんなにやっていなかった。初めは。
矢崎:それでも一緒にコラボレーションすることで、お互い影響し合うというのはありました?
Shirley:すごくいい影響をもらえました。Nadieh はバックグラウンドがデータサイエンティストなので、データの方がすごく強くて、彼女から「データをどうやって分析するか」をいっぱい学べました。そして分析したデータをまたどうやってデザインにするか、どうやってスケッチするかも、そこからいっぱい学びました。
矢崎:Shirley さんはバックグラウンドとしては数学とコンピューターサイエンスですよね。
Shirley:ソフトウェア・エンジニアとしてそこから入ってきたので、結構、いっぱいコードに没頭してた時期がありました(笑)。
メディアアートとデータ可視化
矢崎:Shirley さんが修士で通っていたニューヨーク大学の ITP は、Processing の発祥の地……あ、ダニエル・シフマンさんとか。いや、Processing は Ben Fry さんだったので、そこは ITP じゃなかったかもしれませんね。MIT の方かも。
Shirley:Processing は C++ でしたっけ、Java でしたっけ。p5.js が JavaScript の方で、そこですね。ダニエル・シフマンはそれをすごく大きくしてくれた先生で。結構、優秀な先生がいっぱいいました。
矢崎:区別せずに見るかもしれないですけど、メディアアートとデータ可視化ってちょっとコミュニティが違いますよね。メディアアートって、アーティストとかデザイナーが自分の表現手段としてパソコンやソフトウェアを増幅させる感じがして。データ可視化は、コンピューターサイエンスとか、チャートとかグラフィックの文法みたいなものをコミュニケーションに使う感じで。ちょっとバックグラウンドもコミュニティも違うのかなという感じがしたんだけど、Shirley さんはどう思いますか。
Shirley:私も結構、同意です。オーバーラップもあるんですけど、矢崎さんが言ったように、データ可視化はコミュニケーションが主なので、私的には、データ可視化は最終的にはデザインだと思っているんです。ファンクション——何かの用がある、何かを伝えたいことがある。there is a utility, there is a function。
メディアアートも、アートにも何か伝えたいことはあるんですけど、その伝えたいものが違う。表現するものがちょっと違うかなって。それでちょっと違うなと思ってるんですけど、私は両方とも好きです。
何かのビジネスのことを伝えたい、サイエンスのことを伝えたい、という感じでプラクティカルなのがデータ可視化で。メディアアートは、何かの美しさを伝えたいというのが主だなと思っていて。その2つが一緒にあるのが、データアートとかで、結構面白いなと思ってます。
矢崎:コミュニティが違うだけじゃなくて、作品の作風もちょっと違うような感じがしていて。でも Shirley さんは、そこを両方横断している感じが。
Shirley:そんなに私、カテゴリーとかは気にしてないかもですね。自分が作りたいものを作りたいな、という感じで、結構わがままなように作ってます(笑)。
データ・フィジカライゼーションへ
矢崎:最近だと、展示とか、ちょっとフィジカルなインスタレーションが多いんですよね。
Shirley:はい。実は、初めてのきっかけはこの作品、このプロジェクトなんです。「データ・フィジカライゼーション」というんですけど、日本語では何て言うんですか。データ物理化?(笑)
これに触れ合えたのがきっかけで。Ekene Ijeoma さんというアーティストの《Wage Islands》というプロジェクトで、ニューヨークのマンハッタン島を再現しているんですけど、1つ1つのレベルの高さが家賃なんです。地区ごとの平均の家賃で。この黒い水は、1人1人が自分の給料を入れると、黒い水が上がったり下がったりする。給料が少なかったら黒い水が上がって、それが示すのは「このマンハッタンで借りられる家が少ない」ということ。黒い水の下はもう inaccessible だということで。給料が高かったら水が少なくなって、マンハッタンの主なところが出てきて「どこでも家を借りられるよ」と。
こういうふうに、格差(inequality)を示す作品だったんですけど、これを見て「フィジカルな何かを作りたいな」と思ったんです。
それがきっかけでニューヨーク大学の ITP に行って、「私個人のアートってどういうものなのか」をちょっと研究して。
個展《wonder & hope》
Shirley:まだ ITP にいるときに個展を開く機会をもらえて、そのときは《wonder & hope》という個展を開きました。
テーマは、コロナの頃に……日本語だと何て言うんだろう。コロナ禍の頃にアジアの人たちを避けるような、人種差別が起こっていて、その影響で私が個人的に外が怖くなっていたんです。結構、暴力的な差別だったので、外に出ることが怖くなっていたことに気づいて、この個展を作りました。
「外に出るのが怖い」をどうやって表現するんだ、と思っていたら——外に出ると、嬉しいときとかは写真をいっぱい撮るんです。この1点1点が写真で、真ん中からどれくらい離れているかが「家からどれくらい離れているか」。いちばん内側が家にいちばん近くて、外にいくほど離れている。いちばん太い円の中は、家の中で撮った写真ですよ、と。
