矢崎 裕一/『データ可視化の基本が全部わかる本』ができるまで

Data Visualization Japan Meetup 2025「データ可視化本 著者が語る」(2025年12月29日オンライン開催)における、矢崎 裕一の講演です。昨年出版した『データ可視化の基本が全部わかる本』について、出版までの経緯、伝えたかったこと、出版後の反響を率直にお話しします。


企画しておいて何ですけれども、私の方からもお話をさせていただきます。昨年出版した『データ可視化の基本が全部わかる本』についてです。

流れとしては、出版までの経緯、執筆中のエピソード、本を通して伝えたいこと、出版後の反響やレビュー、そして今後について、という順でお話しします。

書籍のランディングページを作った

まず、書籍の1ページのランディングページを作りました。知り合いの方が別のユーザビリティ系の本で作っているのを見て「いいな」と思い、真似してみたものです。

本の情報、レビュー、反響などを1ページに全部まとめて見られるといいのではないか、と。当事者以外だと情報がいろいろな場所に散っていて、全体感がつかめないのではないかと思いまして。

  • 本のコンセプト
  • 想定する読者(まだこの本がどういう本か知らない人に「あなた向けですよ」「あなたはちょっと違うかもしれません」と伝える)
  • 読者レビュー(Amazon、1ページで特集して書いていただいたもの、X で私が読むことを意識せず流れていくもの……代表的なものをピックアップ)
  • 本の構成(実際の中身をスクリーンショットで)

立ち読みしなくても中身がある程度見えるように、というのが狙いです。最近はオンラインで買う方も多いですし、私自身もいろいろな本をオンラインで当たりをつけて買うことがあるので。

目次を可視化する ― 幕の内弁当のたとえ

本の構造は階層構造を持っているので、それを使って目次構成を可視化してみました。

本は最初のページから最後のページまで一直線に読まなければいけない、ということは本当はないはずです。全体の地図が見えた方がいいのではないか。小説なら最初から順番に読んだ方がいいと思いますが、実用書のようなものは、ある程度ランダムに自分の興味関心があるところからピックアップして読んでいくといいのではないか。そのための俯瞰的な図です。

突拍子もないたとえかもしれませんが、本を読むことを幕の内弁当を食べることになぞらえてみると——最初から最後まで順番に読まなければいけないというのは、幕の内弁当を端から順番に食べていかなければならないようなもの。卵まで全部食べきってから野菜を食べる、という不自由な食べ方になりますよね。

もっと目についたところから自由に、食べたい時に食べたいものを食べる。そういう読書体験もいいのではないかという意図で作りました。

出版までの経緯

これから本を出してみたいという方の参考になればと思い、経緯もお話しします。

これまでもお話自体はいくつかあって、人に紹介していただいたりしていました。出版社で企画会議があり、そこで通ると「では執筆してください」となる。

しかし、そう言われて書けるかどうかなんですよね。書ける人は書けると思うのですが、書けない人はなかなか書けない。私は書けなかったんです。せっかく企画会議を通してもらっても、そこから先に行けないことが2〜3回ありました。申し訳なかったのですが、書けなかったということなんですね。

きっかけになったのは別の企画でした。数年前(コロナ禍のころ)、この Data Visualization Japan のイベントで登壇していただいた内容を1つの本として出せないかと思い、知り合いの出版社に紹介したんです。1社目は「ジャーナリズムっぽい本はあまり売れない」と言われてお断りされ、2社目も断られたのですが、その時に「別の本を出しませんか」とお声がけいただいたのが縁でした。

3社同時スタートという事故

執筆中のエピソードとしては、初めて一般書を書く経験だったのですが、たまたま3つの出版社からの企画が同時にスタートするという状況に陥りました。

  1. 出版のスクールのようなところで賞を取り、その方が編集者としてついてくれるという話(元々出版社の社長だった方が、リタイア後に息子さんと小規模にやっている出版社)
  2. 先ほどのお話(=本書)
  3. デザイン系の出版社

これはできないですよね。1つは「ちょっと待ってください」と無期限延期にさせていただいて、デザイナー向けの本と本書の2つを同時進行で進めていきました。

ではデザインの本はどうなったか。社名や個人名は出さないので言いますが、割と大きな出版社で、親会社も上場しているようなところでした。担当編集者の方がリストラに遭って辞められたんですね。話が来てから1か月後にはもういなくなるという感じで、企画が進んで8割ほど書いたタイミングでそれが起こった。

別の方に変わって企画自体は続いてはいたのですが、プロセスが品質につながらないような感じがしたので、それを言い訳にお断りさせていただき、最終的に1つに注力しました。

お断りした方は、PowerPoint で版下の目安になるもの——文字のサイズや文字数が実際の出版物とかなり似ているテンプレート——に文字を埋めていく作業だったんです。それでクオリティが上がるかは疑問でしたし、特にデザイナー向けというところでは難しいのではないかと思って止めてしまいました。

8年かかった理由と、翻訳のアウトソース

書ききれなかった理由の1つは、リサーチ対象が英語の本で、300〜500ページのものが何十冊もあったことです。それを全部読み込んで読み解いていかないと書けない。読むのに膨大な時間がかかり、期間だけで言うと8年ほどかかりました。

途方に暮れていたのですが、近年、生成AI が来る少し前に、Google 翻訳や DeepL といった AI 翻訳の性能がグッと上がったタイミングがありました。

そこでクラウドワークスで翻訳を依頼しました。手持ちの本を全部 PDF にして送り、一時的に貸し出す形で、「翻訳ソフトを使っていいから翻訳してくれ」と。80冊ほどをアウトソースして翻訳してもらい、上がってきたものをひたすら読んでいくというアプローチです。

今なら AI の性能がかなり上がっているので違うでしょうが、当時としてはあまり宣伝されていないやり方だったかもしれません。翻訳する部分をアウトソースできたのが大きかったと思います。

400ページ書いて、上下巻にできなかった

最終的に、いったん400ページで書き上げました。

私としては上下巻で200ページずつ出せないかと思っていたんです。そうすれば図版が50ページずつ足されても250ページになり、200ページが文章で50ページが図版という、文章と図版がバランスよく入る本ができる。

しかしこの目論見は失敗しました。「下巻」や「応用編」は、「上巻」や「基礎編」と比べて売上がガクンと落ちるというのが出版社の経験則としてあるらしいんですね。

では400ページをどうパッケージングするか。100ページだけ使って図版をたくさん入れることもできたでしょう。そこは編集者の方の個性や価値観に関係してくるところですが、「せっかく書いたものだから全部入れたい」ということで——当初の企画では250ページほどだったところを大幅に増やしていただいたのは非常にありがたかったです。50ページ削って、全部入れ込みました。

そのため図版が入っていない。加えて、自分以外の文献を参考にした場合はその図版に許可取りが必要で、コストも手間もかかる。しかもページに入れる余地がない(もう文章でいっぱい)。そこもなしという形で、今の体裁になりました。多少は図版を入れているつもりですが、「文字が多い」というのはレビューでも指摘されているところです。

本を通じて伝えたかったこと

① データ可視化は独立した分野である

データ分析には統計やデータサイエンスという確立した分野がありますが、それとは違う「データ可視化」という分野があるんだということを言いたかった。

データサイエンスの世界観の中では「分析の結果」や「プレゼンテーションとしての可視化」という話が多いと思いますが、独立したもう1つの分野として、ベン図的に重なる部分もあれば重ならない部分もあるということを提示できないかと。

データ分析の方が主流で、高等教育のカリキュラムにも統計やデータサイエンスは取り込まれています。それに比べてデータ可視化は取り込まれていない。独立した学部や学科があるかというと、これは海外もそうだと思いますが、ない。

すると、データ分析の本を読んでも、可視化でさまざまな達成をしてきた人たちの話に触れられることがない。その部分を取り上げたいというのもありました。

ただし「歴史を学ぶ」「知識のための知識」ということではありません。過去200〜300年で積み重ねられてきた理論があるのだから、それを現代の知に生かさないではないだろうと思ったわけです。

彼らの達成をすべて読むのはハードルが高い。難解だったり、当時の著者が夢中になっていたコンセプトがデータのコンテクストからはそれほど重要でなかったりする。それでも読むには乗り越えなければならない。そこをエッセンスとして取り入れ、現代の知として生かせるものになればというのが願いでした。

② チャートの分類を横断的に

一般的な分類は「数値のチャートを整理しました」というものが多い。しかしビジネスの問題解決の本を読むと、「問題をいろいろな角度から捉えるべきだ」という話が出てきます。では実際にデータを使い、チャートで表現しますという時に、その対応関係が実はない。数値のチャートに全部つながってしまう。

そうではなく、チャートの種類は実はたくさんあって、GIS と呼ばれる分野、ネットワークサイエンスと呼ばれる分野、自然言語の分野などにある。実際は閉じ込められていないはずですが、もう少し横断的に見られるようにできないかと考え、そういう整理をしました。

③ チャートの文法 ― レーダーチャートと平行座標は同じもの

データ可視化によるコミュニケーションを体系化できないか、というのがもう1つ。その1つが「チャートの文法」と名付けているものです。

1つのチャートを、アニメーションのように複数の層に分けて捉えるという考え方です。

  • 手前の層:データを表現するための図形の扱い方
  • 奥の層:チャートを描く空間のルール(スペース)

これらが重なると、お馴染みのいろいろなチャートになる。そうやってチャートを捉え直すといいのではないかということです。

例としてレーダーチャートを挙げます。複数の変数を同時に比較するもので、ここではコンビニで売っているヨーグルトの栄養成分(3つに絞ったもの)を表示しています。これは極座標系で、中心が原点、そこからの半径と角度に別の変数を割り当てているわけです。

この背景のスペースを違う形に変えると——まったく同じデータですが、折れ線グラフのお化けのようなもの(=平行座標プロット)になります。

では何が嬉しいのか。1つ1つの縦軸に栄養成分が割り当てられていて、軸の上でデータをフィルタリングできるんです。「タンパク質多め、かつ炭水化物少なめ」という、健康を意識した時のヨーグルトの選び方ができる。