見てわかるのは、コロナの前に撮った写真は全部、外で撮っていたということ。2020年2月はアメリカではコロナのシャットダウンの直前だったので、まだ外にもいたんですけど、徐々に中で時間を過ごすことが多くなった。アメリカでは2020年3月にシャットダウン、ステイホーム・オーダーが出たので、3月はもうほぼ全部の点が家の中だった、という感じで。
それをまた、水の上にプロジェクションをして、上から水を滴らせる仕掛けをしました。その滴りの速さがコロナのケース数のデータで、早いとケースがもっとある、ということで。
あの2年間は、なんというか、時が歪んでいたなという感じの表現をしたかったんですね。水が滴ったときにプロジェクションも歪んでいくのが、自分の中でその感覚と重なって。
個展 ― 「故郷」とは何か
矢崎:さっき言っていた、私が行かせてもらった今年の展示は。
Shirley:アイデンティティとホームの展示でした。3箇所ありました。
こういうふうに、私個人は子どものときに4ヶ国で育ったんです。フィリピンと中国と日本とアメリカで育ったので、それで調査したかったのは……私たちが「ホーム」と言うと「家」、あるいは「故郷」ですよね。じゃあ、私のように子どものときに1つの場所じゃなく、いっぱいの違うところを転々として育ったら、「故郷」ってどういう意味なんだろう、という展示だったんです。
可視化したのは、年輪です。1つの国でどれくらい、何年住んだかが年輪になって。フィリピンで2年、中国で2年、日本で6年、アメリカで25年、という感じで年輪を1つ1つ描いて。風が、引っ越したときの風、という感じの可視化だったんです。
それで、他の7人——私に似たバックグラウンドの人たち、小さい頃からいっぱい違う国で育った人たちをインタビューして、「あなたには故郷はどういう意味ですか」と聞いて作った個展なんです。これがその7人の「ホーム」の答えです。
最後には、来てくれた人たちにも「あなたにとって故郷は何ですか、答えてくれますか」という質問をして、iPad にデータを入力してもらって、プロジェクションでその人のデータ可視化を自動で見られるようにしました。その人の入れてくれた答えと、バックグラウンドがいちばん違うのに、故郷についての答えがいちばん似ていた人をマッチして、プロジェクションで見せる、という感じだったんです。
矢崎:じゃあ、ホームが1つの国とか1つの場所じゃない人たちの経験を通じて、「ホームとは何か」を、展示に来た人たちにも問いかけるものだったということですよね。
Shirley:はい。すごく素敵な答えもいっぱいもらえました。いちばん多かったのは、「故郷は場所じゃなく、人だ」とか、「そこのメモリー、記憶だ」というもの。来てくれた人の中には、日本で育って日本で過ごした人たちもいたんですけど、その中でも「故郷は場所じゃなく人だ」と言ってる人が結構多かったです。
コラボレーション展示 ― 陶器で気候変動を可視化する
矢崎:もう1個、お友達とコラボレーションしていた方は、ちょっと僕は行けなかったんですけど。
Shirley:全然違いました。エイミーさんという、すごく才能がいっぱいある方なんですけど、彼女もアーティスト兼エンジニアという感じで、テクノロジーを使ってアートを作る。
彼女がこの5年間、陶芸をやっていたんですけど、その作るプロセスもすごく面白くて。最初にコンピューターの中で 3D モデルをして、そこから 3D プリンターでプリントして、それで型を取る。型を取って、そこから陶器を作る、という。結構、コンピューターが入っているプロセスなんです。
それで彼女が、グレーズ——釉薬、この色を自分で作りたいと。「自分の色を作れたら、何かデータ可視化できるかな、データ・フィジカライゼーションできるかな」と思って、私に声をかけてくれたんです。
そこから2人で「何を可視化したいかな」と。ちょうど東京でやろうかなと思っていたので、「じゃあ東京でやるなら、日本の何かのデータを使いたいな」と思って。これは気象庁のデータで、この70年間の桜の満開日、イチョウの黄葉、カエデの紅葉の日を、気象庁が70年間も記録してあって。その70年間のデータを可視化したんです。
この線が、その70年の平均の線です。ここから見えるのは、桜の満開日は徐々に早くなって、東京ではイチョウ・カエデの色づきの日は徐々に遅くなっているということです。
矢崎:形はもともとお友達がやっていたようなかたちで、色の部分が、いま説明してくれたような、紅葉のタイミングなどの色だと。
Shirley:形は彼女がコンピューター、3D モデルでデザインしてくれた形で、色も紅葉の日とか満開の日を示しているんです。一応、その日の気温のデータも私は集めたんですけど、結構そんなにパターンがなかったんです(笑)。何かパターンがあるかなと思って集めたら、何も出てこなかった。
矢崎:パターンは出ないけど、すごく長い期間で見るとトレンドはあったと。
Shirley:はい。満開の日が早くなったとか、紅葉の日が遅くなったのはすごくトレンドとして出てきたんですけど、その満開の日の気温、紅葉の日の気温が、70年間でそんなに暑かった・寒かったというパターンは全然出てこなかったんです。