これをレーダーチャートでできますかと言えば、実装も操作も難しいと思います。こうすると一見面食らうけれど、インタラクションをつけることでデータを探索的に見られるようになる

もう1つの例が時間の周期性です。通常の折れ線グラフは、過去のある地点から現在・未来へと時間を直線的にしか捉えられないので、周期性が見つけづらい。

2016年ごろにある研究者が作った極座標系のものは、中心が原点で、半径が気温(を変換した指数)、角度が時間の経過。アナログ時計の12時にあたる部分が1月で、1周回ると1年になる。1年という周期性で気温の温暖化を見ようとしているわけです。2月・4月と、月ごとに経年でどう変化しているかが把握できる。

これと折れ線グラフの違いは、背景のスペースを直交座標系から極座標系にしただけとも言えます。でもこれは Excel では作れないし、みんなが見たことがないものだった。だから2016年のリオデジャネイロ・オリンピックの開会式で取り上げられたり、後に NASA がリファインしたバージョンを公開したりと、非常に注目が集まりました。地球温暖化というトピックもあったと思いますが、珍しく、見たことがなく、周期性が捉えられるという点で。

でも言ってしまえば、スペースを変えただけでもあるということです。

このようにチャートを捉えることで——

  • チャートの機能を理解できる
  • いわゆる「詐欺グラフ」の問題が、図形の側にあるのかスペースの使い方にあるのかを切り分けられる
  • コンピューターによる可視化ソフトウェアの設計は今も「チャートの文法/グラフィックスの文法」が元になっているので、「なんでこんな関数があるんだろう」というところを遡って理解できる
  • 新しいチャートを作ったり、複数のチャートを組み合わせたりすることもできる

出版後の反響

出版第1週ではコンピューター書という枠組みの中でランクインできましたが、2週目以降は下がってしまいました。魅力的な書籍がじゃんじゃん出版されてくるので、あっという間に押し流されてしまったという感じです。

著者が見られるダッシュボードで Amazon のランキングを見ると、今年の夏から秋にかけてまた上がっているのですが、なぜなのかよく分かりません。大学の授業で使うため、予算が余って買うということなら2〜3月に上がりそうなものですが。

レビューは割れている

Amazon のレビューは高評価と低評価にちょっと割れています。低評価は「難しい」「分かりづらい」「冗長」「文字が多い」といったもの。それも分かりますという感じではあります。

どちらかというと教科書的に書いた——それが私の裏目標だったかもしれません——ので、パッケージングが実用書っぽくキャッチーな感じになっている。そこで誤解というかギャップがあったのかなという感じはしています。

ミックさんという、SQL の本をたくさん出されている方をご存知でしょうか。あれだけの冊数を全部お一人で書かれているんですね。データ可視化の本も、これくらいたくさんの切り口があっていいのではないかと思っています。初学者から上級者向け、どこに注目するかでバリエーションがあっていい。

ですからこの1冊ですべてのユースケースに対応できるとは全然思っていなくて、今回はその中のどれか1つに当たる部分だったという話です。これ以外のものも今後執筆していけたらと思っています。

出版後の展開

オライリーさんが技術書に限定した読み放題のサブスクサービスをやっていて、本書も取り入れていただきました。学ぶ側としては定額で学び放題なのでとてもいいと思いつつ、教材を提供する側からするとこれがどうなるのかは正直分かりません。

音楽でも、ダウンロード販売(iTunes)の頃と、ストリーミング(Spotify、Apple Music)が主流になった現代とで、コンテンツを発信する人の取り分はどうなっているか。地獄の釜が開いたようなものなのか何なのか、結果次第ですが、注視しているところです。

また、日立アカデミーで10年ほどデータビジュアライゼーションの講義を担当していますが、そこで本もセットでついてくるという形に講義内容が変わりました。日立グループ以外の社外からも参加できます。1日で座学+ハンズオン+グループワークという内容です。

大学では教科書として使ってもらっていますが、いかんせん文字が多いのでそのまま進めづらい側面もあります。もう少しビジュアルに興味関心を引くところから進めていけるといいのではないかと思っています。

例えば、データを面積に反映させて地図を歪めるカルトグラムをインタラクティブに操作できるものを提供したり。東京だとあまり変化がないので青森を選ぶと大きく歪む、というように手軽にカルトグラムが作れると楽しいのではないかと。

地図投影法もそうです。メルカトル図法に歪みがあるのは有名な話ですが、人の顔を使っていろいろな投影法を当てはめられるようにしてみました。私の顔で恐縮ですが、投影法によって顔が歪む。Web カメラで撮影してその場で反映させることもできるので、遊んでもらえたらと思います。

本ではできないこうしたビジュアルでキャッチーな手法も通じて、データ可視化に興味を持ってもらえる人を増やしていけたらと思っています。

私の話はこれで終わりにさせてもらいます。どうもありがとうございました。

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