矢崎:実際に行った人は、作品は触る必要はないですよね。見るという感じで。質感がすごくいいなという感じがしたんですけど。
Shirley:でも、エイミーも結構テクノロジーを使うので、NFC チップを入れていて。入ってきた人たちがスマホでタッチすると、ウェブサイトが出てきて、もうちょっとデータのディテールが出てくる、という仕掛けがあったんです。
矢崎:2つ目の方は、来てくれた人の反応はどうでした? セラミックの方は。
Shirley:すごくいい反応をしてくれていました。ただ、データがちょっと複雑な反応でした(笑)。「これ、結構やばいことを示してるな」という。気候変動を可視化しているということなので。
「これすごく綺麗なんだけど、it’s very depressing」と結構言われました。
矢崎:すごく綺麗で質感もすごくいいんだけど、そこで表していることは気候変動の、ちょっと悲観的な将来というか。
Shirley:「感情的に複雑だな」と言われました。「これ、すごく明らかにしてる」と。気候変動を本当に明らかにしているから、それを衝撃的に、in your face という感じで、「これを見るとその現実に向き合わなきゃダメ」という感じ。そういう反応が結構ありました。
矢崎:なるほどね。
Shirley:まあ、それは私たちのゴールだったんで、そのゴールは果たせました(笑)。何か綺麗な陶器で誘って、入ってもらって、現実のトピックをバーンと「これ、気候変動だよ」という感じで(笑)。その会話をしたかったので、ゴールは果たせました。
2026年 ― アートにオールインする
矢崎:じゃあ日本では、いまご紹介いただいたような展示を定期的にやっていくということですね。
Shirley:目標です。はい、そういう目標です。
矢崎:クライアントワークもやりつつ、こういう個人のパーソナルワークとしてのデータ・フィジカライゼーションを。
Shirley:実は最近、すごく個人的に大きなライフ・ディシジョンをしたんです。来年、2026年から、東京で1年間……どうやって日本語で言うんだろう。英語で言うと、OK, I made a really big life decision.
長期的には、フルタイムのアーティストとして活動したいんです。そのためには、この半分クライアントワーク、半分個人のアートワークというバランスをハーフハーフでやっていて、それだと一生このままフルタイムのアートにならないな、と思い始めて。
それで、2026年の決心は——「東京で1年間の生活費を貯金したら、クライアントワークはもうやめて、クライアントワークのスタジオをシャットダウンして、1年間アートにオールインします」という覚悟です。
矢崎:おお。
Shirley:貯金するときはもう全部クライアントワークをして、1年間の生活費の貯金ができたら、もうクライアントワークは取らないことにして、アートだけでその道に行けるかという実験に入ります。オールインします。
矢崎:クライアントワークでお金を貯めて、そしたらもうバチッと切って、アーティスト活動にオールインして。そのまま飛んでいけたら飛んでいきたい、という。
Shirley:飛んでいきたいです。飛んでいけなかったら……そのときの覚悟は、その1年間でアーティストとして勝ちきれなかったら、日本の会社をシャットダウンして、サンフランシスコに戻って会社員になります(笑)。
矢崎:え、そうなんですか。
Shirley:それが覚悟です。
矢崎:衝撃的な。でも、言ったら、Eyeo Festival の1番最後の年の、最後の日の最後のトラックに Shirley さんが登壇していて。そのときに、今の話にもつながるようなライフストーリーが語られていて。
Shirley:ようやく、そのオールインする勇気をビルドアップしました。
矢崎:最後にその大きな話を聞けて、すごく良かったです。
Shirley:このステージを、この伝えるきっかけをありがとうございます。
これから追いかけるには
矢崎:Shirley さんの今後の活動をウォッチするには Instagram がいいですか。
Shirley:アート的には主に Instagram で、クライアントワークの方は LinkedIn です。
矢崎:みんな SNS 難民というかね。何を使ったらいいのかっていう。
Shirley:一応 Bluesky もちょこっと試したんですけど、やっぱり主な友達は LinkedIn に行っちゃったんです(笑)。
矢崎:Bluesky でも、アメリカのデータ可視化のプラクティショナーの人たちがみんな、X から。
Shirley:はい、X からもう出て。アメリカの方では X にいるデータ可視化の人が少ないかもですね。Bluesky か LinkedIn に行きました。
矢崎:なるほど。Bluesky か LinkedIn でキャッチアップできるということで。素敵なお話をありがとうございました。
Shirley:いえいえ、本当にいっぱい質問と時間をありがとうございました。楽しかったです。またぜひ、日本で。
矢崎:オンラインかオフラインか、どこかでまた。ぜひオフラインでも。ありがとうございました。良いお年を。
Shirley:良いお年を。ありがとうございました。